282話 箱庭世界①
「【箱庭創造】の魔術によって作られた次元の隙間に作られた隠し部屋のようなもんだな……」
「流石にあんな仕掛け分かりませんよ」
「だから教えてやっただろ?」
「でもここには入れなかったと思うのですが……」
そう言ってジロリと見やれば、師匠は肩をすくめると、「だから開けてやっただろ」などと宣った。
「ま、取りこぼしもなく新たな仕掛けも分かったんだし良いじゃねーか」
そう言いて健司が僕の背中をバシバシと叩く。
「そりゃ、そうだけどさ……」
そう答えはするものの微妙に釈然としない。それなら最初に教えてくれても良いじゃないかと。
もっともそれを口にすれば師匠ば決まってこう返す事だろう。
「簡単に教わってその場では解ったように思うが、そういう事はすぐに忘れる」
ごもっともではある。こういう高度は仕掛けはあまりお目にかかれないので、次回目にする機会があるときはすっかり忘れている事だろう。
いや、もしかしたら虚無の砂漠の遺跡で同じように見落としていたかも知れない。
「ここが凄い魔術で創られた場所なのは分かりました。ではこれを作った統合魔術師はどのくらいの実力なのでしょうか?」
目的のモノが出に入っていないし大人しく譲って貰えるようなものでもない。上手く先行者と鉢合わせて消耗させておくとしても相手の力量は知っておきたい。
「そうだなぁ……この箱庭の大きさから推測する定命者の魔術師では最高位だろうが……」
そう言って師匠は思わせぶりに言葉をきる。
「以前に迷宮都市ザルツで遭遇した迷宮主の不死者である死を超越せし者よりは弱いな」
なんとも判断に迷う回答をしてくれた。
その後もうちょっと突っ込んだ回答を纏めてみると、限りなく不死者に近い定命者で条件次第では一人で軍隊と渡り合えるとの事だ。ここで言う軍隊とは魔導騎士を含むという事である。
「――っ」
「おいおい……それって俺らでなんとか出来る相手なのかよ?」
先に健司に言われてしまったが、とても勝てそうな相手には聞こえない。古代人の統合魔術師の魔術適性は今の時代の現地人より遥かに高い。
これは姑息な手を考えないとマズいかも?
僕としては犠牲者は出したくない……。
「まずは家主の居ないうちに物色しようぜ」
どうするか思案していると健司が軽めの口調で物騒な事を言い出す。
「それじゃまるで泥棒じゃないか」
「いや、ゲームの主人公も冒険者も似たようなもんだろ?」
そう返して可笑しそうに笑いだす。
この箱庭の大きさは野球場ドームほどの大きさであり中央に向かってなだらかな丘となっており頂きには丸太小屋と煉瓦造りの倉庫が建っている。
丸太小屋はあまり大きくはないが構造的に屋根裏部屋がありそうだ。一人住まいか多くても二人だろう。
「瑞穂」
手信号で”警戒しつつ前進せよ”と指示する。瑞穂は短く肯首すると音も立てずに移動を始める。
【無音】の魔法を使ってる訳でもないのに足音が聞こえない。実力だけなら達人級ではないだろうか?
程なくして玄関口にたどり着き一呼吸後に振り向き手信号で”異常なし”と伝えてきた。
「どう?」
玄関口まで移動し待機している瑞穂に確認を取ると、「誰かいる。気配が弱い」と短く報告してきた。
観測者役の師匠をチラリと伺うが否定はしなかったので恐らく間違いないだろう。
正直言って何を以て確認しているのかさっぱり見当がつかない……。
”開けろ”と手信号で指示すると無造作にドアノブに手を触れる。するとカチリと解錠された。
無詠唱の【開錠】か!
扉を潜るとそこは屋根裏部屋付の1LDKと言ったところか。ベッドが見当たらない事から屋根裏部屋は屋根裏寝室だろう。
誰かいるとの事だったけど、屋根裏寝室で寝ているのか?
他に隠れられる場所と言えば浴室と便所くらいか?
「何処にいると思う?」
いつの間にか右隣で待機している瑞穂に小声で問う。
「あそこ」
僕の問いに瑞穂は迷うそぶりも見せずに屋根裏寝室を指さす。
その時僕の勘とも言うべきものが居間のテーブルの上の豪奢な装丁の本が目に付いた。
僕はそのまま何かに取り憑かれた様にフラフラとテーブルへと歩いていく。
そして僕はテーブルの上の豪奢な装丁の本を手に取った。
その本の表題は[高屋樹の生涯]と書かれていた。
まさか……これって……。
「未来日記?」
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今回でトータルで300話となりました。
予定では初期プロットの六割ほどを消化した感じでしょうか。
願わくば完走まで応援していただけることを切に願います。




