214話 次なる目的地へ⑤
2020-05-05 誤字報告の修正のついでに加筆
予定通り半刻ほどで町の中心近くに位置する倉庫街の前に停泊する。
僕は冒険者組合に今回の自爆テロの件の予想を報告に上がり、その合間に船員には依頼の荷物を艦尾ドック式格納庫に積み込んでもらう。魔導歩騎があるおかげで重い荷運びなども直ぐに片付いてしまう。
タイミングが合ったからなのか、西方行きの隊商が便乗を申し込んできた。その数は三つで大型荷馬車が五台と荷馬車が一二台だ。
艦尾ドック式格納庫には十分に収まるし、今回の行程だと魔導騎士輸送機の性能なら距離的に二日程度なので指名依頼を出せば便乗させてもいいと言っておく。もちろん組合評価が欲しかったのもあるのだけど、なんか嫌な予感がしたのだ。急いでここを離れないといけない何かが……。
あわよくばタダ乗りと考えているのか? とも考えたのだが商人組合所属の正規の商人はまともの様で、「当然の話ですね」と冒険者組合へ指名依頼を出しに行ってくれた。
問題は彼らの護衛業務の冒険者だが、三組の隊商合わせて四〇人もいる。
申し訳ないけど荷台で荷馬達と寝泊まりしてもらう事となる。
それらの了承も取れたので僕は冒険者組合の受付で指名依頼の受領手続きついでに自爆テロの件を上役に報告する。
「……なるほど、確かにここが塞がれてしまうと大規模な陸送は出来なくなるな。そうなれば東方行きの物資は一気に滞って東方情勢はかなり荒れてしまいますな。……わかりました。それはこちらで対処しておきましょう」
組合の上役であるスティーブン氏はそう言ってくれた。
「謹厳実直の皆さんは指名依頼もありますし、そちらを優先してください」
上役であるスティーブン氏は最後にそう付け加えてくれた。てっきり強権で僕らにも手伝えと言ってくるのかと身構えてしまったよ……。
「余計な事かもしれませんが嫌な予感がします。お気をつけを」
「若くして死線を潜り抜け幸運を手にした方の忠告と思っておきましょう」
そう答える。上役であるスティーブン氏と握手を交わして部屋を出る。
のちにこの嫌な予感は当たる事になる。決して冒険者組合が手を抜いたわけではないにもかかわらずにだ。
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夜通しで移動し予定通りに二日で十字路都市テントスに到着する。ウィンダリア王国の東部に位置する交通の要所とも言うべき都市で東西へ走る交易路とウィンダリア王国北部の穀倉地帯を抜けて北方へと伸びる白竜街道と南方大陸へと向かう灼熱街道に分かれる。
僕らはここから北上するので西進する隊商の方たちとはここでお別れだ。
「お陰様で予定を短縮出来て助かりましたよ。次の機会がありましたら宜しく」
「こちらこそ」
そう言葉を交わして依頼者である三人の商人と握手を交わして別れた。
もっとも隊商がこれから向かう西方西部域までは、足の遅い荷馬車であればあと二年近くはかかる距離なので今回の短縮が果たして意味のあった事なのかは甚だ疑問ではある。
正直なところ足の速い船便を使えばかなり短縮できるはずなのだが、個人で船を持つのはかなりの財力が必要であるし、船便は船団を組まないと効率が悪いという問題点がある。
なんせ海賊やら危険な海洋生物に襲われるからだ。だいたい一割から二割が脱落するとの事で、彼ら程度の商人では維持費も厳しいが不幸な出来事に遭遇すると全損する恐れもあるのだ。
魔導列車は早いが、商人組合の上級役員の商会がほとんど独占しており木っ端商会ではなかなか難しいらしい。
今回はサービスということで隊商の面々や護衛業務の冒険者達の分を食費などは僕らが負担した。その減った食料などの補充は十字路都市テントスで各地から集まる名産品などを買い込んで補う。
これにはアンナやピナ、後は船室管理で女中達が居るので彼女らにお願いしておく。
