218話 探索初日①
超過密ブラック労働中にて更新が遅くなってしまいました。
船員達に地上部の探索と使えそうなものの回収をお願いする一方で僕らは恐らくだが地下にあるであろう研究施設を探し出し、その内部調査を行う。
場所的に粘土状疑似生命体か魔像は居るかもしれないが、生物としての怪物が居る可能性はほとんどないだろう。
そうなると船員の武器は鈍器系の方が良いのだろうか?
僕らも次の機会までに魔法の工芸品としての鈍器を手に入れないとなぁ……。
「戦闘になるとこれまで以上に大変そうだな」
「そうだね。いままで当たり前のように使っていた技術が使えなくなるからねぇ」
大変そうだと口にする健司はまだいい。普段が三日月斧だし必要なら大鎚矛なども振るう。力任せに扱う武器に慣れている。だけど僕は殆ど剣一辺倒だったからなぁ。
方針としては船員達に指定した区画のみを調査をして貰う。襲撃された場合は無理な対処はせずに魔導歩騎を六騎と多脚戦車を配置してある活動拠点に釣ってくるように指示する。こいつらで倒せないような強敵が出た場合は大人しく魔導騎士輸送機に逃げ帰ってもらおうって感じに話を纏めた。
「ところで、話は変わるんだがピナの件はどうする?」
健司がどうすると聞くピナだが、そもそも健司が契約したタレ犬耳の亜人族の少女だ。留守番役として置いておく予定だったが、ある日突然草原の神の声を聴き奇跡を発現できてしまったのだ。
こんなところで無為に留守番役などやらせておくより神殿に預けた方が彼女の未来は明るいのではないだろうか?
「ピナとは成人までの契約だっけ?」
「ああ……未成年の亜人族の少女を人狩りにあって奴隷商行きだと思ったから保護って意味もあったんだがな……」
ピナの年齢は10歳であり、この世界の常識に照らし合わせれば働き始めてもおかしくない年齢ではある。だが市民権のない亜人族の少女に明るい未来はないのがこの世界の実情だ。
冒険者として登録し、僕らの団体に所属させて連れ歩くかとも考えたけど……。
「ま、俺らの常識とやらで勝手にあれこれ考えてもしゃーねーだろ。本人に告げて選ばせてやればいいんじゃねーの?」
健司の奴は早々に投げ出したが、確かに日本帝国の親のエゴで甘やかされた環境で育った10歳児とこっちの世界の10歳児じゃ結構違うし、この探索が終わったら一度ゆっくり話してみるかな。
「ま、今回は負傷者が出た際には頑張って奇跡を使ってもらおう」
そして次の話題へと移る。
「ところで例の拾ってきた女はどうなんだ?」
健司が聞いてきたのは拾ってきた女のことだ。装備を脱がせて負傷の度合いなどを女中たちに確認してもらっているのだが、この女性、結構健司の好みだったりする。
「打撲で気絶していたって感じかな。なかなか目が覚めないところを見ると打ちどころが悪いのかも? ま、なんにしても破戒僧が単独でここに来るってこと自体が異常だよ」
戦の神の聖職者が教会組織を破門されるとなるとなるとよほどの不祥事を行ったということだろうか?
政略で敗北して濡れ衣を着せられたとかも考えられるけど、政略にかかわるにはまだ若いかなと思う。
「俺の個人的意見としては厄介事を持ってきた気がしてならない。出来れば関わりたくねーな」
てっきり口説いてもいいかとか聞いてくると思っていたら逆だった。
健司好みの女性だったから口説かせろとか言いだすのかと身構えてしまったよ。聖職者は閉鎖的な教会で育った者が多いせいか純粋な人が多いから性欲目的で口説くと後々地雷らしいんだよね……。
怖い怖い……。
その後は話が脱線しこの探索が終わった後はどうするのかって事であれこれと意見を酌み交わしていると、こちらへと近づいてくる足音に気が付く。
この歩調は……。
「ねぇ、拾ってきた女の人が責任者に会わせろってごねてるよ~」
先ほどまで仮設風呂に入っていたのか上気したように赤くなった頬が妙に艶っぽく、夏用の薄着の平服に皮草鞋というちょっと緊張感に欠ける格好の和花だった。
健司と二人で思わず見惚れてしまった。
そして健司が、「これで胸が……」などと危険な台詞をボソッて呟いている。あえて地雷を踏みに行くスタイルは嫌いじゃないが、後処理する方の身にもなってほしい。
だが和花は機嫌がいいのか、はたまた聞こえていなかったのか、ニコニコと機嫌が良さそうなので、ひと安心しつつ立ち上がり、篝火の明かりに照らされつつ設営した救護用天幕へと歩いていく。
左には当然のように和花がくっついてい来る。
「随分と機嫌がいいね」
