179話 嫉妬の対象となる。
予定通り走り込み後に朝食を摂り、その後に師匠との模擬戦となる。師匠の木刀は早く重く受ければ僕が木刀を取り落とし、叩かれれば骨まで響く激痛に襲われる。武技込みでこの様なのである。それでも戦闘勘のようなものが養われてきたのか極稀に【刀撥】が決まったり師匠の木刀の一撃を巧く逸らせたり、訓練用の硬革鎧の表面で逸らしが巧く決まったりするようになる。
だけどそこで調子に乗ると予期せぬ方向からの攻撃に襲われて地面に転がされる。しかしこちらの攻撃が当たる気が一向にしない。
散々ボコられた後はメフィリアさんに治療してもらい一息入れたのちに魔術師組合へと素材の購入に赴く。
「素材の選び方って何が基準なの?」
魔術師組合への道中で僕の左を歩く和花がそんな事を聞いてきた。
実は魔術師組合で売られている多くの素材が魔術師見習いがアルバイトでせっせと作っているものらしく品質は『可』程度のなんだそうだ。特に指定しないとその『可』品質の商品しか売ってくれない。
そんな感じの説明をしていたら魔術師組合に到着した。
商品見本とかの展示もない殺風景な受付広場を眺めていても得るものもないので早速受付カウンターに立つ若い男性に言って『良』品質の素材を注文するも構成員以外には販売できないと断られてしまう。ここで気楽に構成員になるって選択肢も無いわけではないが、その場合は入会金などの多額な出費が必要になる。
「おや、タカヤ殿ではないですか」
帰ろうかと思っていたところにどこかで聞いた声に呼び止められた。声のする方へと振り返ると長衣を纏った恰幅の良い男性が手をあげていた。以前にネルド草の採取の依頼をしてきた錬金術のパスコ導師であった。
「本日はどういったご用件で?」
そんな事を聞かれたが普通は依頼で来たと思うよね。ダメ元で今日来た目的をパスコ導師に話してみると――。
「なるほど……。君、私が許可するので要求した品を出してあげなさい」
本日の訪問目的を聞いたパスコ導師は受付の若い男にそう指示を出した。
「一応規則で……」
「構成員で導師である私が許可したのにかね?」
「規則が……」
「君は融通が利かないね。そんなんだからいつまでたっても魔術師見習いなのだよ」
その台詞に若い男、20代前半くらいの男はムッとしつつも奥へと取りに行った。
「『良』品質は数がないから希望の数は渡せないけど、それは勘弁して欲しい」
そう詫びられたけど規則に従えば買えなかったものなんで詫びてもらう必要はないかな。むしろお礼を言うべきだろう。
受付の若い男が戻ってくるまでの八半刻の合間にパスコ導師と錬金術の話を聞かせてもらう。興味を示すと、「講義を聞きに来るかい?」と問われたので、「是非」と答えた。
魔法の水薬製造も手を出したかったので講師役が見つかって良かったよ。師匠にお願いしたいのだけど、あの人はもうすぐ冒険者組合からの地脈調査の依頼の続きに出てしまうからお願いしにくいのだ。もっとも教本は貰っている。
不機嫌そうなと言うか、まるで親の仇を見るような目の受付の男に金貨五枚払って『良』品質の素材を二セット分手に入れて魔術師組合を後にする。
「なんかあの見習いさんがすっごい目で睨んでいたね」
そう、まるで親の仇でも見るような目だった。恨まれる理由なんてないはずなんだけどなぁ?
「あれは私たちに対する嫉妬じゃないかな?」
「うん」
和花の意見に瑞穂も同意している。確かパスコ導師の話じゃ受付の人は若作りだが三十間近いそうで、少なく見積もっても20年は在籍しているのだが……。
「確か二十歳くらいで正魔術師になれないと、ほぼ素質なしなんだよね?」
「そうだね」
見習い程度と言う事は瑞穂より格下なのかぁ。そりゃ~逆恨みもしたくなるなぁ。
「でも、見習いでも職には困らないし往生際が悪いというか……」
あの年齢で見習いと言う事は実家は富裕層なのだろう。見習いの給料じゃ生活はかなり厳しいはずだ。
「そこは正魔術師というステータスが欲しいからじゃないかな? エリート職だしあちこちにマウント取れるからねぇ」
この世界の富裕層の男性の結婚適齢期は二五~三〇歳だという。
「なるほど、結婚適齢期の間にドヤれるステータスが欲しいのか……」
「だと思うよ~」
この世界の富裕層の男性の結婚適齢期が遅いのは、彼らが独立し充分な経済力を持つまでにそれくらいの年齢までかかるという事だそうだ。経済力をつけ、より良い家柄の女性と結婚する事が富裕層のステータスなのだ。
対して女性の適齢期は農村なら一五~一七歳くらい、都市部でも二〇歳くらいだ。労働力の確保という側面もあるが、これは乳幼児の生存率が低く、無事に成人を迎えられる確率が五〇%ほどなのだ。早いうちから子供を産み生涯で平均六人は生むそうだ。その為の早めの結婚という事だ。
「あの人って見習いって事は周りは十代半ばの子たちばっかりでしょ? ちょっと辛いかもねぇ」
和花がそう感想を漏らし、それを以て受付の見習い青年の話は終わった。
僕もあと一〇年くらいは結婚しなくていいかな? とか思いつつ左右を見る。
「?」
「?」
目線が合うとそれぞれが「何?」って感じの表情をする。責任の取り方みたいなものを考えないといけないのかなぁ……。
そう思いつつも【魔法封入】の実践に思考が移っていくのだった。