あとは魔導騎士輸送機の整備や万能素子受容器への充填を行い二日かけて農奴村への運搬業務を行い虚無の砂漠へと向かう。
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「それではラーケン艦長、留守中の整備の指揮などをお願い致します」
「任されよ……」
そう答えるラーケン艦長が何か言いたげにしている。
「……? 何か?」
「作業は明日の昼過ぎには終わりますので、船員に一時金と休暇を与えたいと思うのですが宜しいでしょうか?」
そう意見具申されて思い至った。半舷休息を途中で打ち切って急いで出てきちゃったんだよな。これから虚無の砂漠に入るし出発前夜くらいガス抜きさせるかぁ。
「すまない。失念していた。……では、そのように計らってくれ」
「畏まりました」
ラーケン艦長が慇懃に頭を下げるのを見届け僕は指揮所をでる。家柄の関係で年上に頭を下げられる事は多々あったけど、実はあまり好きじゃないんだよねぇ……。
さて、僕らは僕らの仕事をしますか……。
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「は? 俺……、自分が冒険者に登録ですか?」
指揮所を出て向かった先の艦尾ドック式格納庫に居たハーンを捕まえて事情を説明した。
これから向かう虚無の砂漠の遺跡でハーンの魔導機器技師としての知識を当てにしたい事。遺跡での滞在時間はあまり長くないので危険を完全に除去してから調査する余裕がない事。また魔法の契約書の内容に記載されていない案件なので断ることも可能と伝えたのだ。
合わせて仕事に同伴した場合は、報酬はきっちり適正金額を支払う事も伝えてある。
「一応は戦闘訓練は受けたっすけど、どう考えても足手纏いじゃ?」
冒険者として遺跡へ赴く事には興味があるが、迷惑がかかるのではと考えているようだが……。
「技量はこの間見せてもらったけど、少なくとも僕の見立てでは憲兵隊などよりは技量はあるよ。度胸もあるしね。それに何も最前線で身体を張れって話じゃない」
あくまでもハーンの頭脳というか知識が必要なのだ。ぶっちゃけ自衛できれば文句はない。
ハーンを探索に同伴させるのには契約変更が必要だ。口約束で契約外の事をさせることも可能だが後々面倒になる。
契約が終れば自由民だが冒険者になれば権利は自由民より上だ。
僕らに同伴して等級が上がれば独り立ち後も選択肢が増えるって意味もある。
「判りました。宜しくお願いします。あ、喋り方変えないとマズいっす、……いや、マズいですか?」
気にしていたのかわざわざ言い直したのを手で制し、
「いや、これまで通りでいいよ。僕は雇用主でもあるけど、これからは同じ釜の飯を食う仲間でもあるからね。そんな訳でヨロシク」
そう言って握手を交わした。
当人の許可も出たので、早速冒険者組合でハーンの新規登録を行い、すぐに認識票を発行してもらった。
「あれ? なんで茶鉄等級なんです?」
本来は白磁等級の筈なのに茶鉄等級からって事に戸惑っているハーンに事情というか裏技の結果を説明してやる。
「そんな手口が……」
感心とも呆れともとれる返事が返ってきた。
何をしたかと言えば、これまで冒険者じゃなかったが仕事を手伝って貰っていた。そして今回の指名依頼三件の分と合わせた分が評価という形で認められたのだ。
もっともこれからはこんな手口は通用しない。
「それじゃ、ハーンの装備を整えよう」
そう言って戸惑っているハーンを引っ張って武具鍛冶師の工房へとやってきた。ゲームのように武具が綺麗に出揃ってたりはしないんだよねぇ……。
サンプル品としていくつかの武器が展示されている程度なのである。
広刃の剣の訓練を受けていたのは知っていたので、まずは程ほどの品質の鍛造品の広刃の剣を一振りと予備の小剣の他に重鎚矛を購入した。飛び道具は訓練すらしていないとの事で今回は保留とした。
次に立ち寄ったのは防具鍛冶師の店だ。彼は僕より小柄だが、魔導機器技師仕事は力仕事も多いためか、かなり鍛え抜かれているので重めの金属鎧でも良さそうだ。
