174話 事後処理と報酬報告
2020-05-04 報告のあった誤字を修正
時間的に遅かったので森の外周部で一泊し、翌朝から強行軍気味に移動してギリギリ閉門前に中継都市ミルドに戻れるのではないのかと思っている。
僕らにおねだりしてきたおっさん達の生存者は最低限の治療を施したあとで、仲間の死体を背負わせてから互いに縄で拘束し、逃走防止用に彼らの足枷とした。そのうえで全員を縄で連結し連行している。とっ捕まえた野盗のを連行していると道行く旅人とか商人が罵声を浴びせてきたり彼らに投石する輩もいる。
おっさんたちは自分の運命を悟っているのか抵抗せずに投石を受けている。
よほど暇だったのか賞金首となっている先輩がアレコレと喚いている。自分たちは藤堂先輩によって嵌められた被害者だと主張するのである。だが彼らが多くの旅人や冒険者を野盗と偽って官憲につきだしたり、その報酬で豪遊していた事実が消えるわけではない。
ただ、一つ気になることを言った。藤堂先輩が有り金全てを持ち逃げしたとの事だ。なんでも、とある鑑賞奴隷を買い戻すための資金として用意していたんだとか。
僕らは迷宮の報酬の話などもせずに黙々と移動し、ほぼ予定通りに九の刻のちょっと前に中継都市ミルドへの入都手続きが終えた。
面倒な事件があった後なので野盗を連れてくる冒険者を怪しんでいる衛兵達が真実の口を持ち出してきてまで、僕らの証言の信憑性の確認を行ったり、冒険者組合から係りの者が身元引受人という形で出向いてもらったりとバタバタしてその日は終わった。
そして翌朝————。
三の刻に冒険者組合の受付嬢たるフローラさんが僕らが宿泊している牢獄亭まで迎えに来てくれた。
冒険者組合へと赴く道中に官憲側の不正はいいのかと疑問を口にしたら、本国から堅物がやってきたらしく綱紀粛正と言う事で関係者二〇名が物理的に首が飛んだという事をフローラさんから聞いた。
冒険者組合に到着すると掲示板から賞金首が四枚剥がされていて、代わりに新しい賞金首が五人増えていた。罪状はどれも同じである。
僕らが捕縛した不衛生なおっさんも賞金首になっていたらしいが、貼りだす前に連行されてきたんだとか。
受付で迷宮攻略の依頼報告をし、賞金首の三人分の賞金と取り巻き一七人分で合わせて金貨四〇一枚となった。
内訳は先輩たちが二人で三〇〇枚、おっさんが五〇枚、残りが一人頭三枚という計算になる。
五人の先輩らのうち四人が捕まるか首が飛んだのだが、僕ら以外に誰が倒したのかと思えば、残り二人は師匠だった。どうやら迷宮に調査に来たカモを狩って高跳び資金にする予定だったらしい。
残りの一人は別の冒険者と遭遇し仲間を囮にして自分だけ逃げたらしい。
「俺も殺さないで捕縛した方がよかったか?」
何を思っての事か唐突に健司がそんなことを聞いてきたのだ。野盗どもは捕まれば、遅かれ早かれ死しかなく、苦しませずに先に殺した方がむしろ慈悲なんではないかと昨夜考えていた。もっとも僕は人族を殺すことに、いまだに忌避感を覚えているから捕縛を選択したのだが……。
「苦しませずに殺してやったと思えばよかろう」
躊躇なく殺ったゲオルグは現地人らしい考え方と言うべきだろうか?
