262話 砂塵の迷宮へ②
砂塵都市レリウスに到着した。
「なんか別の国に来たって感じねぇ……」
そう言って和花が踊るように軽やかに身体をくるりと廻し周囲を見回す。熱砂対策で着込んでいる頭巾付き外套の裾が翻る。
隣りでそれを眺めていた僕も釣られるように周囲を見回す。まず都市を囲う長大な石の城壁がない。一応は防衛用と思われる木柵が張り巡らされてはいるどれほどの効果があるのだろう?
更にどの都市にも当たり前に置いてある魔導従士すら置かれていない。木柵の隙間から見える住居の半分ほどが超大型天幕であり残りは干し煉瓦を積んだ平屋である。
中央部の小高い丘には3サートほどの石壁に囲まれた領主の館がある。一見するとちょっと規模の大きい村にも思えるが、それでも人口三千人ほどおり決して小さな都市ともいえない。
僕らの感覚だとこの規模で都市とは呼ばない感覚だが、師匠の話によると人口が四桁になると都市と呼ばれるそうだ。
まぁ~ウィンダリア王国と言えば結構近代化しており小洒落た印象の場所が多いだけに和花の感想も分からなくはない。
さて、僕らがここへ来た目的は冒険者としての勘を取り戻すリハビリと和花に付き従う防衛軍の下士官たちの実力の見極め、他には僕と健司の戦闘スタイルと武具の見直しである。
その為に鍛冶師のバルドさんと師匠とメフィリアさんが同行している。他に平台型魔導騎士輸送機での留守番役としてピナを同行させている。
天面の荷台には生活物資と重機代わりに魔導騎士を一騎積んでいる。[アル・ラゴーン・レセップス]と呼ばれる大陸でもっとも普及している名騎[アル・ラゴーン]の砂漠戦仕様騎である。
ここへ来る事が決まった時に急遽購入した騎体だ。願わくば巨獣などと遭遇しない事を祈る。
平台型魔導騎士輸送機は都市への乗り入れができない為にピナとハーンを留守番として残して僕らは主門へと歩いていく。師匠が同伴しているので特権を使って入都待ちの行列に並ばずに通過する。
頭巾付き外套を身に纏い、頭巾を深々と被り粒子の細かいサラサラの砂への対策にがっちりと足をホールドできる砂上靴を履いている。日本帝国の様に湿度が高くないのが救いだが強烈な太陽光と323クロンを超える気温には眩暈すら覚える。
主門を過ぎ都市の外周部は超大型天幕ばかりであるが、これはレセップス砂漠で生活する遊牧民たちの仮住居なのだそうだ。
「こんな砂砂漠に遊牧民ってイメージ湧かないね」
和花がそう言うように遊牧に適した地形にはとても見えない。
「ここらの遊牧民は騎乗用の疾竜と食用の砂漠蜥蜴と共に定期的に営巣地を移動しているのさ。ここはその遊牧民たちの事務的な手続きや旅に耐えられなくなった老人などの住居だ」
そう師匠が説明してくれた。因みに干し煉瓦の家屋は商人や役人などの住居らしい。
疾竜とは発達した後肢による二足歩行型で尻尾を地面に付けず、体をほぼ水平に延ばした姿勢をしている。前肢はやや退化し小型化しているが鋭い鉤爪を持つ。
獰猛な肉食であるが幼体から飼い慣らすことで命令に忠実な戦闘用乗騎として育つ。体高は0.5サートほどであり、また体力も豊富で重装備でも一日に20サーグほど走る。跳躍力も高く騎手が居た状態でも断崖絶壁も駆ける。
戦闘力も牙による噛みつき、前肢の鉤爪による斬撃、長い尻尾による打撃、強靭な後肢による脚撃などがあるほかに竜人族の様に咆哮砲を放つこともできる。防御面でも強靭な竜肌は歩兵の小剣程度では傷つかない。現役寿命も長く三歳から五〇年は現役で活躍できる。
最大の問題は二つで、購入時の価格と維持費の高さだろうか。
そんな疾竜を買うのも今回の目的のひとつである。最近発見されたレセップス砂漠の中ほどに現れた岩山に聳える古びた砦が最終目的地である。
「今回の調査目的のウラカン砦でしたっけ? 記録上では大戦で土台の岩山ごと消滅だったんですよね?」
そう言って和花が前を歩く師匠に疑問を投げかかる。一応僕自身も遺跡関連は調べているのだけどそれらしい情報が出てこなかったんだよね。
「直に見た訳ではないから何とも言えないが、恐らくは幻覚魔術の奥義である【地形変異】あたりで周囲を偽装していたんではないかと思っている」
幻覚魔術は極めていくと本物と同じとなると言われており、幻覚の食事を食べて空腹感も満たされ栄養も取れるなどと言われているし、幻覚の崖から飛び降り地面に叩きつけられれば現実でも死亡するという。
「それは理解しましたけど、ならなんで平台型魔導騎士輸送機で行くのではなく、疾竜で行くのですか?」
ちょっと不機嫌そうに和花が言うのには訳があり、僕らは騎乗訓練とかあまりしていないので騎乗して長時間の移動ってかなりの苦痛なんだよね……。
あれは尻が痛い。
「砦へ行く道が存在しないのだが、75サートを登攀するのとどっちがいい?」
「疾竜でいいです」
師匠のかえしに即答であった。
暑さに辟易しながらも程なくして目的地の超大型天幕へと到着した。




