幕間-1
非常に短いです。
視点は和花さんになります。
疾走する魔導従士は暴れ馬かというほど激しく私たちの身体を揺さぶり続ける。
私たちは落ちないように必死に荷台に掴まりながらこの激しい中で舌を嚙まずにしゃべり続ける先生に関心しつつ耳を傾けていた。
細かい事情は聞き逃したけど要約すると、あの町の狂乱は戦争による狂気ではなく人為的なものであろうと言うのが先生の見立てのようだ。それにしても先生はこの激しい揺れの中でよく舌を噛まないものだとどうでもいい感想を抱いていた。
時速にして40km/hほどで半刻ほど走り続けた頃には皇と御子柴の二人は完全にぐったりとしていた。何度も吐いていたけど恐らく夕飯の中身は全部リバースしてしまっただろう。
自力で動く気力もない二人を先生が荷台から降ろし寝かせた後に樹くんと何やら話し込んでいる。
「二人とも大丈夫? 飲めそう?」
私はといえば皇と御子柴の荷物から水袋を取り出し二人に差し出す。
「悪いな」
「ありがとう」
「どういたしまして」
二人が水を含み一息ついたところで爆弾を落とす事にした。
「二人とも大丈夫?」
あえて大丈夫のところを強調した。
「助かった。落ち着いたよ」
「身体のほうはでしょ? 精神の方はどうなの?」
「「…………」」
僅かばかり逡巡したのちに皇が口を開いた。
「何のことだよ」
「町で人を殺った時に平然としてたけど二人とも実は結構キてたでしょ?」
沈黙が支配したがこの沈黙こそが答えただと思う。
「おっかしいなー。バレない自信があったんだがねー」
「俺も迫真の演技キリッだとおもったんだけどなー」
皇に続いて御子柴も白状する。樹くんは気が付かなかったけど、精霊使いとしての私には精神の精霊いわゆる人の感情の動きがある程度は読めるのだ。
「樹には内緒にしておいてくれよ。でないと平静を装った意味がないからな」
「そうそう」
ここは二人を立てて樹くんには内緒にしておこう。
「うん。わかった」
樹くんは覚悟が足りない。
優しいのだろうけど、それが通じるのは法や秩序がしっかりと整った日本帝国だったからだ。
必要なら手を下す覚悟がなければこの世界では生きていけない…………先生もそう言っていた。
果たして私には割り切れるのだろうか?
いや…………目的のためには割り切らないといけない。
私は酷い事をしようとしているのだから…………。
「落ち着いたみたいだし、私は行くね」
そう二人に告げると樹くんの元へと歩いていくのだった。




