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260話 帰還というより追放、そして消えた人

 トラブルがあった日からさらに時間が過ぎた。僕らは訓練や研究に有意義に時間を過ごしていたが、元の世界に帰還する予定の彼らは大人しくしているが、何もない場所だけにただ暇を持て余しており、かなりストレスを溜めこんでいた。

 娯楽として遊戯(ゲーム)はあるが、こちらの世界独特のモノばかりだ。数少ないものとして日本(やまと)皇国伝来の将棋と囲碁が存在するが、僕らの世界では十代で囲碁や将棋を趣味にするものはどちらかと言えば少数派だ。


 溜まり溜まった鬱憤うっぷんは、仕事中の女中(メイド)さんたちに当たり散らしたり船員(セーラー)に絡んだり、挙句には魔導従士(マギ・スレイブ)などに乗せろと大騒ぎをする始末であった。


 流石に無為に半月以上過ごせというのも酷かと思い黙っていたがこのままでは一波乱ありそうだ。


 そして問題は起こった。


 適性のない奴がいきなり魔導騎士(マギ・キャバリエ)、それも(ランク)の高い健司(けんじ)の騎体に乗り込み起動させようとしたのだ。結果は格納庫に断末魔の絶叫が響き渡り穴という穴から血を噴きあげ死亡したのである。

 脳核ユニット(ゲハーンカーン)との精神感応リスポスタ・エモティバの際に激しい拒絶反応が出たのだ。


 迷宮都市ザルツに居た時に隼人(はやと)が同じように拒絶反応で絶叫をあげて気絶した事があった。ただ隼人(はやと)はしばらくの後に回復した。


 彼は運が悪かった。


 彼は自業自得だ。


 そう声を大にして言えれば言いのだが……。


 師匠が滞在していたので【死者復活(レイズデッド)】を依頼したのだが、運が悪い事に「輪廻の渦に飲み込まれた」と言われた。即ち離魂(りこん)、完全に死亡したのである。


 その出来事によって死亡した彼、内記(ないき)くんの友人たちが船員(セーラー)達に襲い掛かったのだが、所詮は最低限の戦闘教練を受けた程度の彼らに勝てる筈もなく、程なくして取り押さえられ現在は縛って倉庫に放り込んである。



「なんじゃ、こりゃぁぁぁぁぁぁっ」

 艦内格納庫(カーゴスペース)健司(けんじ)の叫びが響く。健司(けんじ)が居るのは修理が終わって戻ってきた自分の騎体、[ウル・ラクナ]の操縦槽(ディポッド)開閉扉(ハッチ)の上である。


 あれを見たのか……。


 死亡した内記(ないき)くんの噴き出した血やら他の体液なんかが操縦槽(ディポッド)に飛び散っているのだ。


 バタバタしていてまだ掃除が終わっていない。



「やっぱり、もう限界か……」

 彼らをこれ以上待たせるのは無理そうだ。今回はやや血の気の多い男子が暴れたが。そのうち大人しい男子なども暴発するかもしれない。

「出来れば、あと二週間(二〇日)は待ちたかったんだけどなぁ……」

 そうボヤいてから近くに居た師匠に問いかける。


「あまり気が乗らないんだがな……」

 師匠の回答は時期が悪いという事であった。元々月齢の影響を受ける魔術なのだが、いま彼らを返すのは彼らの為にあらずというのが師匠の考えである。


「でも、そろそろ限界だと思うんですよ」

「ま、何もしないでただ時期を待てって言うのも確かに酷ではあるな……仕方ない」

 そう言うと暫し考え込む。


「明日の昼の実行しよう。こっちも【次元門ディメンジョン・ゲート】の準備が必要だ。それに――」



 ▲△▲△▲△▲△▲△▲


次元門ディメンジョン・ゲート】の準備が整ったという事で全員が十字路都市テントスそばの街道そばの草原に集められた。帰還組はやっと帰れると安堵しその表情(かお)は明るい。


 ところが【次元門ディメンジョン・ゲート】がある筈の場所には何もなく師匠以下、集団(クラン)主要メンバーが完全武装で揃っていた。


「随分物々しいですが何があるんです?」

 僕があれこれ思案している合間に和花(のどか)が疑問を投げかける。


「向こう側から襲撃を警戒して人手を呼んだ――」

 【次元門ディメンジョン・ゲート】の接続位置は好きなように変更するにはかなり難易度が高く、また入念な準備が必要の為に今回はいつも繋いでいる個所に接続するようにしたのだけど、接続先である高屋(たかや)本家の庭は現在は一部の自衛軍によって占拠されているのだ。


