153話 依頼人と会う
2019-10-21 誤字修正
2019-11-02 サブタイ変更
2019-12-02 誤字修正
2020-05-03 誤字、一部文章を修正
魔術師組合へと二人無言で歩いていく。道行く人がほぼ確実にこちらに注目する。
こちら、正確には僕の左を歩く美優にだ。淡いピンクブロンドが目立つのもあるが美人さんなんだよなぁ…………。
元の世界じゃ武家出身者は総じて美形であり、「アイドル? あー目立ちたがりのブスの集団だろう?」とかよく耳にした。
悲しいかな評価基準が高すぎだからそういう酷い事も言えるんだろうけど…………。100点満点で90点が平均値とすれば80点とかでも低評価になるわけで…………。実際に美形俳優とか世間で騒がれていても僕らの学校だと周りが美形すぎて「普通だね」って感想しか出ない。
まぁ~この世界の美的感覚でも美人と思われているのは間違いない。表情を見た感じは逆という事はなさそうだ。
「ところで、いいんですか?」
そんなことを思っていると美優が唐突にそんな事を聞いてきた。質問の意図は分かっている。
「ちょっと確認したいことがあったからこれでいいんだ」
なんか流れで冒険者をやるって事になっているが、冒険者家業にはいくつか精神的なハードルがある。
僕らは軍資金があるので平時であればそこそこ贅沢が出来る。だが仕事中は呪的資源の関係で汚れ放題なんて事もあるし、グロいものを見たり処理したりもする。ここで折れる奴がいる。
次に御不浄、お花摘み問題。
大きな都市であれば有料の綺麗なトイレが点在する。中規模の都市なら汲み取り式だが囲いくらいはある。小規模な都市だと汲み取り式か物陰で済ませろみたな都市もある。村に至ってはそこらへんで穴掘って済ませろである。冒険者の活動場所は大半は野外だ、お花摘みの為に一党の傍を離れるのは危険が伴う。どうしても無防備だからね。何かあった時の為に5サート以内で済まさないといけない。更に難易度を上げるのが完全な遮蔽物の影は危険なのでせめて上体が見えるような場所で行う必要がある。これで折れる人がいる。和花は気にしていない風を装っていたがあれは強がりだろう。普段はおすまし顔の瑞穂も序盤はかなり躊躇った。だけど生理現象は止められないだろうし、戦闘中に漏らして大惨事とかも困るんだよね。匂いは生活習慣を見直して腸内環境を整えれば結構抑えられる。でも音はなぁ……。
最後は身だしなみだろうか。多くの女性冒険者は諦めている項目だ。和花や瑞穂はいつの間にか錬金術産の万能化粧水を買っていて手入れを怠っていないがこれが結構高い。お風呂もシャワーも一般的ではない。有料だけど樽にお湯を張ってもらうか、裏庭で水浴びである。
そういう話をしていく。和花を連れてこなかったのは余計な事を言わせないためだ。この話をされて「問題ないです」「たぶん平気です」とか言われてもたぶん信用できない。
「…………善処します」
暫く葛藤をした後にぼそりとそう答えたのだった。
「もし無理そうなら早めに言って欲しい。その場合は美優にはあそこに通ってもらう」
僕はそう言って目の前の大きな建造物を指し示す。
「あれは?」
「賢者の学院だ」
賢者の学院とは魔術師組合が経営する魔術師と賢者の養成学校である。僕らの感覚だと大学院って感じだろうか?
