191話 階段都市モボルグ③
明けましておめでとうございます。
今年も週1~3ペースで投稿できれば思っております。
自己満足成過多ですが、最後までお付き合いして頂けると幸いです。
2020-05-05 誤字報告を元に修正
宿屋に戻り丁度夕飯に出かけようとしていた師匠たちを捕まえて先ほどの戦闘を報告するつもりだったが師匠の奢りで高級店での夕飯と相成りました。とても美味しかったです。
食後のデザートを堪能しつつ先ほどの金属生物との戦闘を包み隠さず報告すると……。
「……そいつは冒険者組合の報告と随分違うな……」
「冒険者組合が嘘をついてるって事?」
師匠の呟きに隣にちょこんと鎮座するメフィリアさんがそう返す。
「今回の事件は多分だが、上層の魔術師組合の尻拭いだと考えていた。金属生物だが、特徴が雲状魔法生物や粘液生物と同じだ。魔法生物を作成しようと思って失敗した廃棄物だと考えていた。樹が遭遇したのはもしかしたら全く別の存在かも知れないな……」
そう言って語りだした内容はこうであった。
並行次元と呼ばれるこれらの世界にも格が存在し多くはないが他の世界が何らかの目的で攻め込んでくることがあると言う。それは食料を求めてだったり、自らからの世界が滅びに瀕して新天地を得る為だったり、様々な資源確保が目的だったり、支配者が単に戦好きって場合もあるらしいが目的は多岐にわたる。
過去には粘液生物に似た異世界の生物の襲来を受けたりもしたし、もしかすると僕を襲ったのは異世界の金属生物って可能性もあるらしい。
「……あとは考えたくないが、金属魔人って可能性も否定できないが、それだと樹がここに居る事はないはずだしな……」
相手が強すぎて僕程度じゃ歯が立たないって意味での事だそうだ。金属魔人とは死を超越せし者同様に古代の偉大な創成魔術師が永遠の研究時間を求めて自らを作り替えた存在だ。
そう言われれば確かに僕だと歯が立たないだろう。以前に戦った迷宮主である死を超越せし者に勝機を見出せなかった。悔しいけど……。
「ちょっと気になる。樹、案内しろ」
▲△▲△▲△▲△▲△▲
「このあたりです」
先ほど襲撃された辺りまで師匠とメフィリアさんを案内した。
「あれ?」
「どうした」
倒した時に床に液状に広がったヤツが何処にもいない。師匠にそう告げると何か嫌な想像をしたのか顔を顰めた。
「樹が遭遇した奴だが……恐らくだが、世界番号000024589215と魔術師組合が定める世界の流体金属生物と呼ばれるあっちの世界の人間に相当する生物だ」
非常に嫌そうな表情でそう口にする。
世界番号ってなんだって思っていたら、師匠曰く過去に発見された事のある並行次元の世界を発見順に番号を振ってあり魔術的座標を記録してあるんだとか……。異世界交易を行う場合に魔術的座標は絶対必要だからなと付け加えられた。
それにしても師匠の口調になんか違和感を感じるのでそれを素直にぶつけてみることにした。
「アイツらは不死身な存在だ。殺しても死なない。精神の構造も我々とは似ても似つかないから話し合いにすらならないんだよ」
嫌そうな表情して答えてくれたけど、不死身?
「倒せないって事ですか?」
流石にそれはまずくないかと思っていると……。
「動きを止めて最下層世界に捨てる」
と答えたのだ。
最下層世界とは万能素子が存在せず、精霊がおらず、完全に死んだ世界なのだという。片道切符以外でいく方法はない。
「散れ!」
唐突に師匠が叫びメフィリアさんを抱えて飛び退る。半瞬遅れて僕も飛び退ると僕等がいた場所に流体金属が降り注いだ。
「さっきより大きい……」
先ほど相手をした存在は体積にして0.25立法サートほどとであった。今回はその数倍はある。
「綴る、八大、第八階梯、縛の位、電撃、帯電、迅雷、格子、感電、捕縛、拘束、発動。【電撃格子】」
メフィリアさんを小脇に抱えて飛び退りながら師匠は素早く呪句を唱え【電撃格子】の魔術を発動させる。
光り輝く魔力の網が放電し流体金属生物を包み込み拘束する。
相手の動きを瞬時に確認を取ると次の呪句を紡ぎ始める。
「綴る、拡大、第九階梯、転の位、記憶、方陣、瞬間、瞬転、移動、空間、強化、発動。【転移門】」
素早く完成させた【転移門】の魔術に抗いつつも流体金属生物はどこかへと消えていった。
「あれで良かったんですか?」
最下層世界に捨てるって聞いたんだけど、【次元門】じゃなくて良かったのだろうか?
「行き先は……この世界で唯一開きっぱなしの大きな最下層世界がある。そこに指定した」
中原北部に存在し虚無の砂漠の中央を以てして、北方とを隔てている奈落への大亀裂と呼ばれる長大な大亀裂がそのまま最下層世界に直結しているという。
神話世界の最後に発生して以来、三万年以上に亘ってどの高度文明をもってしても塞ぐこともできず放置してきた場所だと言う。
「アイツが帰ってくることは間違いなくないが、次元の壁の綻びからどれくらい入り込まれているか調査しないとマズいな……」
そう口にして師匠は少し考え込む。
だが、ちょっと待って欲しい……。
「師匠、そろそろメフィリアさんを下ろしてはどうかと……」
先ほどからずっと小脇に抱えていたのだ。荷物扱いでメフィリアさんもややご不満表情だ。それでも会話の邪魔をしてはいけないと思ったのか黙って居たようだ。
僕に指摘されて気が付いたようで、軽い口調でメフィリアさんに詫びを入れ通路に下ろす。
「これは冒険者組合に報告して仕事を分けないとならない。似たような事件に思えるが扱いが全く異なる案件だ。明日の調査は中止しよう」
創成魔術師の不法廃棄物処理の仕事かと思えばまるっきり別の異世界人の来襲かもしれないと言うのである。
僕らは急いで宿屋へと戻った。




