278話 岩柱の遺跡-上部構造編③
2020-11-14 誤字脱字の修正。一部加筆。
健司はどうなった?
振り返ればもう一匹の人面獅子も三日月斧によって胴体を大きく割かれて倒れていた。ま、ゲームのように素材が取れるわけでもないから損壊具合はどうでもいいよね。
「わりぃ……。刺された」
そう言って振り返った健司を観察すると脇腹が赤く染まっている。
普段は頑丈な金属鎧を身に纏っていた習慣からか回避行動のタイミングを見誤ったようだ。
「ちょっと待ってて。瑞穂、そっちの黒衣の人族を治療して。和花たちは警戒」
まずは皆に指示を出しておき健司の治療に入る。
「綴る、拡大、第三階梯、快の位、活性、快気、毒性、霧散、発動。【毒癒】」
先ずは解毒の魔術を施す。魔術自体は完成したが僕の魔力強度が毒の強度を上回らなければ解毒は出来ない。
「どう?」
「なんか違和感はなくなったな」
「そうか…………。なら傷を癒そうか」
健司の幹部に手を添え再び詠唱に入る。
「綴る、拡大、第二階梯、快の位、克復、快気、治療、発動。【軽癒】」
魔術は無事に完成し暖かな光が患部を包み込むと瞬く間に修復された。
「今日はいくつか魔術を使ってるけど大丈夫なのかよ?」
「後衛の和花を温存しておきたいし構わないよ。それより健司は昇降機前で待機しててくれ」
「あいよ」
そう返事をすると三日月斧を肩に担いで昇降機前へと移動する。それを見送り瑞穂の方を確認すると無事に治癒が済んでいたようだ。
「助かったよ。人面獅子以外にも姿なき追跡者が居て真っ先に後衛がやられちまってな……」
黒衣の男は装備の黒さもあったのだが、南方民族であった。
ダークエルフの様に真っ黒の肌は純血種の南方民族だ。他民族との混血が進み純血種はかなりのレアだと聞いたことがある。高い運動能力に定評がある民族だ。
彼の隣で戦っていた戦士は運が悪い事に事切れていた。後衛の三人は息があるようなので瑞穂に応急処置をお願いしておく。
「こんなタイミングで悪いけど、ここへはどういった目的で?」
なんでこんな質問をしたかと言えば目的が同じであればこれ以上の助けはする気がないからである。狙いが違うのであればもうちょっと便宜を図っても良いと思っている。
「俺らは突如現れたと言われるここにお宝を求めてきただけだ。冒険者なら誰でも一度は未盗掘の遺跡を踏破して名をあげたいだろ?」
ある意味真っ当な意見ではあるな……。
何かを思い出したように黒衣の彼が口を開いた。
「そうだ。助けてもらって礼と自己紹介がまだだったな。先ずは助けてくれて感謝する。俺はグラーブのダグという。銅等級だ」
そう言って胸元から銅色の認識票を取り出し掲げる。
ダグが名前で、恐らくグラーブは出身集落の事だろう。部族名や集落名を名乗るのはよくある事だからね。
「あんた、謹厳実直のタカヤだろ?」
「会ったことあったっけ?」
「若くして成功した冒険者を知らない奴はモグリだろ? 十字路都市テントスで携帯糧食を買ったんだが覚えてないか?」
黒衣のダグはそんな事を言い出したのだけど記憶にない。
それを告げるとしょんぼりしてしまった。
程なくして瑞穂が応急処置を戻ってきた。ただ一つだけ残念な結果があった。後衛の三人のうち斥候の男が頭部を強打され意識が戻らないとの事だ。
残りのふたり、神官戦士の男と魔術師の男は意識を取り戻したそうだ。
「ダグたちはこれからどうする?」
「俺らはこの探索が終わったら解散する予定だったんだよ……」
ダグの話を聞くと神官戦士のルークは始祖神の聖戦士として再就職先が決まっている。
また魔術師のゴーズも貴族の顧問魔術師が内定しているのだとか。
死亡してしまった戦士も貴族の騎士見習いが内定していた。
彼らは全員が二十代前半でそろそろ定職にと考えていたところに勧誘の話があり、それぞれが自分の進むべき道を決めたのだという。ダグと意識の戻らない斥候のレルンは新メンバーを募って再始動を考えていたのだけど、最後に一山当てようって事でここに挑んだのだ。
「――ま、結果は惨敗だったけどな」
そう言ってダグは肩をすくめる。
さて、彼らにはここでの金目の物をある程度渡してお引き取り願おうか、それとも……。
「なぁ……俺らをあんたの団体に入れてくれよ」
実を言えばダグの提案は予想していた。うちとしてもそれなりに使える前衛はもう一人欲しかったのだが、斥候はいらないんだよなぁ。瑞穂が優秀なうえに万能過ぎてあまり必要性を感じないんだよなぁ……。
どう返答するか迷っていると、
「うちは優秀な戦士や術者は歓迎なんだが、斥候に関しては募集はしていないな。うちには優秀な斥候がいるだよ。彼も自分より遥かに年下の少女の予備人員とか矜持が許さないだろ?」
健司はそう言うと部屋を物色し始めている瑞穂を指してそう告げた。
予備の斥候という考えも頭には過ったのだけど、瑞穂は女性冒険者につきものの毎月のアレが軽いそうでほぼパフォーマンスが落ちないから予備の斥候の必要性をあまり感じないのだ。
「そうか…………。なら俺だけでもダメか?」
だがダグは僕らの想定外の事を言い出した。仲間の再就職先はいいのかいと思ったのだが……。
「これまでやってきた仲間をあっさり放ってかい?」
それは流石に薄情ではと思ったのだけど、冒険者の大半は仲良しグループではないからこういう考えもあるのかもしれない。
技量の立つ斥候であれば勧誘があるだろうけど、なかったという事は実力が評価されていないという事だろうか?
そう考えるとダグもと思ったけど、途中までとはいえ二頭の人面獅子の攻撃を捌いていたし実力は十分ある筈だ。恐らくは南方民族がハンデになっているのだろう。
南方は教育水準などが低く中原や東方では評価が一段階低く見られがちだ。どこでも人種差別はあるもんだな。人種じゃなく能力で評価しろよと言いたいけど一部の声の大きい連中が評価を下げ、結果として全体の評価が下がったんだろう。
どの世界にでもある事だ。
「意識が戻らない斥候のレルンをどうするんだい。置いてはいけないだろ?」
僕としては先発組との時間差が一日くらいあるのを気にしておりここで余計な時間を潰したくないのだ。
蚊帳の外に置かれている神官戦士と魔術師を見ると既にやる気がポッキリ折れている感じではある。恐らく早く戻って勧誘先に挨拶にでも行きたいのだろう。
ならこうするか……。
「下に僕らの平台型魔導騎士輸送機が待機している。ダグ以外は【落下制御】で降りてもらって待機してもらう。留守番役がいるんで一筆認めるよ」
もっとも彼らもここへ来るまでにそれなりに経費が掛かているだろうから手ぶらで帰るのは流石にアレだろうから戦利品の中からいくらか譲渡するという事で納得してもらった。
さて、話は纏まったんで部屋を漁るか……。
ブックマーク登録ありがとうございます。




