152話 初心に返ってみる
2019-11-01 誤字訂正
2019-11-02 サブタイ変更
冒険者組合へ寄ることとなった。ある意味冒険者にとって基本装備をまだ買っていないからだ。組合の手前?にある冒険者向けの雑貨商に立ち寄り必要装備を見繕っていく。
先ずは水袋だろうか? 実はこれ羊や牛の胃袋や膀胱で造られているんだよねぇ。最初に師匠から説明されたときは生理的に飲むのを躊躇ったほどだ。大きいもので6リーターサイズだがコレは重すぎるので2リーターのモノを購入する。東方は一日歩けば水場が数か所あり、あまり大きな水袋は必要としない。だが、場所によっては現地人ですら運が悪いと腹を下す。一応だが約2リーターの水を生み出す【水作成】という魔術があるが呪的資源消費を嫌って余ほどのことがないと使わない。これが20ガルド。
次に防寒、雨対策に頭巾付き外套を購入する。防寒は魔術でも何とかできるが効果時間が微妙だし呪的資源的に余ほどのことがなければ使わないので基本はこれだ。これが65ガルド。
他にはおしゃれ装備としての靴ではなく旅行用の丈夫な長靴だ。丈夫で防水加工もされており若干だが長時間歩行での脚部への負担も軽減してくれる。これが20ガルド。
後は毛布が50ガルド、後は基本セットとも言うべき、中型の背負い袋、大袋、小袋、万能ナイフ、小槌、楔20本、鉤爪、細縄2.5サート、松明6本、火口箱、青銅製の手鏡、木製の食器一式で150ガルド。
これで美優用の最低限の装備は整った。デザインに不満があるようだが、この世界だとあまり実用品にデザイン性は求められていないのだ。一応あるにあるのだが、完全受注品の為か10倍以上の価格となる。
背負い袋にこれらを放り込み、さらに替えの下着と衣服を詰めて背負わせてみると…………。
「すみません。これ、結構重いです」
そう感想を述べた。
マッチョになって貰っても困るけど、取りあえず君は体力がなさすぎる。そこは頑張って貰うしかないだろうなぁ。僕らと行動するなら最低限このくらいは出来ないと困る。
取りあえず雑貨商の用事も片付いたので冒険者組合へと赴く。毎回思うのだけど、必要なお店を一つの施設に纏めてくれないものだろうか? 結構面倒臭いんだよね。
そんな事を思っているうちに師匠が依頼掲示板から依頼票を四つ持ってきた。どれか選べって事だろうか?
「これ、全部受けてこい」
そしてこちらの想像の斜め上な事を仰ったのだ…………。この鬼め。
逆らってもいい事はないので、受付の順番が来るまで取りあえず依頼票を確認する事にした。却下したらたぶんだが、好きにしろって言って去っていきそうだけど。
一つ目は古代王国時代の遺跡の調査だ。詳しい内容に関しては依頼人と面会してからとなっている。報酬は一党で5000ガルド、金貨五枚だ。
二つ目はここから徒歩で二日ほど行ったルーファスという村に赤肌鬼が数匹出たので駆除して欲しいという内容だ。報酬は一党で3000ガルド、金貨三枚に赤肌鬼の首一つにつき100ガルドだ。
三つ目は徴税官の代わりに領主のいないランサス村の巡回してトラブルがあれば対処してこいという内容だ。場所はルーファス村の隣なのでついでという感じだろうか? 報酬は一党で2000ガルド、金貨二枚。トラブルを解決した場合は追加報酬あり。
四つ目はルーファス村の奥の森に希少な野草が採取できるという。それを適正な手段で採取して持ってきて欲しいという内容だ。詳細は魔術師組合でとの事だ。報酬は一党で1000ガルド、金貨一枚だ。更に野草の株一つにつき500ガルド、合金貨一枚だ。
最初のひとつ以外は場所が近い。まとめて受けた方が得だろうという事だ。あとは期限がどれも長くない依頼のようなので効率よく処理しないとマズいという事だろうか?
一番目の依頼はどこまで行くかによっては失敗も視野に入れる必要があるかな?
受付に呼ばれたので手続きに赴くと、健司好みの巨乳な美人の受付さんだった。認識票と依頼票を差し出し必要書類に記載していく。受付さんは依頼票の確認をしながら指示書の作成をしていく。
「銅等級の方ならもっと報酬の高い仕事がありますよ? これってどちらかと言えば白磁等級か茶鉄等級の仕事だと思うんですが…………」
作業の手を止めた受付さんがそう口にした。これって穿った見かたをすると初心者用の仕事をいくつも取るなよって感じなのだが、どうやら違うようだ。
「本当に助かります。最近は白磁等級が行方が分からなくなる事件が多いですし、ベテランは安い仕事は受けてくれませんから初心者向けの仕事は達成不能になる事が多くて困っていたのですよ」
若手が行方不明な件はもしかしたら、騙して犯罪者に仕立ててそれを熟練者が刈り取って犯罪奴隷として処分させるあれだろうか?
「お任せください。受付さんの為にジャンジャン処理しますよ」
そう言って受付さんの手を握りしめるのは、つい先ほどまで黙って後ろに立っていた健司だ。そろそろ妓館通いが飽きたんだろうか? 普段はこんな事はしないのだが彼はこのお姉さんを口説き落とすつもりなんだろうか?
対する受付のお姉さんも満更でもない表情だ。
ま~健司は容姿は整っているし、こっちの世界ではモテル男の条件に適合しているからなぁ。イケメンに言い寄られて気分が悪くなる人も稀有だろうし。
とはいえ、受付業務を済ませてもらえないとこっちも困るので咳払いをして正気に戻させる。
慌てて謝罪をすると手早く指示書を作成して預けていた認識票と指示書四枚を受け取る。
「健司、いくよ」
カウンターを離れ振り返り健司を呼ぶ。彼は受付さんと二三話し込んでから「待たせたな」とやってきた。
「フローラさん、20歳、独身、恋人なしだってよ」
聞いてもいないのに健司がそう嬉しそうに報告する。受付さんの年齢だとそろそろ結婚を考える頃かな? 女性の場合は村だと結婚適齢期は17歳くらいまでと言われている。それが都心部では25までに結婚できないと莫大な持参金を用意しないと結婚してもらえない、らしい。
「口説き落とすの?」
「そのつもりだ」
「なら暫くはここを拠点に活動した方が良さそうだね」
僕は健司にそう答えたのには訳がある。僕らは銅等級だが、これは臨時処遇で得たものなので更なる高みを目指すためには普通の冒険者のように多岐にわたる依頼を熟し組合に認めてもらわなければならない。本来冒険者に求められているのは”なんでも屋”としての万能ぶりだ。
そう言う意味では初心にかえって頑張るにはちょうど良かったかもしれない。
時間も惜しいので早速だが魔術師組合の依頼者に面会予約を取りに行かねば。大所帯で行動してもしょうがないので二手に分かれるか。
「僕は依頼人に会ってくる。美優は僕に付いてきて欲しい」
これは依頼人とのやり取りを見てもらうためだ。
「今回は美優の教育の為に魔法の鞄の使用を禁止するので、各自それに合わせて必要なものを補充して欲しい。一刻後に魔術師組合の前で集合しよう。…………解散」
やや不満顔の二人は無視して美優を連れ立って魔術師組合へと向かう。
お読みいただきありがとうございます。




