250話 戦利品の検討する
「これどうしよう?」
固まっている二人に問うものの恐らく答えは決まっている。とにかく仕分けするしかない!
戦利品を並べてある広場へと歩いていき報告書をペラペラと眺めながら思案する。
先ず問題は超高額査定の品だが、この世界だと実際の価値と買取価格は完全に別者扱いなのだ。査定総額950憶ガルドとはいっても買取不可案件のブツや強制定額買取案件のモノもある。また百万ガルド以上の値が付く商品もダメだろう。硬貨の発行枚数に限りがあるのと三大組合が、いや恐らくはその後ろに居る七賢会議の連中が一か所に富が集中する事を嫌い裏からあれこれと手を回し大幅に減らされるだろう。
個人で好事家などを探して話を持ち掛けたり競売を使うにしても捌くのにどれほどの時間を失う事か……。
師匠が言っていたが物々交換や何らかの権利と引換えなどの選択肢もある。
「ガラスの板は売りでいいのよね?」
「そうだね。僕らには不要……かな」
和花の問いに少し迷ったが肯定しておく。
気泡もなく透明な薄い板ガラスはこの世界では貴重品だ。1スクーナで金貨八枚ほどで買い取っており板ガラスだけで二〇〇枚ある。いつか建てる自宅用に何枚か確保しておくくらいだろうか。
「……大型収容箱も」
瑞穂がおずおずと意見の述べる。
「そうだね。あれは邪魔だから早めに処分したい」
商人にとっては垂涎の品だが僕らには必要性はあまりない。大型収容箱内の品がほぼ劣化しない仕様だが僕らなら魔法の鞄で代用が効く。
大型収容箱一基につき金貨一〇〇枚だが、魔導列車が使えるような大商人でもなければ買ってはくれないだろうから数も多いし買い叩かれるかも?
「大型収容箱の中身はどうするの?」
「いくつかピックアップして残りは売却かな」
報告書を見る限り日用魔導機器が多く、性能も現在の物と大差はないとの事で金額的には金貨二枚から一〇枚程度と結構安い。もっとも塵も積もれば何とやらで数だけは三〇〇点ほどある。
他にも当時の携帯糧食が木箱で五〇〇箱あるのだが、これも現在冒険者向けに売られている携帯糧食と特に違いがなく、ひと箱一〇〇食入りだ。買取はひと箱金貨一枚と結構買い叩かれている。
「売名目的で道行く旅人や冒険者に無償で提供してもいいんじゃない?」
「…………その後で集られる事を考えるとねぇ」
和花の売名目的云々は横に置いておいて悪い話じゃないなと思ったもののその後集り行為に辟易しそうだなと思っていると――。
「どうせ次の仕事で町を出るし問題ない」
集られて嫌だなと思っていたが瑞穂が言うように配るだけ配ってさっさと去れば済むことか。
殆ど反射的に瑞穂の頭を撫でる。頭を撫でられるのが好きなようでこうすると相好を崩すのだ。
「この魔法の工芸品はどうするの?」
ひとしきり瑞穂の頭を撫でて満足したタイミングで和花が報告書のある項目を指さし問う。
「そこに書かれている魔法の工芸品はそれなりに見かける品だし全部売るよ」
下級品級、中級品級、上級品級の魔法の工芸品が八〇点ほどあったが、僕らには不要なものも多い。
例えば下級品級の防護膜の指輪などは僕ら全員持っている。
その時、くいくいと袖が引かれる。
「ん、なに?」
「ハーンの分、忘れてる」
そう瑞穂に指摘されてハーンに装備させる分を考えていなかった事に気が付いた。戦力強化の為にいくつか見繕っておこう。
「でも、多くの冒険者が垂涎の品なのに、あっさり売っちゃおうって……人前じゃ言えないわね」
普通であれば分け前で揉めたりするんだけどね。これに関しては師匠の援助のお陰かな。
「さて、こいつらか……」
僕が見つめるのは拾ってきた多脚戦車や魔導歩騎である。性能的には若干現行品より高いとの事だ。。
その時、天啓ともいえる案が浮かんだ。
「こいつらは取っておこう」
「邪魔じゃない?」
「ちょっと使い道を思い浮かんだんだよ」
「教えてくれないの?」
「内緒」
「ケチ……」
そう言って和花はむくれてしまった。
「あれは?」
どうやって宥めようかと思案していたところ瑞穂が良いタイミングで話題を逸らしてくれた。
瑞穂が指差すアレとは小型の魔導速騎である。
幸いというべきか僕らは自前の魔導速騎を購入しており必要はない。
「ん~……。郵便業務を中心に活動している冒険者に格安で譲るかぁ」
「ん」
瑞穂もそれがいいと言わんばかりに何度も頷く。
「この装身具とかはどうする? 何か欲しいものはある?」
女性って装身具とか宝石好きだよね?
