251話 交渉する①
そういえば忘れていたけど魔導強化服の存在だ。魔導機器組合は小型の万能素子転換炉の再現に難航しているそうで研究用に高額で買い取りをしている。全身甲冑型のパワーアシストスーツの利用価値は高いと思う。
その日は特に事件もなく過ぎていき翌日――。
「来客?」
最初に頭をよぎったのは出ていった日本が戻ってきたのかと思ったのだが、奴はこっちの言語を全く理解できない。そうなると魔導機器組合のそこそこの地位の者だろうか?
だがその予想は覆された。
「ども、双頭の真龍から使いのフォーコンです。以後宜しく」
通された人物は開口一番そう名乗り胸元から認識票を取り出し掲げて見せた。
その半森霊族の男は銅銹等級、緑青色の認識票には間違いなく双頭の真龍所属を現わす表記がある。師匠の集団で銅銹等級の者を用いるのは珍しいというか稀有だ。かなり優秀なのだろうか?
だが、名前が森霊族語で隼とは珍しい名前だな。氏族名がないところを見ると、取替え子か人間社会で育ったんだろうか? なら名前の違和感は偶然だろうか?
この名前に違和感を覚えたのは、日本帝国人風に例えると、犬とか猫って名前になるからだ。奴隷制度のない森霊族にそう言った名前を付ける発想がない。
「親分たちは忙しいので俺が用件を聞きに来たんだよ」
使いであるフォーコンは早く用件を言えと急かしてくる。様々な知識を保有する師匠に用があったのだが使い如きには用はないんだよなぁ……。
どうしたものかと思案していると、和花が動いた。
「これ、先生に渡して欲しいのだけど」
そういって封蝋された手紙を取り出す。
「了解。責任を持って渡しておくよ」
そう言うと手紙を受け取り魔法の鞄に仕舞いこむ。
「よろしくね」
そう言う和花だがフォーコンを見る目が何というか微妙だ。和花は知らない人に愛想振りまく事はないのだが、この表情は……。
僕には見えない何かが見えてる。確か和花は呪絡と呼ばれる呪いが見える恩恵があったはず。
【使命】、【禁止命令】を受けている? 首に奴隷紋がないところを見ると自由民だろう。
気になるけど、それは後回しにしよう。
「出来れば師匠に会いたいのだけど予定は分かるかい」
「いまは時空侵略潰しで忙しいからひと月くらいかかると思うぞ」
そーいや時空壁の修復に伴って最後っ屁の様に他の物質界の生物たちが捕食やら略奪の為に来ているんだったなぁ。
いや、ちょっと待て…………。モグラ叩き? 明らかに日本帝国語だぞ…………。
なぜそこだけ公用交易語の時空侵略潰しを使わない。
あ、でも師匠とかから単語の逆輸入とか普通にありそうか。どうかしているな……。
「判った。わざわざ来てもらって申し訳ないけど僕の方は今回はいいや。ところで、バルドさんには連絡とれるかい?」
申し訳ないなと思っていたがフォーコンは特に気にした様子もなくバルドさんの近況を教えてくれた。
「あの人はいま工房に籠ってるからあと数日は連絡が取れないな。伝言があるなら手紙でも認めてくれ」
「判った。すぐに用意するよ」
僕はそう言うと一旦自室に戻りバルドさん宛ての手紙を書く。
二限ほどして居間に戻ると見知らぬ恰幅の良いおっさんが一人増えていた。
「私、魔導機器組合の十字路都市テントス支部で副部長をしておりますカーンズと申します。以後お見知りおきを」
おぉ…………副部長とかが下手で挨拶してくるとかどっかの物語のようだ。ま、冗談は兎も角として恐らく査定品のうちでもヤバめのモノを譲れという話だろう。
「お話を聞きましょう。お掛けください」
カーンズ氏に着座を勧めフォーコンに手紙を渡し、「ご苦労様」と追い出す。悪いけど使いに用はない。
長々とした社交辞令と世間話に四半刻ほど費やし、いい加減ゲンナリしてきたころに本題に入った。
「――命がけで回収してきたものをタダ同然で寄越せとは、随分な事を仰りますね」
「いや、申し訳ない。一応規則なもんで……」
「便宜すら図って頂けないと?」
「いや、申し訳ない。一応規則なもんで……」
カーンズ氏は先ほどと同じセリフを一字一句間違えなく繰り返した。
規則というが師匠から聞いた話ではそんな規則はないはずだ。そもそも命がけで持ってきたものをタダ同然で取られるのなら冒険者稼業の意味はって感じだ。
このおっさんはこちらが若年者なんで、たまたま未盗掘の遺跡にまぐれ当たりしたんだろうから地位をひけらかせばいう事を聞くと思っているのではないだろうか?
恐らくは買取を値切りまくって浮いた金額を自分の懐にポイっしてしまうつもりなのでは?
「わかりました」
「では、こちらにサインを…………」
そういってカーンズ氏は書類を取り出す。
「いえ、個別で好事家などを探して処理するので結構です。面倒なんで魔導機器組合を信じて一任しようと思ったんですが……大変残念です」
そうもっともらしく残念がって見せる。
「はっ!?」
カーンズ氏は書類を差し出したまま固まったのである。
「いや、それは困るのですが……」
予想外の返事だったようで困ったぞといった表情をしている。地位をひけらかしても僕が引かないので段取りが狂って困ってる感じか。商人ならこんな時は無表情じゃないのだろうか?
あ、カーンズ氏は商人上がりではなく事務方から出世したタイプなのだろうか? それなら納得もできる。
「そうですか。こちらも買い叩かれて困ってしまいますからね」
そう言って一旦沈黙を挟む。
「あ、そうだ! お互い困ってしまいますから、この話はなかった事にしましょう」
パンと両手を合わせ、実にいい考えだとばかりに声のトーンをあげる。無論はったりである。
この世界では支部毎の営業成績みたいなものはない。カーンズ氏の言う決まりが正しいのであれば、「どうぞ、他所の支部で」となる。
「それじゃ組合に依頼に行く?」
そこへ和花がタイミングよく追撃をかける。好事家を探す為に掲示板を利用しようという事だ。
「そうだね。時間も惜しいし行こうか」
「うん。行こっ」
満面の笑みを浮かべて僕の腕を取り居間を出ていこうと引っ張る。
「ま、待ちたまえ!」
カーンズ氏は声を荒げるとドタドタを床を鳴らし僕らの前に回り込んだ。たったそれだけで汗だくである。
――と、そこへ副長がやって来て「来客です」と告げる。気が利いてるのか既に案内済みだ。
「お久しぶりです。シュヴァインさん」
僕は分かりやすくはっきりとした口調で副長の後ろに居る人物に声をかける。
「高屋さん。ご無沙汰しております」
副長の後ろに居る人物、恰幅の良い中年はそう言うと会釈する。知り合ったのが結構前に感じるが、まだ数か月しかたってないのか……。
マネイナ商会の商人であるシュヴァインさんの声を聴いた途端にカーンズ氏はビクリとして、「ほ、本日はこれで失礼する」と捲し立てるとドタドタと踵を返して走り去っていった。
ウザいのが帰ってくれた…………。




