25話 個別訓練③
2018-11-27 サブタイをミスってたんで修正
個別訓練開始から13日目
真語魔術の方にも変化が現れた。
「綴る。八大。初位。第1階梯。光輝。輝き。白光。発動。【光源】」
右手に発動体となる魔術師の棒杖を持ち術式を描き、左手で呪印を結び、呪句を口にする。
すると疲労感のようなもの感じたと同時に魔術師の棒杖の先端が白く輝いた。
「成功したな」
師匠のその言葉で初めて真語魔術が成功したことを実感した。
「やったー!」
思わず叫んで飛び上がってしまった。
「気絶するまで繰り返して、自分がどれだけ魔法が使えるか身体に刷り込んでおくといい」
そう師匠に言われて【光源】の魔術を繰り返す事、合計で7回で意識が飛んだ。
真語魔術が発動したので次の課題は魔術の暗記だ。
超人の師匠のようにすべて暗記って訳にはいかないので、第一階梯の魔術の中で利用頻度の高い魔術を選んで暗記する事となった。
実戦向きの魔術にしようか…………。
悩んだ末に暗記すると決めた魔術は————。
対象の魔法抵抗力を底上げする【抗魔】
対象の防御力を底上げする【防護膜】
対象の攻撃回避能力を底上げする【不可視の盾】
対象の武器の威力を削ぐ【威力減衰】
対象の武器の威力を上げる【威力強化】
光り輝く魔法の矢を作り出し攻撃する【魔法の矢】
そして初歩にして基本とも言うべき【魔力撃】である。もっとも【魔力撃】は元々無詠唱で使える唯一の魔術なんだけどね。
真語魔術を習っている和花と相談して決めてもよかったけど、それは後でゆっくり決めればいいよね。
「さて、忘れてはならないのが、基本的には特定の対象にかける魔術は対象を増やす場合は負荷が増えることだ。例えば【防護膜】を2人にかければ2回分疲労する。樹の場合は7人に同時にかければ気絶するから気を付けるようにな」
ゲームみたいに一党全体にかかる魔法とかないのが、こっちの世界の魔法は不便だ。基本的には個別か範囲のどちらかなんだよねぇ。
僕の場合は休憩込みで一日に使える魔術の数は10回くらいだろうとの事だ。ただし魔戦技の使用分は体内保有万能素子なのでこっちは体力を養おう事で対応するらしい。
昼食後は戦闘訓練だったのだが、ここにも大きな違いがあった。
いつもの教師陣がいないのである。
その代わり木剣を持った師匠が突っ立っていただけである。
「あれ? いつもの人たちは?」
「今日から俺が相手だ」
そういうとニヤリとした。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「これで今日は45回死んだな」
そう笑う師匠。
もちろん実際に死んだわけじゃない。
とにかく手も足も出ない。完全に師匠の掌で踊らされているというべきだろうか?
詰将棋のようにジワジワと回避スペースが削られていき気が付けば詰んでいるか、自棄になって距離を取ろうとしてもすかさず棒手裏剣が飛んできて回避ないし武器で弾くと既に師匠が懐に飛び込んできているという…………。
そして最も嫌らしいのがこちらの攻撃を躱しつつ器用に魔法を使うところだ。
先ほどもこちらの斬撃を躱しつつ器用に呪印を結び、呪句を詠唱し、こちらの攻撃のタイミングに合わせてスルリと懐に入り込まれて左の掌をそっと押し当てられた。
【感電掌】と呼ばれる師匠の改良魔術だ。
だが、流石に45回も死亡判定されれば僕が阿呆でも師匠の意図に気が付く。
これは僕の目指すべき戦闘スタイルなんだ。
もちろん僕と師匠じゃ体格など違う面は多々あるが思い返してみればそうとしか思えない行動も結構あった。
その後も師匠にはいい様に遊ばれて結局死亡判定は62回を数えた。
自信を取り戻し目標が見えてくると特訓も楽しく気が付くと残りの日数をあっという間に過ぎ去ってしまった。
特訓最終日の夕飯は珍しく四人揃った。
「樹くん変わった?」
隣に座った和花がそんな事を聞いてきた。
「そうかもね。なんていうか…………吹っ切れた感じかな? 和花はどうなの?」
「私は精霊契約も済んだし、真語魔術を使えるようになったよ。後衛は任せてね」
なら暗記した魔術が被らないように後で相談しないといけないね。
食事しつつお互いの特訓状況を語り合った。みんなそれなりに手応えがあったらしい。
食事も終わり食後のお茶を飲んで寛いでいると師匠が食堂に入ってくるなりこう述べた。
「明日は最終試験を行う。一党を編成し、仕事を受けて無事に戻ってこい。詳しい説明は明朝に行う」
言うだけ言うとさっさと食堂から立ち去ってしまった。
「これに不合格だと俺らどうなるんだ?」
健司がそう言ったわけだが、それは皆が考えた事だろう。
「あの人の事だし、失敗したら適性なしとみなして元の世界に送還だろうねぇ」
御子柴の意見はたぶん合っているだろう。
「お前らは魔法とかどれだけ使えるようになったんだよ?」
前衛担当の健司としては気になるところだろう。
僕と和花でお互いに暗記した魔術を公表しダブったものや優先度の低いものを決めていった。
「昔読んだなんかの小説で魔術師が毎朝呪文書を読んでる描写があったけどあれってすぐに使えるように必死に記憶させてたんだねぇ。魔法名唱えたら勝手に魔法使えるとか思い込んでたよ」
御子柴の感想を聞いて僕と健司も「同じ事を思った」と口に出し二人して笑ってしまった。
明日の試験とやらが無事に済むように祈りつつこの日はぐっすりと眠りについたのだった。
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