幕間-12
2020-05-05 誤字報告に基づき文面を修正
「緊急の話とは穏やかな事じゃないですね」
偉丈夫の連絡を受けて美丈夫と美髭夫と 細身夫と幼女が一部屋に集まる。
双頭の真龍が誇る最高位のメンバーだ。
最初に口を開いたのは相棒たる美丈夫だ。
「流体金属生物の斥候要員がここに現れた」
そう言って昨日の出来事を話していく。
既に冒険者組合に確認を取り、他の鉱山などでも似たような事件はないかと聞いたが答えは「否」だった。
「ま、ここが時空の亀裂に最も近い鉱山じゃからな」
「時空管理人の無能共の修復が遅いから面倒が増えるね」
美髭夫がここが標的になった理由を口にし、細身夫が人知れず活動している時空管理人と呼ばれる世界を管理する上位の次元の人らを無能呼ばわりする。
「彼らが無能というより白の王が頻繁に超々規模の【次元門】で次元の壁に大規模な穴を開けるのが問題でしょう」
開きっぱなしの次元の大亀裂は最下層世界へとも直結しているために通過するにしてもリスクが大きい。美丈夫が言うように白の王が定期的に行う異世界への強制集団誘拐が原因とみるべきだろうと皆で考えを統一する。
「やはり神聖プロレタリア帝国潰すしか解決策はないのでは?」
美丈夫の意見はある意味もっとも分かりやすい解決方法である。ただし被害を度外視すればという意味でである。
「それはダメ」
その意見に反対意見を出したのは、これまで偉丈夫の横にちょこんと座っていた小さな聖女だ。彼女の中では無辜の民衆が犠牲になる事は許容しにくいのだ。
「では、あいつを直接殺りますか?」
細身夫が対案として出した意見も一見良さそうに聞こえるのだが実は厄介なのである。
「あやつは死亡すると自分の血を分けた子孫に強制的に転生するんじゃなかったかね? 後宮に一体どれだけの誘拐してきた女性を囲い込んでいると思っているのかね」
美髭夫が無理じゃといった表情でそれを口にする。調査が正しければ私生児を含めて惑星中に100万人は候補者がいると言う。それを一人一人探し出して倒すのは不可能に近いだろう。
「せめて誘拐された人たちだけでもなんとならないのかな?」
黙って議事録を付けていた幼女がボソッと呟く。
それを耳にした小さな聖女が我が意を得たりとばかりに笑みを浮かべる。
「なら、段階を踏んで処理しましょう。我々はなまじ力があり過ぎるので単純な解決法に偏りがちです。まずは召喚陣を破壊して召喚を止めましょう」
その後二刻に渡る議論を経て作戦は決まった。
「バルドは土の精霊と親和性の高い術者に協力を要請して都市周辺の地質調査を行ってくれ」
「わかった」
そう言って美髭夫は席を立つ。上位地霊族である彼はこの都市では神と崇める者もいるほどの人物なので頼めば人は集まるだろう。
流体金属生物の斥候要員を探し出すのが目的だ。
「フェルドは団体から技量のいいのを厳選し斥候が見つかったら狩れ」
「人使いが荒いなぁ。それじゃ金等級あたりから適当なのを引き抜いていくね」
「忙しい、忙しい」とボヤキながら細身夫も部屋を出ていく。
「俺と相棒は神聖プロレタリア帝国に喧嘩売ってくる」
「私は?」
「メフィリアは樹達に同伴して欲しい。特に樹はあの面子で一番蘇生率が低いだろうから最悪の事態にならないようにそれとなく守ってやってくれ」
弟子として面倒を見ている樹は危険が高いと承知で恩恵使いたがる傾向にあり、それ故に魂に重大な損傷を負っている。
「わかったわ」
そう返事をし小さな聖女も部屋を出ていく。樹達と合流するためだ。
「パフィーはいつも通りな」
「ん」
頷くと議事録を美丈夫に手渡し音もなく部屋を出ていく。彼女の役目は樹やメフィリアを当人たちに察せられないように護衛する事だ。
「しかし、わざわざ敵に手加減しなければならないとは……」
相棒はややご立腹である。秀麗な美青年の皮を被っているが本来は銀鱗の龍王と呼ばれる神殺しの真龍達の王である。普段は人の真似事、演技をしているが本質は人間と異なる。
白の王は元々は神であったかも知れないが、数百回もの【輪廻転生】により最早当初の力はない。助力している小神がいる様だが、神殺しの真龍たる相棒にとっては小神程度など塵芥に等しい。
遠回しにじわじわとなぶり殺しにするようで今回の作戦はお好みではないのだ。もっともそれはヴァルザスも同様である。
だが彼には樹を英雄に仕立て上げてこの世界の厄介ごとの矢面に立たせようと言う計画があるのだ。そして自分たちは裏の仕事に全力を傾ける事が出来る。
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そして三日後、北の大地に聳える天まで届く光の巨塔が巨大な光の槍と天雷によってへし折られ、その残骸が聖都ファリドヘルムへと降り注ぎ宮殿に甚大な被害をもたらしたと新聞の一面を飾った。
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「聖戦によって農村部に至るまで国民は出払っており都市にも住人はほとんどいません。居たとしても高位の似非聖職者でしょうし、光の巨塔も破壊したのは最上部の無人区画だけですから問題はないでしょう」
予定通りの結果に満足そうに美丈夫が語る。
「後宮も完全に瓦礫の下敷きだったな。中の住人には申し訳ないがな……」
外界と隔絶して数百代にわたって洗脳教育が施され、存在しない神を神と称え、ありもしない歴史と教義を信じさせ、疑問を感じる人を異物として排除し続けた結果、神聖プロレタリア帝国の住人は世界にとって害虫に等しい存在と化したのだ。
彼らは外界のモノは黒の神に染まった人ならざる者として信じて疑っておらず、それらを犯し殺し奪う事で徳を積めると本気で信じている。狂信者の集団なのである。それが約二千五百万の兵となって東方北部域へと攻め込んでいるのだ。
「白の神とやらを倒したところで、狂信者を正常にするには何世代にもわたって教育を施さなければなりません。あれだけの数の再教育に割く労力も財力もどんな組織も持ち合わせていないでしょう」
美丈夫はそう断言する。
「過去の高度文明の歴代の王も狂人と対するより封じ込める事に注力していたが、その結果がコレかと思うと、な……。ところで七賢会議の連中は何か言ってきたか?」
「よくやった。報酬を取りに来いと打診はありましたよ」
「団体の連中に適正な額を渡して残りは東方の戦争被害者救済の資金に回すか。……所詮は自己満足だが、やらない善行よりやる偽善と思うしかあるまい」
そう言って偉丈夫は溜息をつく。
「事務方にそう伝えておきますよ。……ところでですね……実は七賢会議から次なる依頼が来ています」
「その言い方からすると、あまり楽しい依頼ではなさそうだな」
「内容ですが――――」
美丈夫から聞かされた依頼内容に不満を感じ偉丈夫は断る事にした。
「俺らは異界からの侵略者に対するのが本来の仕事だ。とは言え東方北部域の五国の防衛線が破られたら盟主選定で小競り合いして戦力を削りあっている中部域なんてあっという間に飲み込まれるだろう……そうなるとどれだけ被害が出る事やら……やはり白の勇者を釣るか……」
偉丈夫が悩み始めるのを横目で見つつ美丈夫はこう言った。
「もういっそすべてを投げだしたらどうですか?」




