17話 初報酬
「この間の村で見たのと違う陣営に占拠されているとは…………」
麓の村で一晩明かし徒歩でルートの町へと戻って来た際に市壁が見えた時の師匠の最初の一言がそれだった。
市壁の鉄門は破壊され、市壁に高々と聳え立つ国旗が見知らぬものに変わっている。町からはまだ黒煙が上がっており少し前まで戦闘があったのだろう。
市壁前には魔導従士の残骸やら攻城兵器の残骸やら兵士の死体が散乱しているが師匠も健司も気にするでもなく、僕と和花は顔を顰めつつ進んでいく。反対に御子柴は初めて見る魔導従士に興奮している。
このルートの町は、徒歩で半日ほど東に行くと海が広がり海運の中継港となるバサトという港湾都市がある。御子柴が密航して到着した港もここだ。塩田もあり、この国はそれなりにお金を持っていたようだが、自国の防衛にはあまり力を入れていなったのだろうか?
「そろそろ町に入るが何を見ても無視しろ。いまはこういうものだと思っておくんだ…………いいな?」
師匠が確認するようにそう言ってきたので「わかりました」と答えておく。
師匠の冒険者としての権威の恩恵で僕らは市壁での入都手続きに並ばずにルートの町へと入った。
大通り沿いの店舗や住宅は破壊され略奪行為が行われている。またこれ見よがしに魔導従士が一定の間隔で立っている。
「これが当たり前の世界だ。略奪を許可する条件で農民を徴兵する国家もある。彼ら民兵にとっては勝ち戦の後の略奪暴行は賞与みたいなもんだ」
言外にこういう世界が嫌なら元の世界に帰ってもいいんだぞと匂わせてる。
正規兵は見て見ぬふりを決め込んでいるようだ。
「でもヴァルザスさん。思ったんですが、略奪とかできない正規兵からは不満が出ないのですか?」
魔導従士をニコニコ眺めていた御子柴がそんなことを言い出した。
「民兵は囮に使われることも多いし死亡率も高い。その恩恵ともいえる略奪なんだが、おそらく無事に故郷へ帰れる者は少ないよ」
「どういう事です?」
「後日に野党に扮した正規兵に襲われるからさ。なかなか糞みたいな世界だろ?」
そう答えて師匠は自虐的に笑う。
もやもやとした気分のまま気が付けば冒険者組合の前まで来ていた。大通り沿いにあるにもかかわらずこの建物だけは無傷だ。
扉をくぐり中を見回すと受付以外はほとんど人がいない。
「治安維持と周辺警戒に冒険者に対して依頼が出たんだろう」
「なるほど…………」
「俺、この役所的な感じは好きになれないな」
健司の感想もよくわかる。僕ら古典ラノベ愛好家達にとって冒険者組合と言えば受付から訓練所、食事から装備まで何でも揃う総合施設みたいなイメージだったからね。
いや、判ってる。町の規模も冒険者の数も違うのだ。
「様々な施設を内包して冒険者を囲い込んでしまうと周囲にお金を落とさなくなるんで組合の設立が大変だったそうだ。それで機能を縮小した結果が今の役所風な施設というわけさ」
健司のボヤキに師匠がそう返す。
「取りあえず依頼を完遂しよう。俺は後ろで見てるから自分たちでやってみろ」
師匠はそう言って依頼を受けた際に受付で預かった割符を僕に差し出した。
それを受け取りだいぶ不慣れな公用交易語で受付に依頼の完了を告げて割符をカウンターに置く。今回は薬草採取だったので採取した薬草も依頼分のみ取り出してカウンターに出す。
「では確認してきます」と言って受付さんとは別の人が乾燥済みの薬草を奥へと持って行った。
「こちらの番号でお呼びしますのであちらで番号が呼ばれるまでお待ちください」と待合広場で待つように言われたので番号札を貰ってそちらに移動しベンチシートに腰掛ける。
「なんかホントにお役所って感じだったねー」
これまで無言だった和花がようやく口を開いた。
「イメージと結構違ってて結構ガッカリ感はあったね」
「組合発足前は冒険者の酒場なんて呼ばれる酒場にたむろしていた冒険者に依頼したり、その酒場の主人に適性のある冒険者を紹介してもらうって感じだったり、教会が信者から依頼を受けて神官戦士を派遣するなんて事もやっていたけどな」
そう答えたのは隣に座っていた軽装の戦士風の冒険者さんだ。
簡単に挨拶を交わした後で冒険者さんはこう言った。
「この町はしばらく碌な仕事はないから軍資金に余裕があるなら南部域へ行くといいよ。あそこの迷宮都市は有名で人も金も仕事も集まるからな」
「なるほど…………。ではなんで貴方はそちらへと行かないのですか?」
疑問に思ってそう質問してみた。儲かるなら普通はそっちにみんな流れるよね?