 師匠ひとりがこっそり赴くならともかく、それなりの人数を送り込むとなるとこちら側に襲撃に来られる可能性もある。

 そう言う理由で精鋭を配置しているのだそうだ。


 もう発動の準備は出来ているそうだ。挨拶もそこそこ各員は配置についていく。


「各位、警戒!」

 師匠の相棒の銀髪の美丈夫(フェリウス)さんが注意を促す。そして師匠の呪句(タンスラ)が響き渡る。


「――、発動(ヴァルツ)。【次元門ディメンジョン・ゲート】」


 師匠の呪句(タンスラ)の詠唱が完成すると銀色の半径1.25サート(約5m)円盤が地面スレスレに出現する。


「放り込め!」

 銀髪の美丈夫(フェリウス)さんの号令で【永久の眠り(スリープ)】で寝かせていた連中を船員(セーラー)達が二人一組で抱えて銀円へと放り投げる。その後は大きく銀円から離れて残されている帰還予定者たちと場所を入れ替える。


「解除しないので?」

 僕はそれを眺めながら師匠にそう尋ねる。

瑞穂(みずほ)魔力強度(インテンジター)程度なら小鳥遊(たかなし)家の術者(キャスター)でも解除できるだろう」

 まぁ~確かに師匠の言う通り瑞穂(みずほ)術者(キャスター)としての実力は平均的だ。

 日本(やまと)帝国では秘匿されているが術者(キャスター)集団が存在する。秘匿レベルは始まりの十家と呼ばれる高屋(たかや)家の僕ですら存在を知らなかったレベルだ。師匠に聞いて知ったくらいである。


 帰還予定の学生の一人が恐る恐ると銀円にと足を踏み入れた瞬間――。


 銀円から緑系の色合いの装備に身を包んだ三人の男が飛び出してきた。手には突撃銃(アサルトライフル)を構えている。


 一瞬驚きに身を固めるが、すぐさま目的を思い出し憎しみの籠った目で睨みつつ無言で突撃銃(アサルトライフル)の引き金を引いたのだった。


 無数の銃声と悲鳴があがる。


 僕が居た位置は銀円から離れていた事もあり、凄惨な光景を想像し迂闊にも目を背けてしまった。


 だが結果は想像と大きく違った。


 無数の銃弾はメフィリアさんの無詠唱(テルガン)の【高位防護圏(ハイテンス・スフィア)】によって防がれ、いち早く動いた師匠と銀髪の美丈夫(フェリウス)さんの光剣(フォースソード)の一閃で斬り飛ばされる突撃銃(アサルトライフル)が僕の視界に映った。


「押し出せ!」

 事態の変化に思考が追い付いていない自衛軍兵士に【魔力撃(ブラスター)】を叩き込んで銀円の中に叩き込んだ師匠が命令を発する。


 それによって残った帰還予定者が一斉に彼らの意思に関係なく銀円へと押し出されていく。恐らく【反発力場障リパルジブ・フォース・フィールド】の魔術によって無理やり押し出されているのだ。


 次々と学生たちが消えていき程なくして周囲には僕らや師匠の集団(クラン)の面子と船員(セーラー)達が残される。


 これで後は【次元門ディメンジョン・ゲート】を閉じれば終わりとなり、師匠は魔術の解除を行うと徐々に銀円が閉じ始める。武装した自衛軍の兵士たちが再び飛び込んできた。


 ここで悲劇がおこる。


 一番最後に姿を見せた兵士が身体の半分を銀円から覗かせていた瞬間に完全に銀円が消失したのだ。


 身体が銀円から完全に出ていない運の悪い兵士は下半身を元の世界に置いてきてしまったのだ。絶叫が草原に響く。


 運よく先に飛び込んできた者たちも僅かな隙をつかれて金等級(第八階梯)冒険者(エーベンターリア)たちにあっさりと抑え込まれてしまった。


 下半身を失った兵士は残念ながら亡くなったが、メフィリアさんの手によって蘇生を果たした。奇跡(ホーリー・プレイ)の【死者蘇生(リザレクション)】を初めて目の当たりにしたが失われた部位すら瞬時に再生するのには驚いた。


 最後に飛び込んできた四名の無謀な兵士たちは師匠の【永久の眠り(スリープ)】によって眠らされ運ばれていった。


 何か違和感を感じ周囲を見回す。


 ――居ない。



 一段落して周囲を見回してようやく思い至った。


「おい、九重(ここのえ)(たつみ)が居ないぞ?」

昔は通勤が面倒くさ過ぎて在宅ワークに憧れましたが、実際に在宅ワークを数か月続けると死ぬほど精神的にきついですわ。

面倒なバイク通勤があれはあれでメリハリになっていたんだなと……。


公開が遅くなりまして申し訳ありませんでした。

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