279話 岩柱の遺跡-上部構造編④
2020-11-14 加筆修正
部屋にあるブツは多くは古代語で書かれており僕、和花、瑞穂以外では判別つかないものが多い。
まずは瑞穂には罠や偽装扉などを探してもらう。その間に僕らは書物などの確認を行う。
ざっと見て回ると統合魔術師ではあるものの研究書の多くは付与魔術系統に偏っている。
いま僕は付与魔術の研究がメインなので実にありがたい。
付与魔術は魔術を使えれば好きなものが自由に作れるわけではないから他人の研究書を見るのは非常に勉強になる。
片っ端から魔法の鞄に放り込んでいく。僕らが師匠から貰った腰袋型の魔法の鞄は容量が六畳間一室分ほどだが、あまりの本の多さに入りきらず和花の魔法の鞄に詰込みなんとか入りきった。これだけでもすごい価値だろう。現在の魔術は過去の魔術の歯抜けのような状態なのでこの手の本は魔術師組合垂涎の品である。
中身を読みたいが時間が惜しい。大集団との時間差は一日ほどあるし急がなければならない。
目的のモノを手に入れた後でゆっくりとと思わなくもないのだけど、僕の勘はここで取り逃すと手に入らないと告げている。
自分の勘を信じようと思う。
「あとは何かあるかな……」
そう呟き周囲を見回すと……。
「これ」
そう言って瑞穂が差し出してきたのは小さく装飾の施された収納箱だ。
鍵がかかっているようだが解錠はまだしていないようだ。
「解錠は時間もかかるしそれは魔法の鞄に放り込んでおこう」
「うん」
そう返事をして自らの魔法の鞄へと仕舞いこむ。
「あとは何かあった?」
「あれ」
そう返事をして指さしたものは家具であった。
ちょっと調べてみるか。
「綴る、基本、第一階梯、探の位、魔力、知覚、周囲、発動。【魔力探知】」
魔術の完成と共に僕の視界には無数の魔力の波長が見えるようになる。
「なるほどね……」
確かに瑞穂が言うように様々な家具から魔力の波長がでているが、人手もないし大きな家具は腰袋型の魔法の鞄には入れられない。
「残念だけど、あれらは諦めよう」
「ん」
取りあえず僕らは置いていく事に納得いったわけだが、不満を述べる人物がいた。
「おいおい。金目の物を置いていくのかよ?」
ダグである。
「うちの団体に入るのであれば僕の指示には従ってもらうし、あれらが欲しいというのであれば君らだけで自力で持って帰るんだね。それなら僕らは文句は言わないよ」
そう答えるとダグは不満そうではあったが諦めたようだ。意識が戻らない斥候のレルンや死亡してしまった戦士の遺体はどうするつもりなんだろ?
普通は死亡者は打ち捨てる事が多いとは聞くけどね
「ところでダグの装備はどうする?」
ダグが同行するとなると人面獅子の爪でボロボロにされた硬革鎧の代りを何とかしないと。
「いつもは板金鎧を着込んでいたんだが、この暑さだろ?」
ダグの言いようは察してくれよと言った感じだ。持ち物を見る限りは予備の装備を持っている感じはない。名前を聞いていないもう一人の死亡した戦士とは体格が異なりゲームの様に交換などは出来そうもない。
何方かと言えば健司と背格好が近い。
仕方ないな……。
「健司。昔使っていた板金鎧があっただろ? あれを出してくれ」
迷宮都市ザルツ時代に使っていた鋼鉄製の板金鎧が捨てずに残っていたはずなのを思い出したのだ。
背格好が近いとはいえ勿論そのまま身に着ける事は出来ない。そこは魔術の【調節】である。
健司が魔法の鞄から板金鎧を取り出し床に置く。それらに触媒である【魔化】した金属粉を振りかける。
そして僕は魔術の詠唱に入る。
「綴る、創成、第四階梯、変の位、調節、縮小、物質、対象、発動。【調節】」
問題なく完成した魔術が完成し健司の板金鎧が一瞬青白く輝き収束する。
たまに魔術が失敗するから毎回ハラハラするんだよね。
「ダグ、身体に合うはずだからそれを身に着けてくれ」
「悪いね」
ダグはそう言うと板金鎧を着込み始める。
武器は……。
彼が使っていた両手持ちの大鎚矛をそのまま使ってもらうか。
あとは……。
「待たせたな。ピッタリ過ぎて怖いくらいだぜ」
ダグが板金鎧を身に着け馴染ませるかのように動くのを眺めつつ考える。
時間のロスと呪的資源の問題をどうしたものかと……。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
一筆認めた紙を持たせたダグの一党が【落下制御】の魔術を使った後で降下していくのを見送った僕らは改めてこの遺跡攻略に乗り出す。
「さて、再開しよう」
現在分かっている事は塔の各部屋はダグの一党によってひと通り調べられている。
話を聞く限りでは使用人か見習いの部屋ではないかと思う。
あまり期待できないので塔以外の上部構造物であるやや大きな混凝土製の平屋の建物を調べてみようと思う。
瑞穂を先頭に建屋へと近づいていくと分かった事がある。
まずは鉄靴を履いた集団はこちらには来ていない。塔に入りどうやら地下へと直行したようだ。代わりにもう一組の集団がこちらに来たようである。
先頭を歩く瑞穂が立ち止まり手信号で”警戒せよ”と発してくる。
いま僕らが居るカ所からは建屋の入り口は見えないのだけど、見張り役の巨体がちらりと見える。
「食人鬼か……」
健司であれば倒せるだろうけど、出来ればさっさと退場してもらいたいなと考えていると――。
「私が仕留めようか?」
機械式弩に太矢を装填し終えた高杉三等陸尉がそう言って名乗り出てきた。




