147話 流星墜ちる時
2019-10-10 サブタイに①を入れ忘れたのを発見
2019-10-12 サブタイに①を削除
その轟音と振動は夜中の事だった。その時、僕はたまたま魔術の勉強の為に呪文書を読んでいた。
この魔導騎士輸送機の居住区は防音対策と振動対策が施されており、ちょっとの事では外の音は入ってこない。
轟音が聞こえたと言う事は近くで大規模な爆発事故でもあったのだろうか?
流石に気になったので部屋から出ると、ちょうど瑞穂が走りこんできて徐に僕の手を掴む。
「こっち」
そう短く告げると僕を最上部に増設してある見張台へと導く。狭い見張台に二人して身体を押し込めて、「何があったの?」と尋ねると無言のまま、ある一点を指差す。雲一つない空で双月の明りで周囲は結構明るい。だが近場で爆発があった形跡はない。僕らを軟禁している衛兵さんたちは右往左往しているのが見えるのだが、上官不在なのだろうか?
「もっと向こう」
僕が場違いなところを見ていることに気が付いた瑞穂が指摘され遠方に目を凝らすと…………。
「何だ…………あれ?」
中心街の方で煙らしきものが上がっているのが見えた。だが距離を考えると少々の爆発程度じゃ済まないはずだ。ここから中心街までは軽く2.5サーグはある。アレを使って状況を確認しよう。そう思い立って見張台から降り自分の部屋に戻る。
魔法の鞄から【魔化】された白い布を取り出し床に敷き呪句を唱え始める。
「――、発動。【幻影地図】」
魔術の完成により白い布の上に周囲の情景が立体投影され始める。
表示箇所を変更させて中心街の方を見てみると…………。
「このクレーターどこ?」
部屋の扉を開けっぱなしにしていたこともあり女性用寝間着姿の和花がいつの間にか覗き込んでそう呟いた。
「これ、衛兵の本部じゃないかな? 近くに戦の神の神殿が見えるし」
和花と同じようにいつの間にか侵入していた美優がそう教えてくれる。その恰好はやはり女性用寝間着姿だ。外出時に和花が事前に購入していたものである。
拡大と明るさを調整してみると、クレーターの中心は衛兵本部があった場所である。この世界でこの規模の爆発は稀有だ。【火球】の魔術は半径1サートほどだが、建物全体が吹き飛ぶレベルまで効果を拡大することはほぼ無理だ。
高品質高性能の爆破用火薬もないはずだ。気化爆発かとも思ったけどそれも違う。
「周囲の建物倒壊具合から言ってただ事じゃないよ」
和花にそう指摘されて目を凝らすと赤い物体が多数見える。それらは煙をあげているのだが…………。
「隕石でも落ちたのかな?」
「あ…………」
赤い物体は摩擦で赤熱化してる隕石の破片?
衛兵の本部には黒長衣が捕らえられていた。偶然隕石が落ちるか?
「【隕石召喚】? いや、威力を強化してもここまで被害が大きくなるわけじゃない」
自分の考えを呟いて、自分でそれを否定した。爆発の衝撃は周囲75サートに及ぶ。その衝撃波が及んだ範囲の建物のほとんどが倒壊している。【隕石召喚】の魔術の効果範囲は通常で半径5サート程度だ。
「なら、戦術魔術の【魔流星】だろうね」
その助言はフェルドさんのものだった。さらに話は続く。
「例の黒長衣の粛清と情報流出を止めるためだろうけど、見せしめとしてもやりすぎだね。これは――」
「この術者は力に溺れておるな。強大な力を振るいたくて仕方ないんじゃろう」
フェルドさんの説明にかぶせるように語ったのはゲオルグだ。健司以外はみんな来たことになる。まさかと思うが健司は寝ているのか?
「まぁ…………言われてしまいましたが、まさにそれです。【魔流星】を単独で使える使い手には4人ほど心当たりがありますがどの人物も性格はともかく殺るならもっと合理的でしょう」
そう言って使い手の名をあげていく。
師匠、師匠の相棒のフェリウスさん、メフィリアさんと来て最後に名前が出たのは魔術師組合の最高責任者で至高の大賢者にして当代一の至高の大魔導師たるラーフェン・デア・アルカード名誉侯という人物だ。平民でありながら偉大なる功績と実力によりウィンダリア王国で当代限りとは言え侯爵号を賜り、また年齢も150歳を超えているという異例尽くしの人物だ。
フェルドさんの予想によると何らかの魔法の工芸品を手に入れて使いたくてウズウズしている精神が子供のような人物ではないかと思っているとの事だ。
部屋が静まり返っている。
惨状が酷く声も出ない。
一体どれだけの人が死んだんだろうか? 周囲には神殿の若手の寮のようなものや冒険者向けの宿などもあった筈だ。
僕が黒長衣を連行しなければ、こんな惨劇を防げたのだろうか?
「確証もないのに自分のせいでなんて思い込んではいけないよ」
自虐的な気分はフェルドさんの一言で救われた気がした。言い方は悪いが"たられば"で語りだしたらキリがない。美優を誘拐しようと計画していたことは事実だし…………あれ?
「そーいや、あの黒長衣って【転移】の魔術が使えたのに何であの場にいたんだ?」
美優を捕らえたのであれば【転移】の魔術で送ってしまえばいい。だが、和花の話だと縛って監禁していたとの事だ。
「情報もないのに憶測で考えても答えには行き着きませんよ」
思考の迷路に陥りそうな僕をフェルドさんが嗜めてくれた。勘だけで答えに辿り着くこともあるだろうけど最初からそれに期待してはいけないね。
さて、問題は僕らは今後どう動くかだ。
美優はこの周辺国では面が割れているので魔導騎士輸送機に軟禁コースだ。服とか下着の補充も必要だし混乱著しい東方北部域に移動した方が良いのだろうか?
魔導機器組合の生産拠点も兼ねる中継都市ミルドに戻るべきか?
美優には悪いけど、いま混乱してる状況で出国すると流石に目立ちすぎるのでもうしばらく間を置いてから出国するかぁ。そういえば戦の神の神殿も被害を受けていたけどゲオルグはどうするんだろう?
「儂は戦の神の下僕であって神殿組織の下僕ではないから、樹殿について往くよ」
当人に確認を取ったらそう返ってきた。神殿組織に阿っていても信仰心が高まるわけでもないとの事だ。
今日は様子を見よう。
ブックマークが増えておりました。
どなたかは存じませんが大変ありがとうございます。