ただ今回は鎧の制作の時間をかけていられないので既製品で簡単な手直しで使えそうなものを選択する。
先ずは打撃吸収と金属装甲が肌を擦るのを防ぐ意味のある鎧下だ。これがないと金属鎧は着られない。
鎧本体は鱗片鎧のセットにした。鱗片鎧とは鎖帷子に金属製の鱗状の板を縫い付けた鎧である。その分重量は重い。セットなので鉄頭巾と鎖脚衣がセットになっている。これだと足りないので籠手、前腕当て、膝当て脛当て、鉄靴を追加する。
因みに鎖帷子という選択肢もあったのだが、あれは斬撃には強いが打撃や刺突などには弱いのである。更に製法上の都合で軟鉄を使っており、鋼鉄製の刃に対しての防御効果が薄いのだ。ただ各部位を固定帯で固定するので重量も分散され、体感的に軽く感じるという利点もある。
結構迷ったんだけど、ハーンは体力もあるし防御力を優先した結果、除外した。
そしてゲームじゃあるまいし片手剣だけ持たせて反対の手をブラブラさせていても仕方ないので、前腕に固定する円形盾を購入する。これは白唐檜に薄い金属板貼り周囲を金属製の枠で補強したものだ。円形なのには理由がありあまり訓練を受けていない者にでも扱いやすい為だ。とは言えこれでも重さが3.6グローもある。
その後は雑貨商に立ち寄って初歩の冒険者の必需品を買い揃えた。たぶん総重量は48グローくらいはあるだろう。
「結構重いっすね」
全部装備させてみた感想がそんな台詞だった。そうは言うものの動きは重鈍さは感じられない。
「今回は既製品の装備だし、軽いのが欲しいなら名だたる工匠の武具を買う事だね」
もっともハーンの場合は背負い袋の中身なども重量増加の一因だったりする。
その後に奴隷商でハーンの魔法の契約書を書き換え手続きを行った。これで用事は終わりだ。
魔導騎士輸送機へと戻ってきたら別件で買出しに出ていた和花と瑞穂も戻っていた。
彼女たちには魔術師組合であるものを買出しに行ってもらっていた。これから必要になる貴重品だ。
健司は前回は食事だけで終わってしまって悔しい思いをしたので、今回も妓館へ突撃している。
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ラーケン艦長の言うように翌日の昼には点検が終了し、今回のキモと言うべき万能素子濃縮収容器への万能素子の封入が完了したのだ。船員の大半に金貨一枚を渡しその夜は大いに騒いだと言う。
そして翌朝から農奴村への荷運びを行う。初日の夕刻までに五件が終了し、翌日に三件回って恙無く終了した。
無理をすれば夜中に配達とか可能だったのだが、理由は運搬物の引き渡しを夜には行えないためだ。彼ら農奴にとって夜は貴重な休息時間だから遠慮したのだ。
割札を預かり、代わりのもう一方の割札を渡す。荷物は衣服や食料生活雑貨などだ。中原であれば農奴契約結べば、自由は少ないが生活はそれなりに豊かだ。たぶん二等市民並ではないだろうか?
彼ら農奴契約した者は契約期間満了と共に一時金を貰い多くの者は辺境の開拓村へと赴く。危険もあるが住民登録さえすれば三年間無税で一時金で十分食い繋げる。最も怪物に襲われる危険度は上がるんだけどね。自分の土地も手に入れられ独立も果たせる。政情が安定していて豊かな中原だからこそともいえる。
割札を冒険者組合へと持っていけば報酬が貰えるが、今回は報酬は後回しとする。
そのまま北上し、その日の夜に虚無の砂漠の目と鼻の先へと到着した。
検査入院してインフル喰らってノロわれてと運に見放されております。
来週からの激務を想像すると眩暈しかしません。
最低運用人数で仕事している会社なので休んでも誰も手を貸してくれないのですわ。
そんな訳で更新ペースは遅くなりますがお見捨てないで貰えるとありがたいです。
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