241話 探索四日目②
おそらく都市で見つけてきたであろう大型収容箱が所狭しと積まれているのだ。中身はなんだろう?
「あ、樹さん。おはようございます」
声をかけてきたのは船員のカスベンである。再編するまでは一班班長を勤めていた者だ。
「おはよう」と返すと、「実は――」と報告を始める。
ニコニコとしながら話す内容は、昨日から一睡もせずにせっせと街中から価値のあるものを回収しまくったのだという。よく見れば他の船員も含め、キラキラした目でまるで飼い主に褒めて褒めてとせがむ忠犬のようだ。
なるほど……この物量はそれでか……。
理由は分かったのだが、被害はなかったのだろうか? ある程度知識のあるハーンが陣頭指揮を執っていた事だしハズレ品ではないだろう。ここは素直に喜んでおくとしよう。
被害報告はハーンに聞くとして。まずは船員達の労を労い仮眠を取った後に出発すると告げる。手放しで船員と喜びを分かち合いたいけど、立場上彼らとは一線を引かねば組織的にはダメなので感謝の意は一時金で示すとしよう。
そして先日からの損害確認を行うためにハーンを呼び出す。
「いい話と悪い話どちらから聞きます?」
程なくしてやってきたハーンは開口一番そう言ったのだった。
「なら悪い話から頼むよ」
上げて落とされるのは好きじゃないからね。
「まずはあちらを――」
ハーンが指し示したのは整備台である。そうして損害報告が始まる。
一番奥の整備台の前に鉄くずが積まれている。それは自爆した瑞穂が乗っていた騎体である[イグニ・ザーム]の残骸である。重要部品は失われ騎体も熱溶解によって原形を留めておらず整備台の前になければ単な鉄くずにしか見えない。再生すら不可能で一山いくらで売るしかない。
次に報告を受けたのは胴体部を大きく破損、それも重要器官の万能素子転換炉を破損した[キルアル]だ。こちらはジャンク屋に行けば部品がゴロゴロ転がっており部品同士の相性なども合わせやすく修理は容易いとの事だ。この騎体を扱う冒険者などはニコイチどころかサンコイチ、ヨンコイチの騎体もあるという。
次の報告は健司の重量級の[ウル・ラクナ]である。操縦槽が大きく損傷しており完全交換が必要との事。また金槌の様な前肢の攻撃により胸骨及び肋骨も歪んでおり修理には本格的な設備のある場所でという事になる。他の損傷は軽微で自己修復能力で回復するだろうとの事だ。
そして僕の騎体である[アル・ラゴーン改]の件だ。整備台に固定されているが、その姿は無残だ。まず左腕が肘から下がない。胴体に大穴が開いており操縦槽を貫通し背面外装板も貫いている。致命的だったのは胸椎及び右肩甲骨を大きく損傷しており健司の騎体同様に大規模設備での修理が必要だ。
他にも将軍型との戦闘でいつの間にやら右脚も損傷している。
最大の問題はこの騎体がいまだ市場に出回っておらず破損部品を何処から入手するかだ。
そこで隣の整備台に固定されているブツが関係してくる。
「おい、これって……」
それはアイリーンさんに盗られた素体だ。夜中に擱座した状態で発見したそうだ。
「それで、アイリーンさんは?」
「それがですね……。操縦槽の中は血塗れだったんですが肝心の騎士が不在だったんですよ」
喰われたのだろうか?
「恐らくなんすけど、騎体の頭部が破損しており状況確認のために開閉扉を開けた際に兵隊型に襲われた……可能性が濃厚っすね」
操縦槽の損傷具合からの推測だそうだが、その予想が大きく外れているという事はないだろう。盗人の末路というべきか……。
喰われたのだろうか?
いや、普通に喰われたよな……。
やっぱり拘束しておくべきだった……僕らの暴走で名誉やら地位やらを失い挙句に盗人と化して喰われて死ぬとか、ね……。
「ま、あの女の事情はともあれ、ある意味自業自得っすよ。樹さんは気にし過ぎです」
ハーンはそう言うのだが後味が悪い。ただ表情に出すのはやっぱりマズいね。気を付けよう。
悩むのも後悔も後だ。こうなる事は分かっていたはずだ。分かっていたはずだ。
「報告を続けて」
ハーンに続きを促す。
僕の騎体に関しては回収した素体とニコイチで問題は解決するとの事だ。
次は魔導歩騎の損害だ。残念ながら二騎が中破である。修復自体は問題ないという。たたし部品の調達が難しい。何せ最近市場に出回り始めたモノだからだ。
「あとはあの闇森霊族共に盗られた平台型魔導騎士輸送機っすね」
そう言って一旦口を閉ざした。
「騎体の損害は以上ですね。次ですが――」
そして続くのが人的損害だが、負傷者は出たものの治療も済んでいるとの事だ。もっとも重傷なのは僕や健司との事だ。
「そいつは良かった……」
「あ、あと周囲に万能素子が満ちているおかげで万能素子欠乏症の連中が回復しました」
「周囲の万能素子の回復はアレが原因か?」
僕はそう問い整備台に固定されている回収した巨人騎士に目を向ける。恐らくやつの持つ巨大な片手半剣だろう。
「間違いないっすね。ただ正確には回復ではなく放出される万能素子と失われる万能素子がほぼ等量と言った感じっす」
汲めど尽きる事のない放出される万能素子だが、同時に奈落への大亀裂へと吸われている……まてよ……。
「それってこのまま虚無の砂漠を離れたらどうなるんだ? 万能素子の放射が止まらないという事は砂漠を出たら今度は万能素子過剰症に苦しむことになるのか?」
生物、無機物に関わらず濃密な万能素子に晒されると変調をきたすと文献にもあった。迷宮都市ザルツでの出来事もそれが為の筈だ。
「それなら問題ないっす。専用の鞘に納めれば放射は止められるっすよ」
「それならいい……」
「なら悪い話はこれで終わりっすね」
一部後味が悪かったが思ったより被害は少なかった。なかなか上手くはいかないものだ。まぁ……古典ラノベの主人公の如く全能感満載の異能があるわけでもない単なる人族じゃこんなもんかな?
「さて、いい話を聞かせてもらおうか」
退院が遅くなり更新が遅くなってしまいました。
ブックマークありがとうございます。




