幕間-15-2
周囲は多くの死体が転がる阿鼻叫喚であり生き残っている者も後背を気にしつつ必死に逃げている。
「早く逃げろ!」
青銀製の板金鎧に身を包んだ男が広刃の剣を振り人々の逃走を促す。
「殿は俺が務める。お前たちも早く逃げろ!」
「し、しかし…………」
粗末な革鎧に安っぽい長槍を持った青年が言い淀む。彼は村を守る自警団の一員である。青銀製の板金鎧に身を包んだ男の周囲には自警団の青年たちが八人が囲む。
彼らの村は手負いの豚鬼の一団によって襲撃され多くの死傷者を出したのである。自警団長も戦死し混乱していた彼らをまとめ上げたのがたまたま旅の途中で立ち寄った青銀製の板金鎧に身を包んだ男である。
「いいから行け。無駄に命を散らすな」
豚鬼の一団が迫ってくると一人が悲鳴を上げ逃亡をはじめる。それに釣られるようにひとりまたひとりと逃げ始める。
「やっと行ったか……。ゲオルグ、頼む」
逃亡していった自警団の青年たちを見て安堵し、それまで黙っていた相棒へと声をかける。
「任されよ。戦の神よ、この者に祝福あれ。【祝福】」
ゲオルグと呼ばれた大斧を担ぐ重甲冑を纏う地霊族は応じて自らの信奉する神に奇跡を願う。
向かってくる豚鬼の一団に向き直り自分を奮い立たせるように「行くぞ!」と叫ぶと走り出す。
「戦の神よ、ご照覧あれ。今ここに勇者たちの戦いを捧げる————」
地霊族は自ら信奉する神へと高らかに【戦いの詩】を謳い始める。
その効果は味方の戦意を向上させ一時的に技量すら底上げする。高揚する戦意のままに初歩の武技の歩法で素早く間合いを詰めると愛剣である[切裂きの剣]を横薙ぎする。
その一振りは易々と豚鬼の厚い皮下脂肪と強靭な筋肉の鎧を断ち斬り深々と内臓を切裂く。
先頭を行く豚鬼が倒れ伏す前に独特の歩法で次の豚鬼に肉薄する。
「はぁぁぁっ!!」
気合と共に魔戦技の【練気斬】によって威力を強化した一撃を繰り出す。
流石に魔法の武器であっても豚鬼を七匹も斬り殺せば血脂で切れ味も鈍る。鈍った切れ味を自身の体内保有万能素子を用いた【練気斬】で補完しているのだ。
既にゲオルグの【戦いの詩】の恩恵はない。彼も接敵され大斧を振り回しているのだ。
疲労が圧し掛かり次第に豚鬼の攻撃を避けられないようになる。鎧の表面で打撃を逸らさせる技巧にも限度がある。
「お疲れさん」
気が付けば二〇匹は居た豚鬼は全て屍となって転がっていた。荒く息をつく青銀製の板金鎧に身を包んだ男にゲオルグは労いの声をかける。
「戦の神よ。この者の傷を癒したまえ。【軽傷治療】」
そしておそらく打撲痕があるであろうと癒しの奇跡を願う。
「すまない。助かった」
青銀製の板金鎧に身を包んだ男は礼とも感謝ともつかない物言いでボロ布で刀身の血脂を拭き鞘に納める。
「礼には及ばんよ。儂は戦の神の僕、勇者と見込んだ者の従者である。この程度は当然よ」
そう言って呵呵と笑う。
「だが、本来は――」
「そこまでじゃ。あの者たちは他にも手を差し伸べる者はおろう。あまり自分を貶めるな」
男の反論を被せるようにそう説き伏せる。
「では、次なる救いを求めていくかね?」
「…………そうだな。戦士に休息はない、からな」
そうしてふたりは開拓村から黙って去っていくのであった。
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樹くんは皇が個人的に話があるとか言うので気を利かせて私たちは途中で別れたのだけど……。
まさか、行き過ぎた友情が愛に変わったとか!
いや、流石にそれはない、よね?
如何わしいお店に連れていったりしてないよね?