少し間が開いてからその冒険者は、
「俺は一人だし護衛や傭兵業ばかりだったから武器を振るしか能がないのさ。それだけじゃ迷宮は攻略出来ないからな。各種職能が揃って協力し合わないと難しい」
そう言ったのだが、募集すれば好いのではないだろうか?
「募集はなさらないのですか?」
だが僕の疑問は和花が口にしてしまった。一応事情があるかもと思って遠慮したんだけどなぁ。
「あーやっぱ等級のわりに一人っておかしいとか思った?」
そう言われて気が付いたのだけど、首から下げている認識票は金色だ。確か師匠の説明では金等級って話だ。この階梯の冒険者は一般的にはほぼ最上位に位置するそうだ。白金等級とか師匠の虹等級とかは雲の上の存在だという。
「一度一党を組んだことがあるんだけど…………信頼できる仲間を作ることは難しいって実感しただけだったのさ」
もう少し話を聞きたかったのだが、番号を呼ばれたので受付カウンターに移動する事となった。
「お待たせしました。提出された薬草に問題はなかったのでこちらが報酬になります。お疲れさまでした」
そう言ってカウンターに置かれたのは大銀貨5枚だった。
待合広場に戻ると先ほどの冒険者さんは居なくなっており、登録の終わった御子柴と付き添ってた師匠と健司が待っていた。
「大銀貨5枚だってさ」
「やっぱ薬草採取は少人数でやらないと厳しいな」
健司の感想はもっともである。
今回は依頼を受けて仕事をするという事と野外活動実習の名目なんでこれでいいけど、4人で活動するなら仕事の内容と報酬額はきちんと考えないとね。
「だけど思ったんだけど、野外での生活に慣れちゃえばこのくらいの報酬額でもなんとか食つなげるんじゃないかな?」
そう言ったのは御子柴だ。確かに宿代が浮くし食事もある程度は現地調達が出来れば安くすむ。御子柴の数ある趣味の中でサバゲーとソロキャンプがある。
「そうだ。この万能素子結晶を売らないと!」
今回の依頼のオマケのような感じだが戦闘訓練の名目で戦った巨大昆虫から採取した万能素子結晶が全部で25個ある。こいつを売れば結構な収入になる。
「水を差すようで悪いが、その万能素子結晶は非常時の為に取っておいたほうが良い」
僕らの話を横で聞いていた師匠が話に割り込んできた。
「どうしてです?」
それに対しての御子柴の疑問ももっともな気もする。
「換金は商人組合がある場所なら何処でもできるが、そいつは非常時には万能素子に変換できるんで、いざって時に持っていて便利だ。ましてや魔戦技使いや魔法使いがいる一党なら尚更だな」
そう師匠が説明した。
「でも俺の装備とかも買わないとだから…………」
確かに御子柴は装備がない。武器も防具も師匠からの借り物だ。
「隼人は重装備は無理だしそこまで費用は掛からないから大丈夫だ」
師匠の話からすると貸し付けた1万ガルドで何とかしろって事らしい。ここ数日の訓練で御子柴は斥候向きだとわかっているので軽装備になるはずだから琥珀金貨3枚以内で収まるとは思う。
「これから隼人の装備を見繕ってから宿に泊まろう。今夜は俺が費用を出す」
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