28話 最終試験③
一人で悩んでいても仕方ないので相談することにした。
「小鳥遊も魔法使って疲れてるだろうし、今夜は復讐戦を警戒して村の警護がいいんじゃないか」
巣穴の規模から再襲撃はないだろうと予想したものの広くはないとはいえ、不慣れな夜の森を移動して巣穴に攻め入るのは確かにリスクはあるかな。夜行性の赤肌鬼相手に夜間の襲撃とか危険だろうし。
健司の意見が妥当かなと思っていると、
「俺は今夜中にケリをつけるべきだと思うな」
そう言い出したのは御子柴だ。
「理由を聞いても?」
「既に二度依頼は失敗している。赤肌鬼が一杯いました。結構倒したんですけど、一部逃げられましたでは依頼人は安心も納得もできないだろ?」
確かに依頼人というかこっちの世界の住人の感覚だと赤肌鬼は駆除して当然という感覚だしなぁ…………。口には出さなかったが、こちらの評価の問題もある。
「さっきの戦闘で三匹逃がしたんだけど、今行くと警戒されてるか逃げ出す準備してるんじゃない? 明日行ったらもぬけの殻とかかもしれないし、行くなら急いだ方がいいと思うのだけど…………」
迷っていると和花がそう口出ししてきた。
実は答えは決まっているのだけどある事で迷っていた。
「和花は、後どれだけ魔法が使える?」
行くにしても無策では行けない。
「ん~…………。さっきの戦闘で【眠りの雲】を三回使ったから、あと一回かな? 無理すれば二回唱えられるとは思うけど…………」
同じ階梯の魔術でも攻撃魔術と補助魔術では脳にかかる負荷が違うのだ。無理すればとは気絶覚悟と言うことだ。流石にそこまではさせられない。
懸念している嫌な話は後にして作戦を立てることにした。
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案内役に村の狩人さんに同行してもらい森の中をゆっくりと進む。
可能性は少ないと思うが不意打ちを警戒して明かりを多めに用意した。はっきり言って目立つ。しかし夜目が利く赤肌鬼相手に不慣れなくらい森で不意討たれるのよりはマシという判断だ。
僕の魔術師の棒杖と和花の魔術師の長杖の先端に【光源】の魔術をかける。それと健司の腰帯に蝋燭角灯を吊るす。
そろそろ目的地の洞窟が見えてくるころだ。見張りが居ればこの明かりが見えているはずだから何らかの反応があるはずだけど実に静かだ。
いや、健司の板金軽鎧のガシャガシャという音がうるさい。
「もしかして逃げられた?」
そうだとすると面倒くさい。なぜなら安全を確認するために森の中を探索して居ないことを確認後に安全宣言しなくてはならない。しかも見逃しがあって再び赤肌鬼の襲撃があった場合は逆に虚偽報告で罰則を受ける事となる。
分かりやすい首領の首級を得られれば一番わかりやすいが、村での戦闘で殺した赤肌鬼呪術師は首級としては若干弱い。
「偵察に行ってくる」
御子柴がそう宣言すると洞窟へと音を殺して移動していく。
洞窟の入り口は人族が普通に立って入れるくらいの大きさだが、武器の使用はかなり制限されそうだ。中が広いことを祈りたい。
うろうろと入り口周辺を調べた後に手信号で問題なしと合図してきたので、狩人さんに半刻程待機して、戻ってこなかったら村に戻って組合に失敗報告してほしいと告げて移動を始める。
その時、
「御子柴!にげ————」
和花が叫びが森に響いたのと御子柴が背後から漆黒の頭巾付き長衣を身にまとった人物に斬られたのは同時だった。
御子柴が倒れこんだのと僕らが走り出したのはほぼ同じだった。
「野郎っ」
健司の三日月斧が黒長衣へと振り下ろされるがスルリと回避される。避け様に右手の三日月刀が翻り健司を斬りつける。しかし非力な一撃は健司の板金鎧に金属音だけ響き弾かれた。
その際に頭巾が捲れてその正体が晒される。
黒い肌、黒い髪、特徴的な長い耳…………。
「闇森霊族…………」
師匠の話では極稀に闇森霊族が赤肌鬼達を奴隷のようにこき使う事があるとは聞いていたけど完全に失念していた。
そりゃー経験の浅い新人冒険者が返り討ちに合うわ。
闇森霊族は健司の鋭いが雑な攻撃を身軽に躱しつつ何やら呟いている。
何か違和感を感じ和花の方を見ると口をパクパクしているが何も聞こえない。
「————————」
こちらの声も耳に入ってこない。魔法の抵抗は意識していないと掛かりやすいと言うが無警戒に相手の術中にハマり過ぎである。
この無能めと心の中で自分を叱咤する。
精霊魔法の【沈黙】か!
なら効果範囲の外に出れば問題は解決だ!
そう思ったのだが…………。
健司の罵声は聞こえるのである。
【沈黙】なら空間の音の動きが止まるので無音の筈だ。
そうか!【無音】か!
あの呟きは対象を魔術師風の僕と和花に拡大した【無音】だったんだ…………。
師匠からあれこれレクチャーされていたから知識としてはあったけど…………そうか御子柴が不意を衝かれたのは【姿隠し】か。
ならそろそろ魔法は打ち止めだろう。こちらも暫くは魔法が使えないし殴り合いとなりそうだ。
魔術師の棒杖を腰帯に差して代わりに片手半剣を抜く。手信号で和花には待機を命じて健司の援護へと走る。
そろそろ一章終われそうだ…………。




