208話 選択会議
「――――と、言うわけなんだけど……」
翌朝、朝食を食べ終わり三人に依頼内容を話すことにした。書類に書かれていた依頼内容は東方のあちこちにいる自称闇の神の賛同者と接触し、箱を貰い次の指定した人物に渡す。それをいくつか熟すことになる。
問題なのは期間だ。徒歩や馬車では間に合わない。最初の受け渡し場所が特に混乱著しい東方北部域にあるルーセント王国の衛星都市スラントという町だ。直線距離で1875サーグにもなる。僕らの大きすぎる魔導騎士輸送機だと交易路経由となるのでさらに距離は伸びる事となる。とはいえ気張れば二週間程度の行程なので単純に足の速い僕らが最適って判断なのかもしれない。
そうは言っても気前が良いが胡散臭い依頼者ではある。
「報酬はどうなんだよ」
「依頼書を組合に持っていけば前金として金貨100枚が支払われるね。あとは目的地ごとに賛同者とやら引き渡し物品と引換えでその都度払ってくれるとなっている」
ただしその場合は依頼を受けた事となり途中で放棄や失敗などすれば違約金として前金の倍の金貨200枚を支払うこととなるだけでなく評価も下がる。
「この世界は情報伝達速度が遅いからね……東方北部域の情勢が分からないだけに依頼を受けたはいいけど大きなトラブルに巻き込まれる……そんな予感しかしないんだよなぁ」
「よーするに樹は反対って事か?」
「ん~……強く反対というほどでもないから、消極的反対?」
お金にはあまり困っていないと言う事もあるのだけど……。
「俺は依頼は受ける派だな。どのみちヴァルザスさんの頼みで魔導騎士輸送機の稼働試験もしなければならないのだし、当てもなく彷徨うよりはいいんじゃねーの?」
健司の意見も尤もではある。僕も依頼者が胡散臭い奴でなければ飛びついたであろうってくらい報酬は破格だ。ただ健司の場合は資産が心もとないと言うのもあるだろう。奴は妓館通いが過ぎるからね。稼げるなら稼ぎたいと言ったところか。
僕個人としては戦場に近寄りたくないと言うのが本音だ。惨劇を目前にしてしまうと飛び出してしまいかねない。
「私は……賛成かな。先生の要望にも沿うし、樹くんは黙っていてもトラブルを引き込むから、それならあえて火中に飛び込むのもアリかなって思うのよね」
何気に酷い事を言ってるのが和花だ。確かにこの依頼を受けなくても何らかのトラブルに巻き込まれそうな気はする。気はするんだ……。
気を取り直して沈黙を守っている瑞穂に意見を聞いてみる事にした。
「瑞穂は?」
「私は……反対」
特に悩むことなく即答されてしまった。もっとも彼女の場合は依頼者に対して良い感情を持っていないのが起因するのだろうか? 口数が少ないのは皆も判っているので特に理由は聞かない。それに勘のいい娘でもあるので何かある可能性もある。
「四人だとやっぱり割れたな。そう考えると一党の数は奇数が良いな」
「そうね。取りあえず樹くんが決めちゃってよ」
「ん」
議論するほどの情報もないので三人とも僕に結論を投げてしまった。ないとは思うが保険として、「何があっても恨まないでくれよ」と釘を刺してみたら、「それなら最初から丸投げしないぞ」と健司に返されてしまった。
あの男は胡散臭い。東方行きを避けさせるためにワザと断らせることが目的の可能性も十分にあり得る……。
いや、考え過ぎか……。
その時、天啓の如く閃いたことがあった。
そうだ!
なんで忘れていたんだ。
調べていたことがあったじゃないか!
「今回の依頼は断る!」
僕はそう宣言すると、その場で依頼書を引き裂いた。
「なら、これからどうするの?」
「当面は駆除依頼でも受けるのか?」
当然聞いてくるだろうとは思った。だけど仮にも冒険者と呼ばれる職について一年以上たつが、いつまでも誰でも出来るような仕事ばかりしていてもモチベーションが保てないと思うのだ。
「ここは冒険者らしく本物の遺跡へ行こうと思う」
そう宣言するのに三人は興味深そうに続きを促す。
「実は以前――――」
暇なときに過去の文明の都市や施設などの位置と現在の地図とを比較しており、尚且つ師匠の魔導騎士輸送機運用実績を満たせる場所を思い出したのだ。
それは、ここ白竜山脈を西に抜け中原に入り、北へ向かうと存在する虚無の砂漠と呼ばれる中原と北方を分断する危険な場所がある。
その虚無の砂漠の中央辺りに存在する奈落への大亀裂と呼ばれる場所の傍に二千年ほど前に滅んだ初期の魔導機器帝国の施設があったそうで、危険な場所ゆえに未調査だという事を確認してある。いつか行ってみたいと思いつつもすっかり忘れていたのだ。
「未盗掘の遺跡って事か……確かに冒険者らしいな。……俺はそれで構わないぜ」
最初に健司が了承し、和花と瑞穂も無言で頷いた。
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「あれから俺らも一緒に行動するって事で意見をまとめた。報酬も悪くないしこっちの世界に残る以上は金が結構必要だからな」
「こっちはニートは人間として扱われないからな」
そう言ったのは九重と巽だった。
待ち合わせをしていた九重たち一行と昼食を取り、彼らに迷宮都市ザルツ行きの件を了承を貰えた。
「確認するが、迷宮都市ザルツで高屋の知人のマルエッセン伯爵の子息のシュトルム一行の安否の確認と報告、同胞の所在の情報収集と報告、奴隷の最終処分場に流れてくる同胞の保護だけで良いんだな?」
一行のまとめ役に任じられた九重が確認を求めてくる。
「それで間違いないよ」
そう返事を返し指名依頼書と必要書類を差し出す。そして前金扱いの装備品の用意を行うために店を出る。
傭兵団に所属していた九重と巽の装備はそれなりの品質ではあったが貧乏生活で手入れが微妙で草臥れていた。女性陣の方に至っては更にひどくて身体に合ってない装備だった。
先ずは職人街にてそれぞれの装備の新調をすることにした。
ブックマークありがとうございます。
アクセス解析は見ないようにしておりますが、暇つぶしくらいにはなっているのでしょうか?
忙しさを言い訳に投稿が遅れてしまいましたが、今回はプランAとプランBがあり当初はプランA(東方行き)で進めていたのですが、途中からプランBに切り替えて書き直したため遅くなってしまいました。




