211話 次なる目的地へ②
隧道都市というだけあって奥の方は昼間からかなり薄暗い。隧道の大きさに比して灯される明かりが少なすぎるのだ。今いる入口付近は陽が差し事もありそれなりに明るい。
「初めての町だし、まずは適当にブラブラしましょ」
和花はそう言ってのんびりと街の風景を眺めていた僕の左手をとり引っ張っていく。右側には定位置とばかりに瑞穂がピタリと張り付いている。
「健司は……」
「……昼間からお楽しみよ」
そう言って和花が呆れる。
いや、妓館の三年間無料パスを贈ったし、そりゃ使うよね…………。
こっちの世界だと健司の様に背も高く筋骨隆々で稼げる男はとにかくモテる。
ただ健司はナンパより妓館派らしい。美人も多いし、なによりあっちは病気の心配もないしねぇ……。
「時間も時間だし、まずはお昼を済ませてしまおうよ。……あそことかどう?」
気を取り直して周囲を見回し、人が並んでいる食堂を見つけご意見を伺ってみる。
「そうね。……瑞穂ちゃんもいいよね?」
「ん」
和花も瑞穂も冒険者生活が馴染んできているおかげか、食に関しては煩くなくて助かる……。
八半刻ほど行列に並ぶと僕ら三人は四人掛けのテーブル席へと案内される。
給仕の中年の女性が、「うちはバーミセリーの専門だけど大丈夫かい?」と聞いてきた。因みにお水やお茶がサービスで出たりはしない。
バーミセリーってなんだと周囲を見回すと、なるほどスパゲッティか……。
「……問題ないです」
素早く他の卓に目を走らせて確認した和花が答えてくれる。
「今日はミートソースか、ペスカトーレか、アラビアータの三種類、量は並か大盛だけだよ。お代は並なら6ガルド、大盛なら9ガルドだよ」
うぉ……思わず声が喉からでかかった。
こっちの世界は食事の価格は安いが、昼の食事でこの価格はかなりの強気な設定だ。だがこの価格設定でこの行列という事は美味しいって事かな?
「んじゃ、それぞれ並で一皿ずつお願いします。お代は今?」
「品物と交換だよ」
ぼやぼやしていたら和花がさっさと注文してしまった。
お代が商品と交換という事は、食い逃げなどを警戒してって事だろう。同時に軽犯罪率はそれなりにありそうなん感じだろうか? 町の中が結構暗いしスリとか警戒しておかないとなぁ。
「でも、誰がどれを食べるのさ?」
「三人で三種類を堪能しましょ」
一応、和花の横にいる瑞穂の表情を窺うも特に問題はなさそうだ。
「それじゃ、18ガルドだよ」
程なくして給仕の女性が料理をもってやってきた。
「ありがとう」
和花がさっさと小銀貨20枚を払ってしまう。小銀貨2枚は心づけかな?
給仕の女性は笑みを浮かべて、「確かに」と言って次の卓へと向かった。
「さて……と」
気にしないようにしていたテーブルの上のものに目を向ける。
「これはちょっと予想外だったね……」
和花がそう口にして乾いた笑みを浮かべる。そこには想定をはるかに超えた分量のスパゲッティが並んでいた。
「これって……五人前くらいありそう?」
それはラーメンドンブリの様な深皿に盛られていた。日本帝国でたまに食べたコンビニのパスタ換算で五人前くらいだろうか? 想定をはるかに超える分量、これが並……。なるほど、この価格も頷ける。
それが三皿である。これを並と言い切るこの世界の基準がわからん……。
それと同時にトマトや乾燥麺の元となる硬小麦が大量に作られているという事も想像できた。
さて、この手の食堂はかき入れ時は回転率優先の為に客が長々と居座るのを嫌う。
他に置かれたものは粉乾酪と真っ赤な液体、おそらく辛味調味料だろう。
後は木製のマグカップに注がれた珈琲だ。正直の言うとこの面子でブラックで飲める者はいない。
給仕を呼んで追加でお金を払い水に取り換えてもらう。こっちだと飲料水すら有料だもんなぁ……。
「まずは食べましょ。瑞穂ちゃんはどれにする?」
「これ」
そう言って瑞穂が選んだのは無難なミートソースだ。日本帝国で食べ慣れたミートソースに見える。
「なら、私はこれかな」
そう言って和花が選んだのはペスカトーレを取る。近くに海はないので魚介類は淡水のモノだろう。隧道を抜けた先に大河である白竜河が流れている。これまでの経験で極端に変な食材や調味料はない。
僕は最後に残ったアラビアータである。見た感じは日本帝国で見たものに近い。エライオンと大蒜の香りが漂う。後は鷹の爪っぽい乾燥唐辛子がどれくらい辛いかだ。
食べてみた感じは塩加減と麺の品種の違い程度かってくらいなのか、日本帝国で食べたものと誤差の言いきっても遜色ない。乾燥唐辛子はどうやら鷹の爪で間違いないようだった。
程ほどの辛さで分量を除けば大変満足である。
そして半分ほど食べた頃、「そろそろ交換しようか」と和花が自分のペスカトーレを押し付けてきた。
三種類全部味わう気満々である。瑞穂が自分のミートソースを和花に渡しているのを見て僕は自分のアラビアータを差し出す。
さて、早速だがひとくち……。
うん。味付けは魚介類それぞれの旨みがトマトソースとて調和されて、素朴だが非常にコクのあるスープが太めの麺に絡んでこれはこれでうまい。
凡そ一人前を平らげた頃に和花からミートソースが押し付けられる。僕も自分のペスカトーレを瑞穂に回し、ミートソースをひとくち……。
「なんか食べ慣れた味で落ち着くなぁ……」
そう口にしていた。和花も瑞穂も頷いているとようなので僕だけの感覚ではなかったようだ。
「確かこの国ってピッツァの発祥の国であったし、どこかの並行世界のイタリアで修行した日本帝国人とかが広めたのかしら?」
「そうかもね」
和花の感想に僕ら肯定する。味付けが日本帝国人の僕ら向きであった。特にミートソースがね。
「あ~粉乾酪かけるの忘れてた……」
僕はミートソースには粉乾酪をたっぷりぶっかける派なのだ。
一息ついたら急に胃が重く感じられた。
それは和花や瑞穂も同じようで交易路沿いに据えられたベンチに腰掛けて食後の休憩とする事とした。
「こっちの世界は量がおかしいわ。次はよく考えましょう」
「そうだね」
「ん」
さて、次は何処へ行くか……。
やっぱ冒険者組合かな。
ブックマークありがとうございました。
入院先にタブPCを持って行ったのですが、点滴の針が痛すぎて作業どころじゃなかったです。




