26話 最終試験①
2023-09-11 後期版の設定に変更。
大型魔導艦から降りるとそこは地平線一杯に壁があった。
「万里の長城かよ!」
健司がそう突っ込むのもよくわかる。
師匠の説明によると、ここから先の半島を完全に遮断する形で高さ12サート、奥行5サート、幅150サーグの壁があるのだ。
半島自体が中原にある大陸最大の国家ウィンダリア王国の飛び地なのだそうだ。
そして驚いたことに徒歩または馬車などで半島に入るための入り口はたった一か所しかなく、かなり警備が厳しいとの事だ。
僕らは徒歩で門前町まで移動する事となった。距離としては2サーグ程なので一刻ほどで到着だろう。
しばらく歩いて門前町が目前まで近づいてきたのだが…………。
「なんか汚くね?」
御子柴の感想に皆が頷く。
「それに臭いが…………」
そう言って和花が鼻を押さえる。
「門前町は下水設備がない普通の町だからな。だが多くの町があんな感じだぞ」
師匠の話によれば上下水道が完備されている町は古代王国時の都市を再利用しているからで衛生面でもある程度の水準を維持できるが、多くの町は上水道もなく下水というか汚水は道に捨てられるレベルらしい。それでもメイン通りは衛生面に気を使っているらしい。
「迷宮都市ってこの壁の向こうなんだろ? さっさと通過しよーぜ」
そう健司が言うのだが師匠から待ったがかかる。
「お前さんたちはこの町の冒険者組合の出張所で仕事を取ってきて茶鉄等級に昇格してからだ」
え? それって暫くこの町に留まれって事?
僕らの声なき不満を感じたかは分からないが、昇格のコツを一つ教えてくれた。
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師匠と別れて冒険者組合の依頼掲示板の前に立つ。
「赤枠…………赤枠…………あった」
目当ての依頼の内容は…………。
徒歩二日のところにあるサームという農村で赤肌鬼が目撃された。調査と脅威度が高ければ排除をお願いしたいという内容だった。
「なんでこれが赤枠なんだ?」
依頼票を覗き込んだ健司が呟くが、ここにはなぜこれが赤枠…………緊急案件なのかは記されていない。
「受付で聞くしかないだろうね」
そう述べる御子柴のいう事ももっともである。
ここであれこれ言っていても仕方ないので、受付カウンターへと向かい認識票を見せつつ依頼票を差し出す。
「この依頼を受けたいのですが」
まだ公用交易語の抑揚がおかしいけど十分通じるはずだ。
型通りの挨拶もそこそこに事務的に認識票の確認を行う。
よくよく考えると板状器具端末を使って何やら操作している時点で昔の魔導機器文明とやらは僕らのいた世界と大差がなかったかそれ以上に優れていたのだろう。それが今や中世レベルまで落ちてるわけである。
「この依頼は緊急案件で報酬額はかなり減っておりますがご理解の上での依頼受諾でしょうか?」
受付の女性はそう質問してきた。
「具体的な事は分かりませんが、どういう経緯で緊急案件なのでしょうか?」
師匠の話では赤枠の依頼は前金貰って依頼を受けた冒険者が失敗したか逃走した案件だとは聞いた。報酬は依頼者から出されるわけだが、村から出される報酬は安いうえに、前の冒険者が前金を受け取っているために、本来の報酬額から前金を引いた分しかでないのである。組合は報酬額の補填などは一切行わない。
安い分組合に貢献したとして昇格審査に考慮されるのだが…………。
「この依頼なんですが、実はすでに二組の冒険者が受けてまして…………。その二組ともに新人でして、軍資金が足りないからと支度金として前金を受け取っており、今回成功しても報酬金額は金貨1枚しかでないのですが、よろしいですか?」
「よーするにマヌケの尻拭いを格安で請け負えって事だな」
「その分昇格の評価に色付けてやんよって事か」
健司があえて日本帝国語でそう言う。
察して御子柴も日本帝国語で応じる。
「私たちはまだ軍資金に余裕があるし受けちゃおうよ。こんな臭くて不潔なところに長居したくないよ」
和花も日本帝国語でそう意見する。
「構いません。これでお願いします」
情報が不足しているが現地に行って村人に聞くしかあるまい。
「ではお気を付けて」
何やら板状器具端末で操作した後に受付さんはそう述べた。
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運がいい事にサーム村に行商に行く商人さんが見つかったので荷馬車に便乗させてもらった。勿論イザってときは護衛をするという条件付きだけどね。
徒歩だと二日近くかかる行程も荷馬車のおかげで日が沈む直前にサームの村に到着した。
「やっぱ馬車は欲しいよなー」
重装備の健司がそう感想を漏らすが、そもそも僕らは馬車を御せないじゃん。
村の方を見ると既に畑仕事を終えて夕飯の支度中なのだろうか、いくつか煙が上がっている。
「おい。あの黒煙は竈の煙じゃねーよな?」
「赤肌鬼に襲われてるんじゃないのか?」
「樹くん!」
御子柴、健司、和花が僕を見る。
「行こう! アリバーさん馬車を止めてください」
御者を務めてた商人のアリバーさんが馬車を止めるのも待たずに身軽な御子柴と和花が飛び降りる。
停車を待って僕と健司も荷台から降りて村へと入っていく。
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