175話 ある人物のこれまでの顛末?
2022-06-25 感想欄の指摘で矛盾点を修正
朝食と報酬報告も終わったので解散となった。たまには休みも必要と言う事で今日と明日はゆっくりできる。
ゲオルグは戦の神の神殿へと向かい、健司はいつの間にかいなくなっていた。こういう時は大抵は妓館行きだろう。
「私は富裕層区画に買い物に行くけど、瑞穂ちゃん行こ」
瑞穂は和花のお誘いに一瞬困った表情をする。あ、僕が跳躍の革靴の効果が見たい的な事を言ったんでそれを気にしているのか。
「僕は魔術師組合に用事があるから、二人して楽しんできなよ」
跳躍の革靴の性能検証と運用方法について考察しておきたかったが、これは仕事の範疇だし今日は休暇を満喫してもらいたい。
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みんなと別れて魔術師組合へと向かう。その道中であまり会いたくない人と遭遇してしまった。
「やぁ、久しぶりだね。――――」
その人物は羽織袴に打刀と脇差を差した浪人風の見た目の水鏡先輩だった。前回遭遇した時と違うのは打刀の鞘が真っ赤な事だろうか。
水鏡先輩はこちらの事はお構いなしに近況を話し出した。相変わらず逃げ惑う雑魚を斬って斬って斬りまくるのが楽しいとか俺TUEEEEE最高とか言いだしている。以前も感じたけど人斬りというか弱者の集団に入り込み無双することで優越感を感じて酔っている感じだ。その水鏡先輩がこんなことを言い出した。
「そういえば聞いたかい。聖女様が誘拐されたそうだね。今頃は何処でナニされちゃってるんだろうね?」
フヒヒ…………と気持ち悪い笑みを浮かべる。結構イケメンなのに勿体ない。
ま~今頃は賢者の学院で勉強中じゃないですかね? とは流石に答えられないのでダンマリをしていると、
「ところで……、四日前に藤堂に会ったよ」と、そんな爆弾を落としてくれた。
取り巻きは一人もおらず失意の藤堂会長と遭遇し酒を酌み交わしたという。
「水鏡先輩は藤堂先輩が――」
全てを口にすることは叶わなかった。水鏡先輩の手が素早く伸び僕の口を封じたのだ。
「ま、話を聞け。――」
そう言った後に小声で藤堂先輩とのやり取りを説明しはじめた。
強制転移後の計画では精鋭で一党を組み、生活基盤を整えていく予定だったらしい。それがある日の夜に僕が殺害され、更に数人が殺されたと判ると残ったみんなを率いて逃げ出したのだが、多くの者は奴隷として捕らえられ、一部は別方向へと逃げ出し、藤堂先輩に付いていった者が賞金首となった五人だったのだ。
彼らは竜也がヴァルザスさんから貰った魔法の鞄を持っていたが、竜也は僕らと違って専用化処理をしていなかったこともあり、藤堂先輩たちに中を漁られ売り払い当座の、いや数年は遊んで暮らせる現金を手に入れたのだ。ただし藤堂先輩は、非常時の資金と言う名目で貯蓄してしまった。
大陸に渡り冒険者になり最初の頃は真面目に稼いでいたのだがある時、野盗を捕らえて官憲に突き出した際の報奨金の多さに浮かれて道を外した。
元々、賞金首となった五人は武家の御曹司であり、イキってやんちゃしていた人らだ。安い賃金の冒険者の仕事に辟易していた彼らは藤堂先輩の目の届かないところで人狩りとして活動し始めた。だがゲームの様に都合よく野盗が出てこないまでも程ほどの稼ぎはあった。それが狂ったのは妓館の存在を知った事によるらしい。
若く体力があり性欲も旺盛な彼らはどっぷりとハマって散財した。あっという間に手持ちの資金が枯渇し犯罪者へと堕ちた。
そう、野盗を捏造するという行為の始まりである。若く教養がなく経験の浅い現地の冒険者を言葉巧みに誘導し自分たちを襲わせ、それを討伐する事で報奨金を荒稼ぎし冒険者組合も野盗狩りのプロと評価し等級を上げていく。
藤堂先輩が気が付いた時には既に唆された若い冒険者を一〇〇人は犯罪奴隷として送り出した頃だと言う。藤堂先輩は街で偶然に美優を見かける。
そこは奴隷商人の店だった。罪悪感からか買い取って保護しようと考えたものの別の人物に買われてしまったという。
その人物と交渉した結果、一年以内に金貨300枚を用意出来たら譲ると言う約束を交わす。
そこからは開き直ったのか積極的に五人に協力し野盗狩りに精を出す。そして多くの冒険者や旅人を野盗と偽って報奨金をせしめて春の後月になるころに目標額に届いたのだ。
そして美優を買った人物、戦の神のイケメン枢機卿に会いに行くも奴隷契約が強制解除され誘拐されたと告げられた。
失意の藤堂先輩は、全財産を引き上げ、隠れ家でわいせつ行為に耽る五人に見切りをつけて密告をしたという。
「……。ま、そんな感じだ」
水鏡先輩はそう言って話を締めくくった。だが、疑問が残る。
「なら、賞金首に藤堂先輩が居ない理由は何だろう……」
僕の疑問を口にするも水鏡先輩は、「知らんよ」と言って僕の肩を軽く叩き歩き去って――。
一瞬、鯉口をきった音を聞いた気がした。
そして深紅の刃は僕を切裂いた。
「それが、[高屋流剣術]【残身】か……」
振り返りざまに抜刀された水鏡先輩の刃は僕の残像を斬ったのだ。
「……水鏡先輩、どういう……」
殺気すら感じなかったが、普通であれば間違いなく斬り捨てられていた。こんな往来で何故? 意味が分からない。
「なに、ジョークだよ。精進しているようで何よりだ。……またな」
そう言うと今度こそ去っていった。
またな。か……。出来ればもう会いたくはないな。
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