209話 前金代わりの下準備
まずは職人街へと足を運んだ。
傭兵経験のある男性陣は、割とあっさり決まった。すでに自分の戦闘スタイルを確立しているからだろう。
一行の頭目たる九重は近接格闘を行う精霊使いという珍しいタイプなので、少し奮発して真銀製の金網服に革ツナギの様な革鎧という組み合わせとした。格闘士として動きを阻害する装備はダメって事と精霊は鉄を嫌う性質がありこれまでは防御力に不安があったらしい。
武器は予備で短剣を持つが、一部を真銀で補強した蹴撃靴と前腕当てと籠手が一体化したような護拳と呼ばれる装備だ。贅沢な事に銀鏡鋼と呼ばれる材質を特殊鍍金されている。これは低位の魔法を打ち払う効果があるそうだ。
それにしても材質のおかげでお値段も素晴らしい。人の金で買う高級装備は素晴らしいかい。
巽は盾戦士として鋼硬木製の凧型盾に板金鎧とした。武器は片手でも両手持ちでも利用できる重鎚矛を選択した。当初は重甲冑にする予定だったのだが、巽は荷運び人も兼ねるので活動時間が大幅に減る事を懸念して防具を軽い方にした。
九重の装備を買った後だと安く感じる。
女性陣は特に問題なく硬革鎧一式で決まった。年齢的にも胸部装甲問題はないだろうとの事で簡単な採寸で済む。
問題は武器だった。
左沢はうちの道場で初伝を齧っていたはずだが、それのせいか軽めの片手半剣を同じような感覚で振り回していたらしい。
散々迷った末に僕は敢えて打刀を勧めた。意外に腕力はありやや重めの実戦向けの打刀である大刀を選んで彼女に合うように調整したもらう。ついでに予備の武器として10サルトほどの長さの小刀、所謂ところの小脇差も買う。
そして、もともと持っていたボロボロの片手半剣はくず鉄として処分。
薙刀部に所属していた氷室には棹状大刃を選択してもらう。薙刀にしようかとも考えたのだが、こちらの世界で棹状大刃に慣れたとの事でこれとなった。予備武器として小剣を持つことになる。
そして最大の問題は弓道部に所属していた風早だ。一応この世界にも和弓はあるのだが、あれは冒険者向きとは言えず気軽に手に入らない事もあり困っていた。
最初に予備武器として小剣を持たせたが、主武器として軽弩か速弓にするかで悩んでいる。
威力と射程は落ちるが連射命の速弓は冒険者向けではあるが、あれは森霊族の弓職人が作るものであり、材料の選定からして地霊族や人間の弓職人が作ったものとは異なるそうで、二級品程度の品質と性能になるらしい。
散々悩んだ末に彼女が選択したのは短弓だった。入手しやすさと取り回しの良さ、程ほどの連射間隔と悪くない選択と言える。問題は矢が嵩張る事だろうか。
僕らの様に魔法の鞄がないので荷物の積載量関係で苦労しそうである。
割増料金を支払いなんとか五日で仕上げてもらえる事になった。各自に受取票を渡して次は雑貨を買いに向かう。
冒険者として背負い袋も含めて新調し、平服や下着なども買い、冒険者組合で指名来受付の手続きが済んだのは夕飯時だった。
手続きが済み迷宮都市ザルツ行きの隊商の護衛の仕事も決まった事もありお別れ前に夕飯でもって事で先日利用した個室ありの食堂で豪勢に食べまくった。
最後に金貨25枚を九重にそっと手渡した。これは一行の当面の生活費というか装備などの維持費に充てて欲しいという事も言い含めてある。
彼が一行の頭目というのもあるが、各自に渡すと無駄使いしそうな気がするのだ。
少なくても九重は信用も信頼も出来そうだ。
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「アイツら、何処までやってくれるかねぇ」
「なんだ、健司は信用していないのか?」
食事時など一番健司が馴染んでいたように思えたのだが……。
「友人付き合いと仕事の評価は別だろ。九重や巽は傭兵経験もあり実力もあるし、こっち世界で揉まれているからそれなりには信用も信頼できそうだが、左沢なんかは能力的にも人間的にもあまり信用できないな……。俺としては一緒に行動しようとか言いださなくて助かったよ」
健司の評価はそんな感じだった。だがそれは和花も同じだったようで……。
「私も九重くんとかなら一党に誘っても問題はないとは思ったけど、左沢さんとかが一党に加えてくれ言って来たらどうやって追い払おうかとずっと考えてたよ」
そういう和花の横で瑞穂もうんうんと頷いている。
「僕も九重と巽は勧誘も考えたよ。男の精霊使いで格闘士とか珍しいし、ゲオルグの代わりの純粋な盾戦士も欲しかったからね。ただ……左沢さんらは雇用するとしても女中枠だっただろうなぁ……」
そう言うものの、その女中も今はアンナとピナの他に居るわけで必要があるかと言われると……。
「やっぱ、要らないか……」
思わずボソッと呟いてしまった。冷たいようだが一党を組むなら一緒にやっていけると信用、いや信頼のおける面子に限るかな。
「ところで俺らが向かう遺跡って言うのは未盗掘なら何が眠っているんだ?」
居ない者の話をしていても仕方ないと思ったのか健司が話題を転換してきた。
「初期の魔導機器帝国の研究所って事なんで、僕らが見た事もないような凄い魔導機器とかじゃないかな?」
凄い適当な事を言ってる気もしないが実際のところ行ってみない事には分からないのだ。冒険者組合に調査報告がないだけで盗掘済って可能性も十分にある。
散逸して復元できていない技術によって作られた品物なら驚くような価格で引き取ってくれると言う。個人的には期待したい。
ただ怖いのは未知の病原菌や未知の生物だろう。警備機器が休眠している可能性もある。




