幕間-15-1
長くなったので分割しました、続きは翌日に予約投稿してあります。
「綴る、統合、極致、第十五階梯、固有、滅の位、光、光輝、閃光、白光、強化、変換、帯電、空電、運動、照射、波長、極性、放射、素子、凝縮、融合、縮退、解放、貫通、消去、投槍、投射、発動。【光破穿孔槍】」
長い詠唱からの魔術の完成と共に偉丈夫の水平に掲げた右手から閃光が大気切り裂き遥か先に存在する空間の亀裂へと吸い込まれていく。やがて光の筋が消えていくと亀裂は塞がっていた。空間を超えて標的である【次元門】の術者を仕留めたからだろう。
「かなり制御出来るようになりましたね」
傍で双眼鏡片手に成果を確認していた銀髪の美丈夫が感想を漏らす。
「威力に関しては全盛期並みになったが……。【高位防護圏】を使ってても右腕がこの様だ」
偉丈夫が不満そうに言い、目で示したのは自身の右手だ。肘から先が重度の火傷の様に爛れ、煙と共に肉が焦げる匂いが周囲に漂う。膨大なエネルギー放射のある【光破穿孔槍】の余波でこの様であった。
「ま、前世と同じ事が出来るとは思ってなかったが使い勝手が悪い事だ…………」
偉丈夫はそうボヤく。その問題の右腕も再生の効果によって修復していく。
「なんにしてもこれで並行世界からの侵略もあらかた終わりですかね?」
美丈夫はそう言ってこれまでの討伐を指折り数える。
「まぁ~立て直すのに数世代は必要だろうから当分は安心だな。問題は――」
「えぇ。樹君ら故郷の方々ですか……」
美丈夫も偉丈夫も高屋家の政敵である小鳥遊家が主導し集団誘拐したこの世界の犯人一行を倒しつつ、ついでに地球で枯渇しかかっている資源を分捕ろう、いや植民地化しようと画策している話は聞いていた。
希少鉱石、原油などはあちらの世界からすればほぼ手付かずに近いくらいの埋蔵量がある。また未開な異世界人なら人権無視で労働させられると皮算用しているのだろう。
二人してどうしたものかと押し黙っている所へ一人の半森霊族がやってきた。
「ヴァルザスさん。パシって来たけど使いっ走りには用はないって追い返されたよ。あと小鳥遊からこれを見てくれって」
半森霊族はそう言って預かった手紙を渡す。
受け取った偉丈夫は封を切りさっと目を通すと隣りに居る美丈夫へと渡す。
暫し思案したのちに半森霊族にいくつか指示を出すと彼にこう尋ねた。
「戻りたいか?」
尋ねられた半森霊族は逡巡したのちに訥々と自らの想いを話し始める。
「もうすぐ子供も生まれますし、俺は今の生活で十分ですよ。本来であれば妻と共々に晒し首だったでしょう。冒険者としての俺は死んだんですよ。…………ただ、逢わせてくれた事には感謝です」
語り終わった半森霊族、隼は満足げであった。
「なら、引き続き監視とフォローを頼むな」
「了解です」
そう告げると隼はスゥっと周囲の景色に溶け込んだ。
「取りあえず双頭の真龍の幹部会議を行おう」
「了解」
美丈夫はそう返事をすると乗員に指示をだす。
それを眺めつつ偉丈夫は呟く。
「まったく、これなら物語にありがちな魔王とやらの方が楽だな……。中途半端な連中が画策してて対処が面倒だ」
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「つい感情的になって飛び出してきたけど……ここはどこだ?」
男がいる場所は見知らぬ街の人気のない裏通りであった。構造物は混凝土造のものが多く母国の三等市民の住居街のようにも見える。一瞬だがいつの間にか故郷に戻ってきたと錯覚を覚えたが、何処からともなく聞こえてきた会話らしき声がここは故郷ではないと知らしめる。
高屋から現状を聞いた。その時の感情は自分たちがこれだけ苦労しているのにこいつはなんでこんな優雅な生活をしているのだという憤りだ。
同胞を探して故郷に帰してやっている。
こっちに残るなら援助してやる。
それを聞いて流石は始まりの十家と呼ばれるエリート中のエリートの家柄だけはあって他人をごく自然に見下すのだなと憤ったのだ。
だが、感情に任せて飛び出したところで自分はこの世界の言葉がまるっきり理解できない。
「そう言えば西に行けば日本帝国語が通じる国があるって言ってた気が…………」
この世界に来て不思議な力を得た。確か恩恵と呼ばれるらしい。
その恩恵のお陰で今日まで生き延びてこれた。頭の中で想像したものを作り出せるのだが、一年以上の使用経験で分かった事は詳細が分からないと造り出せないという事だ。
携帯糧食は何とかなった。水は再現できなかったが至る所に井戸などがあり脱水症状に悩まされることはなかった。幾度となく腹は下したが……。
装備などは冒険者と呼ばれるごろつきの遺体から剥ぎ取ったり村から拝借したりで何とかなった。
出来れば一緒に居た金玉くんと禿くんと再会し、なぜ自分が置いていかれたか問い詰めたい。
考え事をしつつ歩いており注意力散漫ではあった。いつの間にか生き物の気配そのものがなくなっていることに気が付いた。
妙な胸騒ぎがする。
その時だ――。
「お困りかな?」
男性とも女性とも判断しかねる声が背後から聞こえたのだ。慌てて振り返ると墨の様な黒い肌に長いまつ毛に彩られた紫水晶の様な瞳、腰まで届く銀髪という中性的な容貌の美しい人であった。
肌の露出の多い煽情的な衣装を纏ったその人は一瞬女性かと思ったが骨格が男であるようであった。
「…………美しい」
ごく自然にそう零していた。
その美しい男は右手を伸ばすと戸惑う日本の頬を撫でつつ再び口を開き先ほどと同じ事を言った。
日本は熱に浮かされたように、または何かに憑かれるようにこれまでの事を語り始める。
お互いがまるっきり違う言語で会話が成立していることに違和感すら感じていなかった。
「――君は私に全て委ねなさい」
「はい」
日本は熱に浮かされたような目でそう返すと美しい男の共に姿を消すのであった。
読者数不定なので分かりませんが、お待たせしたなら申し訳ありません。
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