226話 探索二日目⑦
彼らは一般的に出回っている平台型の魔導騎士輸送機に魔導従士を一騎載せて僕らとは反対側の北側、奈落への大亀裂の方の門から入った事。
更に蜘蛛型生物はそっちから出現した事。奴らは次元を切り裂くように何もないはずの空間から這い出してきて問答無用で襲い掛かってきたという。
平台型の魔導騎士輸送機に魔導従士も破壊され命からがら逃げだし隠れていたところを瑞穂が発見し、牽制した事で戦闘に発展したのか……。
だが、こういった稼業だと不穏な気配がすれば先制攻撃も仕方あるまい。その事で瑞穂を責める事はしない。運が悪ければこちらが不意打ちを受ける可能性もあったのだ。
互いにそれが分かっているので、その件に関しては納得の上で不問とした。だが問題が一つある。彼らの移動手段がなくなった事だ。更に荷運び人が二人いたそうだがこの建屋に入る直前で肉壁となり逃げる時間を稼いだそうだが、そのおかげで物資がほとんどないという。
それに関しては僕らが余裕があるので分けてやることにしたが、破戒僧のアイリーンさんが居る事を考えると闇森霊族である彼らを活動拠点までは連れていけない。あの手の宗教家にとって闇森霊族などの魔族は滅ぼすべき仇敵だ。
こうなるとアイリーンさんを助けたことはマイナスだった気がするなぁ……。
取りあえず時間もないし歩きながら手短にという事で全員が回復したのちに清浄空間室へ移動しつつ情報交換を交わし分かった事は、蜘蛛型生物の構成は、僕らが戦闘した体高0.25サートの程のが兵隊、大きいと思った体高0.5サートほどのが兵長、外には城塞型と呼ばれる重装甲で体高0.75サートほどやつがうろついているという。今回は見かけなかったが他にも騎兵と呼ばれるモノや近衛型、将軍型、女王型が居るという。
奴らは女王型を頂点とした完全階級制社会の異世界人だという。そして分かった事だが彼らを蜘蛛型生命体と言うらしい。
「――随分と詳しいのだな」
師匠から色々と資料を貰い自分でも結構勉強したつもりではあったが、そんな存在は初めて聞いた。世界が変われば人の形も変わるという事かなどと思いつつ続きに耳を傾ける事にした。
「公式歴史書などには載っていないが、過去に何度か襲撃があったと長老から聞いている」
そして彼、闇森霊族のアドリアンはコチラの思考を先読みしたかのようにこうも言った。
「ちなみに【通訳】の魔術を試みてもいいが、意思の疎通は無理だぞ」
内心、なんで分かったんだとも思ったが、そんなことはおくびにも出すまい。
「何故だい?」
「精神構造の違い…………と言えばいいのかな? 連中からすれば俺らの様に血肉の通った生物は餌でしかないのさ。奴らにとって餌が意志を持とうが関係ない」
なるほど…………そのあたりは僕らと精神構造が違うな。少なくとも僕らは知性の高い生物、意思の疎通が出来るものを食そうとは思わない。たぶん…………。
「おっと、ここだ」
最初の目的地に到着した。彼らは依頼者によって人造生命体学の生体サンプルを収集する事だという。そしてここは唯一残っていた人造人間っぽい何かの研究区画だ。
「これじゃないな……」
だが、この人造人間っぽいものはアドリアンの求めているものではなかったようだ。
「何を探しているんだ?」
こちらの欲しいモノは大雑把に言えば金目の物という広範囲なので、アドリアンたちと争うくらいなら彼らの欲したものは譲ってもいいと考えている。
「依頼者曰く人型演算増幅装置だそうだ」
なんだそれは? と訝しんでいると、ハーンが何か心当たりがあるような表情をしている。
「ハーンは何か知っているのかい?」
「魔導魔術騎の頭部に搭載するヒト型の脳核ユニットの事っすよ」
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長々と蘊蓄を垂れるハーンの勘に従い未調査のもう一つの倉庫と思しき場所へと移動すると――――。
「これが魔導魔術騎…………」
10騎分の整備台があるが固定されていたのは二騎のみで、残りは整備台の下に崩れ落ちていた。手前の一騎は素体かと疑うほど細身巨大な肩装甲に金属糸の外套を纏った騎体だ。特徴的なのは魔法使いを思わせる三角帽を被ったような縦長の頭部だろうか?
もう一騎は頭部と肩装甲以外は隣に騎体と同じに見える…………いや、違う。
「あれ? 胸部に開閉扉が…………ない?」
「あ、それは無人随伴騎だと思うっすよ」
「無人随伴騎?」
「それは――――」
物理的防御力が紙ぺらな魔導魔術騎の警護や行使する術を拡大するための増幅器らしい。
らしいというのは時間が惜しいのにハーンの蘊蓄が止まらないので打ち切らせて調査に取り掛からせたためだ。ハーンが調査中は僕らは周辺の警戒をする。
八半刻ほどあれこれと調べ回っていたハーンが戻ってきた。
「こいつ以外は生体部品が腐ってしまったみたいっすね。時間があれば回収したいですが、とりあえず生きているのだけ持ち出しましょう」
備品などを入れてあるだろう収容箱もあるが時間が惜しい。安全を確保してから改めて調べたい。
「この魔導魔術騎はすぐに動かせそうか?」
「動かせるっすけど…………操作方法が全然違うんであまりお勧めはしないっすよ」
「おい、タカヤ。お客さんが来たぞ」
どうするか迷っているとアドリアンがやや焦りが伺え口調で声をかけてきた。ここでいうお客さんの意味は蜘蛛型生命体の事だろう。
「仕方ない…………一旦ここを放棄して活動拠点へ戻ろう。健司と瑞穂は前衛で進路を切り拓いてくれ。アドリアンたちは左右で、和花とハーンは中央、殿は僕が受け持つ。行くぞ!」
一瞬、闇森霊族のアドリアンが反対の声をあげそうになったがその前に外へとつながる大きな鎧戸をぶち破ってきて蜘蛛型生命体が侵入してきて口を閉ざす。
「全員走れ! 止まるな!」
「付いてこい」
それぞれが号令に反応して走り出す。先陣は健司である。大鎚矛を大振りに兵隊を吹き飛ばす。そしてその隙間を瑞穂が滑るように走り込み[鋭い刃]が閃き兵隊型を歩肢を切断して廻る。
八半刻ほどの逃走劇は脱落者なしで終わった。何故か奴らは途中から追撃を止めてしまったのだ。
「ま、考えても分かるわけもないか……」
次話は翌日にでも。
コロナで自粛中こそ更新ラッシュのチャンスなんだろうけど、在宅しろって言われて「はい」と即座に実行できるないんですよねぇ……。




