264話 砂塵の迷宮へ④
疾竜が選ぶ主人の基準がよく分からん。
「和花に関しては一番軽い瑞穂と二人乗りしてもらうか……」
いつまでも考えていても埒もあかないので代金として一頭につき3万ガルド、七頭なので21万ガルドを支払い世話の仕方や乗り方などを三日かけて習う事になった。
安めの魔導速騎が1万ガルドな事を考えるとかなり高額にも思えるが、魔導速騎も維持費が結構かかるし騎体寿命は安物だと五年くらいな事を考えると寧ろ安いのではと思ってしまう。
馬具ならぬ竜具の準備の準備などに半日かかるとの事で本日は一旦戻って翌朝から騎乗訓練となる。
「取りあえず今日の寝床を探そうか」
と宣言して探し始めたものの意外と数がない。交易路沿いの都市だからもっと宿屋があってもおかしくはないのだけど……。
平台型魔導騎士輸送機の居住区は本来は六人でも手狭に感じる空間なので宿屋を探さないと荷台の空きスペースで寝袋を使うことになる。
いまは乾期であり、時期的に夜でも293クロンくらいのため過ごしやすそうなので寝袋でも良いかと思いはじめていた。
上位地霊族であるバルドさん以外は暑さに対して耐性もなく師匠とメフィリアさんは平然としているがこれには訳がある。
師匠が身に纏っているのは魔法の工芸品の適温の外套と呼ばれる【温度管理】の施されたモノなのだ。
正直言ってズルい。
一刻ほど歩き回り分かった事は宿屋の数自体が少なく、代りに貸天幕屋なるものが多い事だ。
もう面倒だし野営で良いかと思い始めたのは木柵の外にポツポツと天幕が並び出したのを見たからだ。
僕らも騎内倉庫から天幕などを持ちだし平台型魔導騎士輸送機の傍に設営を始める。
防衛軍のオジサンたちは流石に訓練されており手早く設営が終わってしまった。この人たち、言語の問題さえ解決すればこの世界で生きていくのに苦労はしなさそうな気がする。
夜営の基本は三交代制だ。術者を六時間寝かせ精神的疲労を抜かせる。二交代にして全員が6時間睡眠とか基本的にはあり得ない。
何故なら設営準備や後片付けなどの時間を含めると動ける時間が大幅に減ってしまう為だ。そうなれば訓練なども出来なくなる。
三交代で一番つらいのが中番である。三時間寝て三時間野営して三時間寝るというサイクルだ。
さて、僕と和花が遅番になった。今回は警護用に多脚戦車は持ってきていないので、一応安全面の為に防犯魔術である【雷鎖網】、【星の加護】、【防虫】を周辺に施しておく。
そして予想以上に疲れたのか天幕に入りいつの間にか眠ってしまった。
起こされたのは一の刻を少し過ぎた頃だった。僕らと入れ替わるようにおじさん達が仮眠に入る。
周囲には結構な数の天幕があり見張りとか居なくても問題ないようにも思うのだけど、そう考えるのは僕がまだ日本帝国人気質が抜けきっていない証拠なのであろうか。
月明りだけで十分な明るさを確保している事もあり焚火はしていない。こういう一面砂しかないような地では焚火に用いる薪も安くはないのだ。
和花と会話もなく一刻ほどが過ぎ去った。沈黙を破ったのは和花であった。
「樹くん、誕生日おめでとう」
そう言われて自分がそろそろ誕生日を迎えたのだと思い出した。こちらの世界の暦では秋の中月の中週が僕の誕生日となる。これで僕も17歳となったわけだ。
「ありがとう」
「それと……これ、瑞穂ちゃんと用意したの」
そう言って魔法の鞄から取り出したのはかなり豪奢の刀装の施された一振りの打刀であった。
「バルドさんに打ってもらった白鞘の打刀があったでしょ? お父さまから頂いた高屋家の鍔を付けてきっちり刀装するんだって言ってたやつ」
刀身はオマケというか模造刀なので刀身を入れ替えて使って欲しいとの事であった。打刀は手入れの問題もあるので冒険者稼業では使いにくいのではと散々聞いている筈である。ただの豪奢な品ではないという事か。
「折角、樹くんと【簡易的な魔法の工芸品作成】の研究をしてるからそれを生かしてみたの」
かなり複雑な技法を用いて複数の効果を持たせることに成功した品との事だ。後で知識の共有をしなくては!