「そりゃ、数日ぶりのお風呂だったからねぇ。万能素子が薄いから【洗濯】の魔術すら使わせてもらえなかったしね」
確かにここ数日は濡れタオルで身体を拭くだけの生活だったからなぁ……なんてことを思っていると、
「樹くんもお風呂入ったら? 気持ちいいよ」
そう勧めてくるのだった。
結局、いつ襲撃されるか不安だということで丁重に辞退した。
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「……あっ、その……なんだ……世話になった」
天幕に入ると拾った破戒僧はベッドの上に座り食事中だったようだ。
看護を担当した女中さんが平服に着替えさせており脱がせた鎖帷子などは足元に畳まれている。細身だが鍛え上げられた筋肉質をしている。間違いなく戦士としての訓練を受けているのだろう。
だが、顔の造形などは品がありあきらかに手入れをしているあたり、そこらの村娘とかではあるまい。
「か……いや、感謝する」
手に持っていたお椀を置き一瞬、何かを言いそうになりつつ言葉を切り改めて感謝を口にした。
「いえ、こちらこそ装備などは回収できずに申し訳ないと思っていました」
砂走りの気を逸らすためとはいえ魔導速騎とかも放り投げちゃったしね。決して安い商品ではない。
「いや、命があっただけマシというものだよ。……ところでアレは見たのだろう?」
一瞬だが畳まれた鎖帷子の方に目が動き、やや躊躇したようだが、ズバリこちらが聞きたいことを話し始めた。
「そういえば名乗っていなかったな。私はアイリーン・ウル・カルナーヴァ。聖ウラン王国の聖騎士……」
そこで苦々しい表情となり言葉を切る。暫し思いめぐらせたのちに口を開いてこう続けた。
「いや、聖騎士……であった……」
「……あった?」
敢えて聞き返したが聖印に刻まれた傷を見た時点で察してはいた。
「鎖帷子を見たと思うが、私は戦の神の祭司でもあったのだが、不祥事により教会より破門を言い渡されている……」
そう語ると遠い目をする。過去に思いを馳せているのだろうか?
そうして時間が過ぎていく中、決心したのかこれまでの経緯を話し始めたのだ。
「今年の春のことだ……。聖ウラン王国の聖都ルーラで一つの誘拐事件が起こった。教会が保護する聖女であるハナゾノミユウという名の少女が攫われたのだ。そして私は彼女の護衛であった……」
顔を伏せ訥々と語り始める。
健司の嫌な予感が的中してしまった……。思わず隣の和花を見ると――――。
慌てて顔を背け吹けもしない口笛を吹こうとしている。
そういえば聖女に女の剣士の護衛がいるとは聞いていたけど、彼女がそうだったのか……。悪いことをしてしまった。
聖女の護衛という名誉ある役目を果たせない無能と教会上層部に査問会で謗られ、婚約者には逃げられ、親兄弟どころか親戚筋までやってきて一族の恥だと罵られ、伯爵家であったが降爵され男爵となり先祖代々守りぬいた土地を取り上げられ辺境の村へと転地する事となったのだという。
そして止めが信仰の対象であった戦の神の教会からの破門通知である。
そして失意の彼女のもとにイケメン枢機卿が現われ、
「復権したければ【使命】を受け入れ自らの力で汚名をそそぐがいい」と、まるでゴミを見るような冷たい目でかつての上司にそう言われたのだという。
考えるまでもなく彼女は【使命】を受け入れ、それによって彼女の奇跡は封じられた。汚名がそそがれるその日まで……。
そして家宝の広刃の剣を持ち出してひっそりと旅だったのだ。
だが、世間知らずの元聖騎士が従者もなくひとりで放り出され、情報収集のノウハウすらない彼女は散々騙され気が付けば路銀が底を尽きかけていたのだという。いま彼女がここにいるのは、危険度も高いが一攫千金を求めてのことである。
雇った手練師は砂漠に入った翌日の朝には居なくなっていた。家宝の広刃の剣と共に……。
魔導速騎で追いかけたが、彼女が目撃したのは、悲鳴を上げ砂蟲に飲まれる手練師だった。
家宝の広刃の剣は、いまも砂蟲の腹の中だろう。
「大変な目に合われたのですね。心中お察しします。何か協力できることはありますでしょうか?」
僕はごく自然に彼女の手を握り、自分でも不思議なくらいスラスラと白々しい言葉で語りかけた。左横では和花が噴き出しそうになっている。
「す、……すまない……」
頬を紅に染め目を逸らしつつそう口にする。この人チョロすぎません?
そりゃこれまで散々騙されるわ……。
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