残念ながら僕らが読んでいた古典ラノベにあったような校内ランキングだの戦闘だのはない。この世界の魔術師に求められているモノは戦闘力ではなく高い知性と専門性の高い幅広い知識だ。もっともフィールドワークを重視する魔術師も居るしそう言う人はそれなりに戦える。
「入学金と教材費、月謝と寮費は僕らが負担する」
まず賢者の学院だが全寮制である。入学金が20万ガルド、教材費は1万ガルド、毎月の月謝と寮費が合わせて5千ガルド必要になる。ここに放り込む場合は美優には僕らには手に入りにくい知識を修めてもらいたいと考えている。全寮制だしフラフラと遊び歩かなければ安全だ。
一応元の世界に送り返さないで済む方法として考えた結論がこれである。
僕の知識は師匠との雑談や師匠から貰った本から得たものがほとんどで後は独学である。専門教育を受けた知識人が欲しいなと思ってはいたのである。
もっとも強制するつもりはないし、冒険者としてやっていけそうなら何も問題はない。
「考えておきます…………」
美優のその口ぶりはあまり歓迎していないようにも感じられた。
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魔術師組合に到着し、受付で今回の依頼人であるアルフォート導師の面会を申し込んだ。面会予約取るのが礼儀だろうけど、他の三つの仕事が割と手早く片付けなければならない案件なので、面会に時間がかかるならばこの仕事はキャンセルする可能性もある。
確認を終えた受付さんの回答は「直ぐにお会いになるそうです」だった。
魔術師見習いに研究室まで案内してもらい応接室のソファーに腰掛け待つこと数分、かなり老齢の長衣を纏った女性が奥の扉から姿を現しソファーに腰を下ろした。
「お待たせしました。私が依頼人のアルフォートです。依頼内容の確認との事ですが、受けていただけると思ってよろしいのかしら?」
「その仰りようは機密性の高い仕事という事でしょうか?」
「えぇ、そう思っていただいて構いません。極まれにですが依頼内容を聞いた後に断っておいてこっそりと現場に赴き成果を盗む輩が居るらしいの」
アルフォート導師は冒険者を信頼はしていないという事かな?
ここで依頼内容を聞いて断れば組合に苦情が逝き査定に影響するし、場合によっては大きな罰則もありうる。胡散臭い依頼だと思うなら断ってくれという事だろう。
「機密にかかわらない範囲で構わないので条件を聞いても? 実は他に依頼を受けていまして調整が必要なのです」
「なるほど…………」
アルフォート導師はそう言うと少し考え込んでから、
「一週間後にある場所に赴いて夜中に確認して欲しい事があるの。それのレポートを提出して頂きたいのよ。内容如何では私も現地に赴くので追加依頼で護衛を頼むかもしれないけど」
一週間後と言い切ったって事は…………。
「双月が満月の日ですか?」
魔術関連なら二つある月が双方満月になるときに何らかの現象を発揮するという事もある。そして完全な状態の双月は確か半年に一回くらいだった…………はず?
という事は間に合わなければ依頼失敗という事か?
一週間後の真夜中か…………。色々と思案したのちに僕は回答を下した。
「判りました。お受けします」
それからアルフォート導師の依頼内容に関せる説明が始まる。まずはここから北に徒歩で五日ほどの小高い丘にある環状列石が目的の場所だと言う。地理的にはルーファス村の奥の森の反対側となる。場所的には問題ない。
文献によると双月が中天に差し掛かるときに扉が開くとあるそうで、それが何かを確認して欲しい。出来れば扉をくぐって、中も調べてもらえれば大助かりだけど…………とも言われた。勿論その場合は追加報酬が出る。
「確認したいことが二点あります」
「どうぞ」
「仮に扉を潜ったとして中のもの権利はどなたに帰属するんでしょうか?」
「…………そうね…………、貴方に任せるわ」
アルフォート導師は少し悩んだ末にそう答えた。これは間違いなく試されているな。
追加報酬なしで結果だけ報告して終わりか、中に入るか、入った場合は中のものを懐に入れるかどうかなどで今後の付き合いが変わりそうだ。
これっきりと割り切ればアリだろう。
「もう一点ですが、カラの遺跡だった場合はどうします?」
あとで僕らがくすねたなどと言いがかりをつけられる可能性もある。
「なら真実の口を使いましょう」
かなり有名で強力な魔法の工芸品だ。たぶん今までみたいな【虚偽看破】や【嘘発見】対策では通じないだろう。
ならここは誠実に片づけて信頼を得る方を選ぼう。
「判りました。ではこれから準備します。遅くても二週間後には報告に上がります」
それで話は終わった。
応接室を辞して廊下を歩いていく。
「美優。悪いけど結構時間との勝負になると思う。君の事を気遣ってあげられるか分からない。辛いからと言って途中で帰るとか言われても送ってあげられない。もし躊躇があるなら今、この場で決めて欲しい。駄目なら入学手続きをする」
「いえ、ついていきます。もしダメならその時は見捨ててください」
僕の問いに美優はハッキリとそう答えた。
何時も閲覧ありがとうございます。暇つぶしくらいにはなっているのでしょうか?