【品質保全】によって切れ味が落ちず【形状保全】によって刃こぼれが発生しても時間を掛ければ修復するといった効果がある。基本的には手入れ無用だ。
【高位威力強化】によって切断力が強化されるだけでなく、魔力を帯びたモノでなければ打撃を与えられない存在にも効果がある。
【魔力増強】によって魔戦技の【練気斬】の威力が増加する効果も付加されている。
万が一武器を取り落としてもによって【所持品召喚】手元に戻ってくる。
【調節】によって刀身のサイズが想定と違っていても勝手に最適化されるのである。
柄には呪符魔術の【放出抑止】の呪符が貼られている。こいつは僕の恩恵である開放による急性万能素子欠乏症をギリギリで防ぐリミッターの役割を果たす。
虚無の砂漠で【自爆】で失ってしまった師匠から貰った片手半剣の代わりにという事だろう。
「……本当にありがとう。でも、よくこれだけの効果を付与出来たね……」
改めて礼を述べたと同時に素直に感心したのだ。【簡易的な魔法の工芸品作成】という儀式魔術は効果を一つ追加するごとに難易度が飛躍的に上昇する。
「う、運が良かっただけだよ。瑞穂ちゃんにも手を貸してもらったからお礼を言ってあげてね」
「勿論だよ」
そう反したのだが、なぜ吃ったかが気になる。恐らく問い詰めても絶対に口を割らないだろう。ただ欠陥品を渡すような性格でもないから性能面に関しては信用している。
運が良かったと言っているが推測するに数多くの失敗作の末の完成品ではないかと思う。
「これは大事に使わせてもらうよ」
そう少なくとも【自爆】を用いる事には使わないと心に決めた。
「うん」
そしてまた静寂が戻る。
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朝食後まだ気温が高くならないうちに宿営地へと向かい疾竜の騎乗訓練を開始する。
手綱、鞍と鐙の付け方、乗り方、降り方、騎乗中の命令の出し方、他にも最低でも一刻は連続して騎乗出来るようにすること。余裕のある者は騎乗戦闘の訓練をする。
このレセップス砂漠は砂蟲の他に異種族の蠍人という上半身が人族、下半身が蠍という種族が存在する。好戦的な種族だという。他にも砂漠蜥蜴人や竜人族、妖精族の炎霊族などと遭遇する可能性があると説明される。
それらの対処法の説明などひと通り聞き疾竜の運用上の注意点をされる。
毎日ほどほどに運動させる事、水はあまり飲まないが食事は可能な限り与える事。空腹が続くと命令を聞かなくなるばかりか襲われることもある事などの注意を受ける。他にも最大戦速で25ノードほど出るので振り落とされないように注意することなどだ。
四日ほど留まり慣熟訓練も予定通りに終わり、和花に付き従うおじさん達の装備を決める為に職人街へと向かう。
防衛軍の装備は補充も修理も出来ないから以後は使わないものとして仕舞っている。武器に関しては防衛軍支給の戦闘用大型ナイフの他に当人たちの希望で機械式弩を十字路都市テントスで事前に購入してある。僕らの世界だと狩猟用の飛び道具で熊や鹿すら貫通する威力を持つ。ただし整備や維持が大変なので使い手は少ない。
防具は革鎧か硬革鎧の二択となるのだが、動きが微妙に阻害されることを嫌って彼らは革鎧を選択する。
今回は僕と健司は訓練用の硬革鎧である。
失った僕の武器の変わりはバルドさんが打った打刀に先日誕生日プレセントとして貰った刀装を移植した打刀である。予備として階段都市モボルグで購入した深紅の刀身の打刀も提げている。騎乗戦闘するなら柄の長い武器も欲しかったが使い慣れない慣れない武器をぶつけ本番で使うのも愚かと思って見送った。
空いた時間で旅装を買い揃え、その日は早めに寝て翌一の刻に起床し出発する。地図によると目的地までは三日ほどだという。
四連休で書き溜めするぞと思っていたけど、気が付けばひたすら横になっていただけだった気がする。
皆さまは有意義に過ごせたのでしょうか?




