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203話 事後処理②

「やっと終わった~」


 僕は憲兵隊(ソタポリーシ)詰所(ポストコント)へと連行されてあれこでれと調書を取られ、魔術師組合(メイジギルド)からはなんかよく分からないけど謝罪と感謝をされたりと休む間もなかった。


 解放されたはいいけど、今度は金属流体金属生物(テカッティー・コブ)の駆除依頼に駆り出され師匠の集団(クラン)の方々と坑道中を走り回った。


 そして気が付けば夏の終月(およそ9月頃)の前週。


 業務終了報告を終え冒険者組合エーベンターリアギルドから報酬を貰い打ち上げを終えたところなのだ。


 物語によくある展開で都合よく青銅等級(第六階梯)への昇格の話はなかった。定番なら、ここは普通は組合(ギルド)の偉い人が出てきてお前たちは優秀だからなどと言われるのだろうが、青銅等級(第六階梯)以降はかなり審査が厳しくなると言うのでもうちょっと仕事しないとダメらしい。


 とは言え師匠の集団(クラン)の人たちの話ではそろそろではないかと慰められてしまった。


 愚者の石ストーン・オブ・アマックの処置だが、魔術師組合(メイジギルド)の本部送りとなった。管理能力を疑われているここの魔術師組合(メイジギルド)で封印は危険すぎると言う判断だ。またそれに伴い封印指定の危険物を提供したとして謝礼として僕らに四万ガルド、金貨四〇枚が下賜された。

 更に流体金属生物(テカッティー・コブ)廃棄物(アブフォール)シリーズの駆除、そのついでに出現した地這い巨大虫(クローラー)系などの駆除で得た報奨金が一人頭金貨二五枚程になった。師匠の集団(クラン)との合同なので頭割りするとどうしても金額が減ってしまう。


 学院(アカデミア)は管理能力を問われ外部機関が当面の管理運営に関わる事となった。もっとも彼らからすれば厄介な業務から解放されて研究に専念できるので渡りに船かも?


 リンド氏は学院(アカデミア)を除名され、商家である家へと戻ったと言う。その後は僅かな資金を持たされ行商の旅に出たと伝聞で聞いた。


 両手を失ったスライン氏はメフィリアさんの【四肢再生(リジェネーション)】の奇跡(ホーリー・プレイ)により両腕の再生を果たした。回復した彼の処遇は国外追放だった。彼の不幸は愚者の石ストーン・オブ・アマックを失った事で彼が得ていた魔術関連の知識が綺麗さっぱりと抜け落ちてしまったのだ。

 学院(アカデミア)での生活が長い彼にとって僅かな金だけを渡されても絶望的だろう。個人的にはあの場で死んでいた方がマシだったのではと思ってしまう。とかくこの世界は転職とか第二の人生とかが難しい。


 そして僕らは師匠から話があると言われ冒険者組合エーベンターリアギルドの会議室に呼び出されていた。


 ソファーに腰掛けて待つこと五分ほどすると師匠がやってきてソファーに腰を降ろす。出された冷茶をひとくち口に含み、

「お前らの世界から来た人々は、先日で九割五分がた帰還した」

 そう口にした。結構前に一五〇〇人ほど送り返したはずだが、いったい何があったんだ?


 校内全ての人員が消えたとは聞いていた。幼稚舎から大学院まで職員や業者も含めると一万人に届くはずだ。僕らを含めてあと五〇〇人くらいが残っている事になるのか。


「……どういう事です?」


 師匠の話は二週間(二〇日)ほど前まで遡る。


 ある日、天まで届くと言われた神聖プロレタリア帝国(白の帝国)の聖都に聳えたつ白亜の塔(クレーデターム)が九割がた崩壊したと言う。それは僕も新聞(ヌアクタン)で見て知っていた。


聖戦(ジハド)】が発動して聖都はほぼもぬけの殻という事もあり人的被害は王宮に残った者たち一五〇〇人ほどという。


 白亜の塔(クレーデターム)が折れた事で様々な機能が失われた事でそこで充電用の電池代わりに体内保有万能素子(インターナル・マナ)を吸われるだけだった人々が解放されたのだ。

 攫って来られた人々は階層ごとに区分けされていたそうで、一年半ほど生命維持のみされていた彼らはかなり肉体的にも衰弱しており早急に師匠たちが送り返したと言う。


 何処の並行世界(コンカレントプレーン)から拉致られたか分からない住人たちは当面はウィンダリア王国で日常生活できるようになるまで面倒を見てから処遇を相談すると言う手はずになったそうだ。


 で、問題は……。

 白亜の塔(クレーデターム)にて変わり果てた白き王(自称:光りの神)を撃ち滅ぼしたことで三万年以上も切り裂かれたままだった次元の大亀裂が塞がりつつあるというのである。


「それが何か俺らに関係が?」

 最初に口を開いたのは健司(けんじ)だ。たしかにそのとおりである。


「この大亀裂が閉じると恐らくだが、個人が【次元門ディメンジョン・ゲート】で並行世界(コンカレントプレーン)へと移動するのは極めて困難になる……」


「それが……」

 そう言いかけて気が付いた。

 今までは金輪際両親や知人と会えなくなるという事だ。未練はないと言ったものの実際に困難と言われると一瞬だが揺らいだ。


「私は大丈夫です」

「俺も問題ない」

「私も……」

 和花(のどか)健司(けんじ)瑞穂(みずほ)とそれぞれ問題ないと口にする。

 僕はどうだ?


 未練があるとすれば……。

 一度でもいいから父に勝ちたかったな……。


「僕も問題ないですが……」

 暫し悩んだ末にそう口にした。そして口にした後で思い出した事がある。

「運よくと言うか、運悪くこの世界に取り残された人たちはどうなるのでしょう?」

 死んだ者も居るが帰りたくても帰れないものも多いはずだ。


「それは運がなかったな……としか言いようがないな」


 師匠のその言葉で次の僕の目標が決まった。


「大亀裂が塞がって【次元門ディメンジョン・ゲート】が困難になるまでの猶予はどのくらいあるのですか?」


「……恐らくはもっても半年ってところだろうか? 今年いっぱい持てば御の字だな」


 師匠の回答は思った以上に短かった。半年だとあと何人会えるだろうか?水鏡(みかがみ)先輩は探せば見つかりそうだがあの人を元の世界に戻すのはヤバイ。瑞穂(みずほ)の兄の(かおる)はどうだろう? たしか目撃情報があったはずだ。

 既に死亡している者もいるけど、あと何人助けられるだろうか?


「それとだ……うちの集団(クラン)白金等級(第九階梯)一党(パーティー)が地脈の正常化に成功した。数か月後には迷宮都市ザルツも正常に戻るだろう」

 次に告げられた話も予想外だった。確かに僕らは積極的に調査はしなかったが……。


「それと、俺らの集団(クラン)は当面はお前たちに協力はしてやれない。白亜の塔(クレーデターム)から解放した未帰還者たちの社会復帰などでウィンダリア王国から協力依頼を受けたからだ」

 そう告げて、「話はそれだけだ。受付に地脈調査の完了届を出しておけよ」と言って部屋を出ていった。


「なんか話が一気に進んじゃったね……これからどうする?」


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