257話 それはお断りできない仕事ですね①
師匠に先導され艦内格納庫に到着すると船員達が整備台に注目していた。
なんか見慣れないモノが空いている整備台に固定されているのである。
「師匠、なんか数が増えているんですが……」
乗り手の数より騎体数の方が多いってどうなんだろう?
「あぁ……、依頼主から追加依頼の分だ」
忘れてたよと言わんばかりの言いようであった。
「はっ? 聞いてないんですが……」
これって拒否権がないやつである。
「そりゃそうだ。いま言ったからな」
そう言って師匠が説明を始める。要約すると、明日未明に依頼者であるウィンダリア王国軍のお偉いさんと魔導機器組合のお偉いさんがこっちに正式に依頼書を持って来るそうで、師匠はこっちに来るついでに使いっ走りも兼ねているとの事だ。
しかし魔導騎士の運用って戦争か巨獣以外はあまり使い道がないから何処で済ませようか…………。噂に名高い魔境の西方かな?
さて、追加依頼の内容は持って来た騎体の運用試験業務だ。
「まずはこいつだ」
そう言って師匠は骨格から推測するに普及している中量級の魔導騎士だと思うのだけど、異様にゴツイのだ。
「まずは増加装甲を施した[アル・ラゴーン]の運用試験だ。こいつの増加装甲は爆発ボルトを組み込んであり緊急時には増加装甲を強制排除出来る仕様だ。ま、強制排除も含めての運用だと思って欲しい」
そう言ってから、「何か質問は?」と聞くので疑問を口にする。
「それって模擬戦じゃダメなんですか?」
「もう模擬戦での試験は終わっている。後は実戦でのデータが欲しいそうだ」
ダメだった。そうなると戦闘の機会がある場所へ移動しなければならないなぁ。
「次は、あれだ」
そう言って指差したのは中量級の骨格だがやたらと手足が太い。結構不格好だなというのが感想である。
「こいつは新型の魔力収縮筋の検証騎だ。同じように実戦での運用データが知りたいそうだ」
よーするに新型の人工筋肉を装備したゴリマッチョな騎体の実戦での戦闘データが欲しいという事らしい。
そして次の騎体の説明に入る。その騎体は走破性を追求したというらしく、驚いた事に変形するそうだ。補助腕があり変形すると六脚型の多脚戦車形態になるという。
ここで疑問に思った。魔導騎士は格が高い騎体ほどヒト型の形に捕らわれるので異形だと動かなくなると聞いたのだが……。
「ま、そのあたりも含めて新型なんだよ」
疑問が表情に出ていたようで師匠がそう答えてくれた。
そして一番気になっていた騎体の前に移動した。
そいつは中量級の骨格だが背面に鳥を思わせる巨大な金属の翼を装備していた。どーみても飛ばないだろうし死荷重以外の何物でもなかろう。
「分かっているとは思うが……。こいつに求められているのは飛行テストだ」
うん。分かってた。無駄だとは思うけど取りあえず反論してみる。
「いや、どうみても飛びませんよね? これ」
「それも含めてのテストだな」
ダメでした。
恐らく事故率高そうなんで外部委託したのではなかろうか? これ流石に追加報酬請求しても許されるよね?
「んでもって最後がこれだ」
そう言って紹介されたのは普通の[アル・ラゴーン]であった。ただし装甲表面が銀鏡面であった事を除けばである。
銀メッキ仕様とかどこの限定プラモだよと突っ込みたかったが取りあえず沈黙を守った。
実験の騎体のベースに[アル・ラゴーン]を用いているのは恐らく最も普及している騎体であり信頼性が高い名騎だからであろう。あとコストが安い。
全部紹介したと言っていたけど後二騎ほど紹介されていない。
「あれ? あっちのは?」
「あっちの魔導従士は魔導回収騎の[メソッド]だ」
その騎体は余計な二次装甲は殆ど外されており、両肩に起重機を装備している。背面には簡易整備台も備えている。
これ、どうみても実験騎が擱座する事が前提だよね?
そうなると一番奥の真っ黒な細身のヒト型は…………。
「あれは瑞穂が自爆させた[イグニ・ザーム]の代わりの騎体だ。ベースが魔導従士から軽量級の魔導騎士に変わったくらいで機能面では同じだな」
その説明で知識の少ない僕でもわかった。素体の素性から更に運動性極振りの騎体になったという事だ。
それぞれの実験騎だが操縦槽のサイズ的に健司は窮屈そうだから除外して乗るのは僕かハーン、あとは瑞穂あたりが生贄かな?
「報酬の件などは明日の話し合いで提示されるんで要望があるなら纏めておくといい」
師匠はそう言うと、「戻るぞ」と言って歩き出す。
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半刻ほどが過ぎ外出していた者たちが戻ってきた。ただし一名増えていた。町で偶然見かけた男の上級生であった。
生徒会の副会長であった十二年生の荒巻先輩である。彼は流暢な公用交易語でこれまでの経緯を簡単に語ってくれた。
転移した先で彼を世話してくれた人物が老成した魔術師であったため【通訳】の魔術頼りでなんとか意思の疎通が図れたのだ。
老成した魔術師は特に名乗らなかったが村人からは先生と呼ばれていたそうだ。九か月ほど荒巻先輩と共に生活をして居たという。そこでひと通りの技術を身に着けた頃に真っ白な装束に身を包んだ集団に村が襲撃された。彼らには交渉の余地すらなく嬉々として村人たちを殺害し略奪の限りを尽くした。
荒巻先輩は老成した魔術師に救援を呼ぶように言われひとり村を脱出した。戻った頃には村は焼き払われていたそうだ。
それからは事前に話に聞いていた冒険者となるべく大きな町へと移動し登録し護衛業務をしながら今日まで食いつないできたという。
今日たまたま町に到着したら和花を見かけて声をかけたという。
「これからよろしくな」
そういってドカリとソファーに腰を下ろす。
客人として扱うけど……なんか嫌な予感がするのは僕だけだろうか?
右を見ると瑞穂と目が合う。珍しく不安そうな表情だ。
そして予感は的中する。ソファーにふんぞり返った荒巻先輩はこう宣った。
「これからは俺がお前たちの面倒を見てやるから大船に乗った気でいろ」