「いや、俺は先輩の首を飛ばしても何とも思えなくてな。実は先輩は俺の事に気が付いて降伏するって言ったもんだから、つい、ね」
気にはなったから聞いてみたものの、当人は罪悪感とかはないらしいとの事だ。
「ま、そんな事より迷宮での報酬は、みんなは何を貰ったの? 朝食もまだだし、どこかでご飯でも食べながら報告しよ」
暗くなった雰囲気を払拭するべく明るく口調で和花がそう言って歩き出す。彼女の事だからゴミを処分したくらいの感じなのかもしれない。
「そーだな。確かに腹減ったわ」
どーも今のやり取りで健司の中では吹っ切れたようで、「どこで食う?」などと和花とやり取りをしつつ去っていく。それを無言でゲオルグが追う。
未だ尾を引くのかぼんやりしていた僕を瑞穂が手を引く。そしてそのまま冒険者組合を出るのであった。
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「んで、みんなは何を貰ったの? 私は――――」
そこそこお高い自己配膳形式の食堂へ赴き、程々にお腹が膨れた頃、和花がそう切り出して、魔法の鞄から取り出して見せたのが、大粒の青玉を中心に周囲に小粒の金剛石をあしらった白金の首飾りだった。
「装飾品としても価値が高そうだよね?」
「うん」
和花が装身具の価値で選んだ可能性もあるが、あの脳内に浮かんだリストには単なる装身具はなかった筈だから何らかの魔法の工芸品だろう。
「通訳の首飾りです!」
ドヤっと言わんばかりに薄い胸を反らすが、どういう意図だ?
「あ、…………僕らが東方語とか使えないから?」
「うん」
なるほど…………と思ったのだが、この世界基準だと和花の見た目は子ども扱いなんだよなぁ。そんな訳で彼女が交渉の席に立つことはまずない。ま、必要な時に借りればいいよね。
「儂はこれじゃ」
ゲオルグがそう言って取り出したものは戦鎚をモチーフにした戦の神の聖印だ。
「もしかして不浄払いの護符?」
「うむ、如何にもじゃ」
不浄払いの護符というのは、奇跡を用いた際に不死者に対して通常より高い効果が得られるという簡易祭器というやつだ。付与魔術師が作るものではなく聖職者が製作するものである。
ただあえて言うなら価格的にもったいないとも言える。希少性は下級品級なのだ。探せば見つかる可能性も高い。とはいえ戦の神の聖印の形に意味があるのかな。
「ゲオルグには不死者対策で頑張って貰わなければならないし良い選択だと思うよ」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
そう言って相好を崩す。本人が満足しているならそれに水を差しても仕方なし。
「俺はこれだ!」
そう言って健司が取り出したのは飾り気のない白金の指輪だった。革手袋を身に着ける関係で戦士向けの指輪型の魔法の工芸品はシンプルなものが多い……。
たぶん…………、
「技量の指輪か打撃の指輪あたりか?」
戦士に人気の魔法の工芸品で技量の指輪が武器が扱いやすくなり、打撃の指輪は威力が上がる効果だったはずだ。
「打撃の指輪だ。まだまだ打撃力が足りないからな」
健司の三日月斧の一撃は対人戦であればオーバーキルだが、この世界だと結構タフな怪物は多い。威力が上がる事はいい事だ。健司みたいなタイプは小手先の技量を上げるより破壊力を上げた方が絶対に活躍できる。
早く威力を試してみたいようで、「なんか仕事受けようぜ」とか言ってくる。
「瑞穂は何を貰ったんだい?」
そう質問を向けると魔法の鞄に手を突っ込んで、「これ」と言って半長靴を取り出した。
靴の魔法の工芸品はいくつか実用品があるけど、なんだろう? 報酬の価格帯が決まっていたからそこから絞るかぁ。
「壁面歩行の靴か水上歩行の靴かな?」
首を振られた。
違うか…………。旅路の長靴は違う気がするし、他にもいくつかあるけど、希少性が低めで安い靴……。
「……跳躍の革靴」
考え込んでいると焦れたのか瑞穂が答えてしまった。
「それがあったかぁ」
斥候に人気の魔法の工芸品である。幅跳びとか高跳びが凄いことになるそうだが…………。
「どこかで検証してみたいね」
「ん」
瑞穂も頷いているので後でどこか適当な場所を探そう。
「樹くんは何を貰ったの?」
「これだよ」
そう言って飾り気の少ない指輪を取り出した。
「水中呼吸の指輪だよ」
この効果は精霊魔法の【水中呼吸】の効果が永続的に込められているのだけど、うちの一党だと和花しか使えないのだ。
瑞穂も精霊魔法は使えるけど、いまのところは和花の方が技量は上かな。
まー呪的資源を節約の為って感じで選んだのだ。身に着ける際に勝手にサイズが変わるので僕以外が着けてもいいしね。
報告会も終わり本日の予定をどうするかと問われたので、「今日と明日は休暇にしよう」って回答した。
さて、どう過ごそうか?