「私はいらないかなぁ……瑞穂ちゃんは?」
「いらない」
即答であった。
「なら、これらは女中ちゃんたちに欲しいものを選ばせよう」
「それは名案ね」
「ところで女性って宝石とか装身具って目がないと思ったんだけど……」
偏見交じりだが気になったので聞いてみる事にした。
「ある意味心の栄養ね。私はたまに眺めるくらいで十分かなぁ、それに…………」
和花はそこまで言った後一旦言葉をきる。
「好きな人が自分の為に用意してくれた物に比べたら、何の気持ちも籠ってないこれらの装身具なんてガラクタだよね」
そう言って瑞穂と「ねぇ」と頷きあう。
「そんなもんかねぇ?」
「そんなもんです」
僕の呟きに和花がそれが真理だと言わんばかりに答えたのだった。
「さて、話を戻そう。本命だ…………」
高額過ぎて処理の困る奴である。まずは二枚で一組の絨毯である。
これは転移門の絨毯と呼ばれるモノで絨毯に描かれた魔術陣同士が繋がっており回数制限などなく0.5立方サートの物体を移動させられるものだ。実は使い道は決めてある。
次の品は直径5サルトほどの透明度の高い水色の宝珠だ。これは清流の宝珠と呼ばれるもので水の精霊界と繋がっており、命令語ひとつで汲めど尽きぬ清浄な水を湧き出すものだ。これも使い道があるので確保である。
次の品は魔術師の長杖である。これは[魔導師の長杖]と呼ばれる強力な魔法の武器だ。ただ残念な事に和花はこれ以上の性能の世界樹の長杖を持っているのでこちらは売却する。恐らく高位の魔術師が飛びつくであろう一品である。
「さて…………」
そう口にしたものの何と言おうか迷ってしまった。
それは直径1サートの大理石の円卓だ。これは魔法装置である。強力な魔術を継続的に行使する為のブツである。その名も気象制御の円卓である。効果範囲も大きくハッキリって戦略レベルの気象兵器である。
強制買取品扱いなのでこれは大人しく指定額で売却する。無駄に逆らってもいい事はない。
魔法装置と言えば人型演算増幅装置の培養装置があったけどあれも強制買取品扱いであった。
大人しくいう事を聞くので魔術師組合には何らかの便宜を図って貰おうかと思っている。
魔法の工芸品はこれで終わりだ。
次は曳航してきた陸上艦だ。
そう言えば法律が変わったそうで長さ10サートを超える魔導騎士輸送機を以後は陸上艦という区分に変わるそうだ。
曳航してきた陸上艦だが研究用として魔導機器組合が引き取るそうだ。何か便宜して貰わなければ…………。無難なところだと騎体の修理などを無料にして貰う免状でも交渉してみようか。
そしてやはりというべきか巨人騎士を研究用として引き取り希望と報告書には書かれていた。ただしこちらは強制力はなく自分たちで使うなら登録証を用意するとあった。
魅力は感じるが、これはハーンと相談だろう。
そして最後の一品。もっとも高額なブツだ。巨人騎士が持っていた片手半剣だ。
この汲めど尽きることない万能素子を放出する品だ。要相談となっていたので恐らく何らかの特権なり地位なりと引換えではないかと思う。
「樹くんは何を望むの?」
「問題はそこなんだよね…………」
査定額から生半可な要望ではダメだろう。どうするか…………。
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