などと考えていると右袖がクイクイと引かれる。隣を歩いていた瑞穂ちゃんだ。視線をそちらに向けると、「大丈夫?」と尋ねてきたので、「平気」と返しておく。
「それで魔導機器組合へは何しに行くの?」
阿呆な妄想を振り払って前を歩くハーンに目的を訪ねる。
「樹さんからの頼まれごとで魔導歩騎の数を増やすんですよ。今回はその手続きっす」
ハーンは振り返ることなくそう答えた。そこで疑問が湧く。
「なんで鹵獲品を売り払って性能の落ちる現行品を買うのかな?」
「鹵獲品だと規格が合わないので修理するたびに現存している騎体を潰すことになるんすよ。性能の差と言っても騎体応答性くらいですし、運用しやすく数があったほうが便利という判断っすね」
その後も話は続く。ハーンはこの手の話をさせるととにかく長い。
魔導機器組合での話は上役が事前に周知していたようで受付係に謹厳実直の名を出せばすぐに応接室に通され契約の話となった。
私はと言えば専門的な話などはさっぱりなので適当に聞き流している。ザックリまとめると一五騎体制で運用し整備台と選択装備とやらも導入するという話だ。あとは運用データを渡すとかなんとか…………。
他にも損傷した騎体の修理などの話があったものの半刻ほどで片付いて暇になってしまった。
特に会話もなく三人で帰路についていると新聞売りの少女を見かけた。かなり片言の公用交易語で新聞いりませんかと必死に売り込んでいるが時間帯的に既に新聞を買うような人たちは居ないようで無視され続けている。
泣きそうな表情の少女は東方民族とも中原民族とも違う。私や瑞穂ちゃんに近い。西方の日本皇国から流れてきた娘だろうか?
抱える新聞の数は残り二〇部と言ったところだろうか。ここは人助けと思って全部買い取るかな。
「大変そうね。それ全部買い取るわ」
「…………」
泣きそうな表情の少女の前に立ち無言で私をじっと見つめる。
「あの…………貴女、知り合いに、似ています」
その少女の片言の公用交易語は取りあえず知ってる単語を繋いだだけにも聞こえる。やはり日本皇国の人かな? 先生に日本帝国語との違いは関西弁と標準語くらいの違いというから何とか意思表示は出来そうかな?
「私の言葉は理解できる?」
少しゆっくりとした口調で少女にそう尋ねた。するとハッと表情を変え必死に何度も肯首する。
そしてはっきりと私にも分かるようにこう言った。
「もしかして、小鳥遊先輩ですか?」
見知らぬ地で知り合いに巡り合えた言わんばかりの表情である。一瞬否定してあげようかと思ったけど、そんな事をしてもメリットもないし素直に肯首する。
先輩と呼ぶって事は集団誘拐時は中等部って事だろうけど、私の記憶には彼女の存在はない。
瑞穂ちゃんの方を見るがこちらの言いたいことを察したようで首を振る。
そうなると武家の娘じゃなくて一般の編入組の二等市民って事かな。流石に一学年三百人の顔と名前は覚えきれないわね。
「まずは貴女の名前とこれまでの境遇を聞かせて?」
努めて優しく言ったつもりである。そうは言ってもこんな路上で長々と立ち話というわけにもいかない。非常に目立つ。
「済みません。自己紹介が遅れました。私は八年生の四月一日陽葵です」
陽葵ちゃんかぁ。
先ずは売り上げを渡しに行き主人とお話しないとね。巧妙に隠されていたが私の目線だと陽葵ちゃんの首に奴隷紋が刻まれているのが見えるのだ。
主人の元への案内を任せ私は新聞に目を通す。
北に白の勇者、東に青の勇者、南に黒の勇者ねぇ……勇者って結局のところ英雄の事でしょ。
「しかし、みんな見事に顔を隠してるねぇ」
新聞に写された【念写】の画像はどの人物も面頬を降ろしていて顔は伺えない。
英雄と言っても誰にとっての英雄なのだろう? 例えば白の勇者は北方の神聖プロレタリア帝国の住人にとっては神の如き人物だと聞くけど、他の人からすれば極悪人だし。青の勇者は弱者を積極的に救っているけど、お供の地霊族と二人だし、黒の勇者は情報がないけどどんな人物なんだろう?
そんな益体もないことを考えているうちに陽葵ちゃんの主人の元に到着した。
主人との交渉はすんなり終わった。金貨二〇枚出せば売ってやっても良いと宣うので大金貨を一枚放り投げてやると嬉々として証文を差し出してきた。さぞかし懐が潤ったのだろう。
その後は奴隷商へ向かい証文を渡し解約の手続きを行い総合商店で身の回りの物をいくつか買って戻った。
陽葵ちゃんから話を聞くのは樹くんが帰ってからだ。
あと一話続きます




