254話 売却、そして……②
夕飯代わりに軽めの食事が供されそれが終わると大物の競売が始まる。シュヴァインさんとしては意地でも今日中に終わらせるらしい。高額な魔法の工芸品が出品される。
これだけの数の魔法の工芸品が競売に供されることは滅多になく、しかもどれも高い需要の品物が多い。ここぞとばかりに競り上がっていく。
そして白熱した競売も最後の一品にして超大物が出る。[魔導師の長杖]である。魔術師の魔力を増幅するだけでなく念じれば手元に出現し、折れても再生し、術者の精神的負荷を軽減するという準伝説級の一品だ。金貨一〇〇〇枚から始まる。
因みに僕は普通の指輪型発動体を使っているので、僕が使うかという意見もあったのだが僕は魔術師ではなく魔戦士だという矜持もあり却下した。
瑞穂も同じような理由である。和花はメフィリアさんから譲られた世界樹の長杖があるので不要である。
最終的に白金貨三五枚で落札したのは遅れて参戦してきたラーフェン・デア・アルカード名誉侯爵であった。
この人物は魔術師組合本部の最高導師にしてウィンダリア王国宮廷魔術師であり、歴代最高と謳われたその能力と成果を以て例外中の例外である名誉侯爵を叙爵された人物なのだ。
組合に買い取らせたら金貨一千枚で買い取られていたのだ。思わず震えてしまった。
ここで一般の招待客は帰っていく。ある程度行き渡ったようで満足そうな人が多い。
ここからは特別招待客のみで行われる競売である。
これから出品されるものは巨人騎士や陸上艦などの大物だ。現金取引だけでは収まらないので何がしかの特権なりを付加させるのだ。
先ずは魔導強化服が二〇体が出品された。これは魔導機器組合の本部長が研究用に欲しいと豪語しており予定通りに落札した。ただし価格は白金貨五〇枚であった。果たして元が取れるのだろうか? ハーンに至っては再現できても性能的には売り込むなら一騎で大金貨一枚くらいでないと買い手が付かないのではと要らん心配していた。
次に出品されたものは一五騎の魔導歩騎だ。再現できた現用騎も未だに市場にほぼ出回っていない事もあり貴族と軍関係者で値のつり上げ合戦が行われた結果は軍務大臣であり、ウィンダリア王国元帥であるシュトレイム侯爵が落札した。価格は白金貨百枚であった。
補足しておくと起動試験は済ませてあり、一定の性能は維持していることは確認済みだ。船員達の感想は騎体応答性が現用騎より良好との事だった。
次に出品されたのが大型収容箱八〇基と水槽一六基だ。
これに関しては商人組合の本部長とシュトレイム侯爵で争ったが最終的に商人組合が落札した。落札価格は白金貨三八四枚となった。本部長曰く「価値を考えればこれでも安い」との事だった。
次に現れたのは六脚のやや大型の多脚戦車二〇騎だ。騎体性能は現用騎と大差ないとの事だったが、脳核ユニットの性能がよく現用騎では同じ脳核ユニットの再現は無理らしいとの事で価格が伸びた。
魔導機器組合の本部長が頑張ったが落札したのはウィンチェスター子爵であった。正直言うと王太子がこれを買って何に使うんだろうと思うのだ。
因みに落札価格は白金貨一二〇枚であった。
そして残り三品となった。最初に出品されたのは曳航してきた陸上艦だ。艤装は終わっていないが万能素子転換炉などの動力系は生きており現用艦より高性能なのが調査結果として出ている。方針転換でもしたのかウィンダリア王国は急激に増産体制に入っているものの陸上艦は建造に時間がかかる事もあり、ある程度作りこまれた船体は喉から手が出るほど欲しいそうだ。
四半刻の白熱した競り合いを制したのはシュトレイム侯爵であった。ウィンダリア王国の軍務大臣としてではなく恐らく侯爵の私兵で単艦運用するのではないだろうか?
落札価格は桁が変わって白金貨一三四〇枚であった。ここから更に建造費用が上乗せされると思うとお金があるところにはあるのだなと思ってしまう。
次の品は取りとなる巨人騎士だ。こいつの性能は乗り手を選ぶレベルというか乗り手の肉体的負荷を無視して性能極振りした騎体といった調査結果が出ている。また頭部に魔導魔術騎に搭載されていた人型演算増幅装置以上の高性能の人型演算増幅装置が内包されており査定でも百億ガルドとされていた。因みに普通に魔導機器組合に買い取らせると百万ガルドだ。お前らボり過ぎである。
男の子の浪漫が詰まった超高性能欠陥騎だが、こちらの招待客も腐ってもいい歳して男の子だったようで白熱した競り合いとなった。
因みに人型演算増幅装置が抜かれた魔導魔術騎と無人騎は騎体研究用に買い叩かれたとだけ明記しておく。
最終的な落札価格は白金貨四千枚となった。競り勝ったのは魔導機器組合本部長だ。
この時点でシュヴァインさんの見積額を超えたのだが現金が一括で支払われるわけではない。後で説明を聞いたのだが高額取引は基本的に一年間の分割支払いが原則だという。今回みたいな金額を現金で用意できないためだ。
さて、実は後四つ残っている。
ひとつは気象制御の円卓と呼ばれる魔法装置だ。これは魔術師組合から危険物扱いされており封印指定されてしまったのだ。
それでも百万ガルドで引き取ってくれるという。
あとは清流の宝珠と転移門の絨毯だ。これら二つは僕らで使うと決めたので競売には出さなかった。
そして最後が、神話級の魔法の武器である巨人騎士が持っていた片手半剣だ。銘を[豊穣の剣]という。
師匠から貰った文献にも載っているこの世に二つとない一品であり、汲めど尽きる事無く万能素子を放出する効果を持つ。文献では使い手にもよるが山をも断つと言わしめた威力を誇るとかなんとか…………。
この片手半剣の扱いは、ここに居る参加者で取り決められていたそうで現金は出せないが特権や優遇措置でとなっている。
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競売の翌日だ。
あれから話し合いとなり決まった事は――。
・三大組合がある都市での飲食や宿泊及び停泊の経費の僕ら及び僕らの構成員の全額負担。
・ウィンダリア王国の国境を跨ぐ際に支払う税金の免除。
・ウィンダリア王国内の空白地の一部を割譲。領地経営をする場合は団体の頭目である僕が王室に剣を捧げて叙爵される事が条件となる。
・魔導機器組合にて登録してある魔導機器の整備、修理及び部品代などの無償化。
・魔術師組合にて貸出禁止の禁書の無料閲覧許可。
・商人組合にて精巧な地図の譲渡。
あとは細かい手数料なども発生しなくなる。これだけあれば文句はないかなと判断し昨日は解散となった。
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そして本日、各方面から面会予約優遇措置の書状が届いた。団体口座への一回目の入金処理は既に終わっているとの事だ。
「なんか大変な事になったね……」
朝からソファーでゴロゴロとしてる和花がそう口にする。恐らく金銭的に困る事はないのではないだろうか? そうなると引退という文字がちらつく。
だがこの若さで、こんな中途半端なところで引退して後悔はないのだろうか?
次話でこの章は終わりです。




