277話 岩柱の遺跡-上部構造編②
移動手段が昇降機しか存在しないので間抜け罠を仕掛けられている可能性もあるし、待ち伏せも考えなければならない。
魔法の鞄から【魔化】された石を取り出し床に放る。
「綴る、付与、第三階梯、付の位、触媒、従僕、石像、発動。【石の従者】」
そして魔術の完成と共に質量保存の法則を無視して拳大の石は体高37.5サルトほどの人型っぽい形状に膨張する。
続いて別の魔術の詠唱に入る。
「綴る、付与、第三階梯、付の位、共有、視覚、交感、対象、発動。【視野共有】」
完成したこの魔術は対象、この場合は先ほど用意した簡易魔像の石の従者と視覚を術者と共有する魔術だである。
ただ簡易魔像は知能はないに等しく事細かに命令しないと運用が難しい為にもうひとつ魔術を用いる。
「綴る、付与、第四階梯、付の位、従僕、思考、制御、交信、対象、発動。【従僕制御】」
この魔術は事細かに命令を出さなければならない簡易魔像の遠隔操作するための魔術だ。偵察に行かせるなら持って来いである。
因みにいくつかある簡易魔像の中で石の従者を選んだ理由は、高い防御力と打たれ強さがずば抜けている事と、人族を遥かに上回る怪力ぶりにある。その反面不器用で動きは鈍いが些末な事だ。
僕は石の従者を昇降機に乗せボタンを操作させる。取りあえず各階の状況が見たい。
二階は一階と同じように壁に沿って8つの部屋が並びいずれも扉が開きっぱなしである。広場には古代人の死体が転がっているが損壊具合がこれまでのとは違う。
これまでは直剣による傷であったがもっと肉厚なモノ、恐らく斧だと思われるモノで殺されている。他にも鈍器による陥没が無数ある。広場の床には鉄靴による傷も見当たらないので先客のうちで小規模な方、恐らくだが崖を登ってきた連中ではないかと予想する。
盗掘目的の冒険者であれば僕ら同様に上を目指す可能性は十分にある。
二階から離れ三階、四階と見たが部屋の数が減っていたこと以外は状況は全く同じであった。
期待はしていないが五階へとあがるとこれまでとは違っていた。目の前で戦闘が行われていたのだ。
戦闘は侵入者である軽装の冒険者たちが圧倒的に不利であった。五人組のようで戦士らしき男が二人が必死に戦っているが身に着けている硬革鎧もボロボロで明らかに押されている。床には生死不明で倒れている者が三名おり逃げたくても逃げれないと言ったところだろうか?
対して襲っている側は獅子の身体に蝙蝠を思わせる羽根を持ち、蠍系の尾を持つ老人の顔を持った魔獣人面獅子だ。高い知性を持ち邪悪な神の信者ですらある。極稀にだが魔術師のペット枠に収まっているケースがあると聞いた。
極めて強敵であり通常であれば銅等級あたりの一党でも苦戦すると聞く。それが二頭もいるのだ。
「どうする?」
迷った挙句に皆に相談する事にした。本音はすぐにでも助けに行きたいのだが、僕の冷静な部分がここで消耗するはマズいと警鐘を鳴らすのである。
「当然助けるだろ?」
真っ先に答えたのは健司であった。オジサンらもやる気満々である。人面獅子が強力な毒を持っていなければ僕も躊躇はしなったのだけど……。
どのみち多数決なら救助は決定だな。それなら――。
昇降機を呼び戻し、その合間に人面獅子についての説明を行うことにした。知識もなく突っ込むのは流石に無謀だ。
攻撃手段は獅子の前肢の鉤爪、蠍系の尻尾に毒がある。この毒は注入後に四半刻で死に至る。そして邪悪な神の信者であるので闇の奇跡を用いる。文献では高司祭級との事なのでかなり危険だ。
「それじゃ行くよ」
説明を終え昇降機に乗り込む。扉が開いたら不意打ちされる事だけは避けたい。念のために一階の広場に石の従者を配置しておく事も忘れない。
昇降機が五階に到着し扉が開くと、最悪の事態は避けられた。黒衣の戦士が人面獅子二頭を相手に踏みとどまっていたのだ。
「助太刀するぜ!」
そう叫ぶと健司が三日月斧で斬りかかる。だがその一撃は側面から蠍系の尾で叩かれて軌道を逸らされ床を叩くだけだった。
だがその一撃に脅威を感じたのか人面獅子は標的を健司に変えたようだ。
「助かる!」
黒衣の戦士は二対一の状況から解放され反撃に転じようとわずかな隙だった。
僅かに逸れた視覚の外から襲い掛かった蠍系の尾が脇腹に突き刺さる。僅かに遅れて瑞穂の[鋭い刃]が獅子の左前肢を斬り飛ばし、僕の打刀が蠍系の尾を切断した。
人面獅子は痛み苦悶の表情を浮かべながらも淡々と自らが信仰する神へと祈りを口にする。
「死の神よ。我が傷を癒し彼のもの達に傷を与えよ。【生命力奪取】」
精神を集中し体内保有万能素子を活性化させる。
人面獅子の祈りは通じず僕らは抵抗出来たようだ。特に痛みなどもない。翻って人面獅子の傷も癒えていない。
驚愕する人面獅子の額に瑞穂が[鋭い刃]を突き立てる。
健司はどうなった?
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