243話 探索四日目-暇なので研究する。
さて、今後の予定をどうするか?
先ずは僕と健司の部位欠損を再生するために大きな神殿のある町へと向かわねばならない。最短距離で行ける場所と言えば来るときも立ち寄った十字路都市テントスだろう。
この魔導騎士輸送機は現在過積載の為に速度はあまり出せない。恐らくは七日ほどかかるとみている。
その後はハーンに戦利品の鑑定に行かせて、僕らは神殿巡りして【四肢再生】の奇跡を使える司教を探さなければならない。
ゲームのように神殿行って金払えば直ぐにでもやってもらえるなら楽なんだけどねぇ……。
ま、高位の人物に面会予約もなしに行っても無駄だろうから数日はかかると思っておこう。
そして【四肢再生】の奇跡を施してもらって指先まで整うのに凡そ一週間ほどかかる。
その後は戦利品の売却と指名依頼の報告を済ませた後にハーンを日本皇国へと送りがてらに鈍った身体を鍛え直そうか。
あ~修理とかどうするかな?
あれこれと考えているうちに気が付けば昼食の時間となっており両脇を和花と瑞穂に固められ食事を食べさせてもらう。
正直言うと僕も健司の様に【永久の眠り】で治癒が完了するまで眠らせて欲しい……。
妙に密着する二人は肉感的とは程遠い娘らだが体臭と香水が良い具合に混ざった芳しい香りは僕には刺激が強い。今朝の出来事で自制心という名の抑制が壊れかけた僕には結構辛い。
今頃になって自分好みの公娼に溺れた隼人の心理が理解出来た気がする……。
そう思いつつ冷静な部分で恐らくこれ以上のアプローチはないだろうと考えている。多少耳年増とは言え和花も武家のお嬢さんとして貞操教育を受けている。そう考えるとこれでも内心では必死だったのではと思えば可愛いなぁ……とか思う。
昼食後、艦長の指揮にて魔導騎士輸送機は発進する。その速度は半速程度だ。
後はもう暇人と化すので鍛錬と言いたいところだが、右腕がコレだからなぁ…………。
そうして始めたのが付与魔術の勉強だ。第六階梯の魔術が使えるようになったので、ついに憧れの【簡易的な魔法の工芸品作成】が使える筈なのだ。もう【魔法封入】による簡易魔法の工芸品から卒業だ!
ただこれらの魔術は唱えれば欲しいものが作れるわけではないからね。想像力とかで何とかなるなら楽なんだけどねぇ。そんな訳で如何にして自分の求めるモノを作り出すかの研究が必要がある。
こんな暇な時でないと研究が進まない。【魔法封入】で作られた簡易魔法の工芸品と【簡易的な魔法の工芸品作成】によって作られる魔法の工芸品の大きな違いはそれぞれの魔術の違いだ。
【魔法封入】は【魔法解除】によって解除を試みる事が出来るが【簡易的な魔法の工芸品作成】によって作られる魔法の工芸品は解除が出来ないのだ。この差は意外と大きい。更に大きな違いは研究次第では複数の効果を付与できるのも大きい。
先ずは既存の研究結果を真似する事から始めて徐々に改変していく試行錯誤だ。
和花がメモを取り瑞穂が研究報告書の頁を捲る。
夕刻まで試行錯誤は続き周囲には無数の実験結果たる魔法の工芸品が転がっている。残念ながらどれも粗悪品級だろう。
魔導騎士輸送機はこのまま夜通し砂漠を進む。
そして夕飯後に指揮所から報告が入る。
恐らく出発時に頼んだ件だろう。
「どうです?」
「お、坊ちゃん。まだ続いてますよ」
指揮所に顔を出した僕に副長がそう言って外を指さす。
そちらに目線を向けると月明りに照らされた砂漠が見える。だがそれはこの際どうでもいい。
「あれか……」
それは砂漠に刻まれた一筋の道筋だ。それは研究都市まで続いている。
先日のあの戦闘の際に次元の切れ目に突き刺さった光線の通過した痕なのだ。
距離にして既に六サーグ以上伸びている。とても魔術とは思えない。何か大掛かりで強力な魔導兵器だろうか?
あんな凄いモノが存在するとかこっちの世界の昔の戦争とかは僕らの世界の核戦争並みに凄惨だったのだろうか?
因みにハーンに確認したが、「そんなすごいもん聞いた事ないっすね」との事だった。
「引き続き道筋沿いに進んでくれ」
そう指示し指揮所を後にする。
そして特に何事もなく二日が経過した。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「坊ちゃん、おはようございます」
六日目の早朝の事だ。砂漠を抜けたところで副長に呼ばれたのだ。
「――で、何があったって?」
「索敵員のルワンダが盗られた平台型魔導騎士輸送機を十の刻の方向、距離二サーグに見たと……」
この世界では北を零の刻と例えるので十の刻の方向という事は西南西って事か……。
「艦長、進路を十の刻へ」
そう言い捨てると速足で見張り台へとあがる。
「おや、坊ちゃん」
索敵員のルワンダが声をかけてくるが、その時僕は詠唱に入っていた。
「綴る、八大、第五階梯、動の位、重力、解放、疾駆、発動。【飛行】」
「先に行く!」
魔術が完成し【飛行】の効果によってフワリと身体が浮く。
手短に先行する事を伝えると返事も聞かずに飛び出す。風を切り瞬く間に平原に停められている平台型魔導騎士輸送機の傍に降り立つ。
上空から見た感じでは誰も居なかった。だが魔導魔術騎や無人騎が荷台に駐騎しており恐らくは居住区に潜んでいるのだろうか?
右手がない状態に一抹の不安を覚えるが、危険なときは上空に逃げれば問題ないはずだ。
開閉扉を開けようと手を伸ばすと勝手に開いた。
「えっ!?」
「やぁ。待ってたよ」
開かれた開閉扉の奥から姿を現したのは水鏡先輩であった。
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