145話 後始末②
上から重量物が落下し大きく損壊し朽ちた飛行魔導輸送機…………お宝…………まさか!
僕は慌てて駆け寄り破損して半開きの扉を潜り抜け居住区へと駆けこみ後部へと移動する。最後尾の部屋へと到着する。構造上目的のブツはここにある筈だ。
「これか…………」
それは傷ひとつない状態で鎮座していた。持って帰ればひと財産、成功した冒険者として尊敬を嫉妬の視線を浴びること間違いなしなモノだった。
確認の為に右手を機械にかざし魔力を送り込んでみると…………。
船体が揺れ始めて僅かながら浮遊感を感じる。
「他の機関は死んでいるのか…………」
この部屋は機関室に相当し、浮揚ガスを生成する装置や燃料タンク、万能素子転換炉などが所狭しと配置されていたが本命の装置以外は機能していないようだ。
「慌ててどうしたんだよ」
遅ればせながら健司がやってきたが、鎮座するモノの価値が彼には分っていないようだ。
「健司、よく聞け。こいつは浮遊装置だ。このサイズの船体を浮かべるだけの出力だと…………俺ら、もしかしたら一生豪遊できるかもしれんよ」
「マジか…………」
僕の予想に健司が唾を飲み込む。船体のサイズが20サートもあり、外殻が金属製だった事からそこそこの重量の筈だ。それを浮揚ガスだけ浮かせるには無理がある。こいつの出力はかなり高いはずだ。そしてこんな高性能品は現在の魔導機器技術じゃ製造できない。
「どうだい、お宝だっただろう?」
そう言って石の従者を二体引き連れたフェルドさんが現れる。
「それを運ぶのにこいつらが必要だろう?」
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怪力を誇る石の従者二体をもって装置を強引に外し慎重に船外へと運び出した。まずはこいつを魔導騎士輸送機に運び込まないとまずい。
それこそ他の冒険者に見つかろうものなら「殺してでも奪い取る!」になりかねない。
フェルドさんに先行して魔導騎士輸送機まで運んでもらうとして。ゲオルグと健司に同伴してもらう。フェルドさんが奪い取るのを警戒してるわけではない。
この人はあまり金品に興味がない。上位森霊族として妖精界に住むことが多いだけにこっちの世界のお金に関しては必要分持っていれば十分と考えているからだ。聖職者に属しているゲオルグも出し抜こうと考える事はあるまい。一番可能性があるのは健司だが僕は彼を信用している。裏切られるとしたら僕に人を見る目が無かったという事だ。
フェルドさんに石の従者二体の制御と誘導をしてもらうので二人は警護だ。
帰り支度と残務を行い遺跡の外へと出ると明るかった。時間ははっきりしないが三の半刻だろうか?
「すまないが、荷物を収納したら魔導騎士輸送機をこっちの村へと移動させてほしい」
展開した【幻影地図】に表示される集落を指さし三人にお願いする。
「この村は?」
そう疑問を口にするフェルドさんに、
「緊急案件の依頼のあった村です。僕らはこちらに向かい残務処理を済ませておきますので迎えに来て欲しいのです」と理由を説明する。
三人は了承し森の南に停止させてある魔導騎士輸送機へと去っていく。石の従者二体が浮遊装置を担いでついていく。
「僕らも行こうか」
簀巻きにした黒長衣を担いだ石の従者が先行して森を東へと進んでいく。それを制御するのは僕だ。無詠唱魔術の自爆を警戒して石の従者から2.5サート後方に位置する。周囲を警戒するのは瑞穂である。その瑞穂に追従するように二匹の子犬が付いてくる。
とくに森の生物に襲われるなどのトラブルもなく足の遅い石の従者に追従しても一刻ほどで森を抜けた。目と鼻の先に村が見える。
「悪いけど君らはここで待機してて。たぶん遅くても昼頃には健司達が拾ってくれるはずだ」
瑞穂にそう告げてひとり村へと入っていく。
「あんた、旅人か? いや、冒険者か。それにしちゃ荷物がないな…………」
多くの村人は畑作業をする中、僕に声をかけてきた壮年の男性は腰に小剣を提げ手には短槍を持ちそれを僕へと突き付けている。確かに今の僕は完全武装しているが手荷物がない。
「僕は冒険者ですよ」
そう言って首元から認識票を取り出し掲げる。
「単独の冒険者は珍しいな。この村に何の用だ?」
壮年の男はたぶん引退した冒険者なのだろう。武器の構え方がそれなりに様になっている。
「ご依頼の件の後始末とその報告に来たと言えばわかりますか?」
「お、おう…………。村長!」
依頼の話はきちんと伝わっているようで大声で村長を呼ぶ。程なくして近くの畑から中年期の男性がやってくる。
「依頼書の提示をお願いしても?」
村長らしき人物が言う依頼書というのは組合で貰った依頼指示書の事だ。
魔法の鞄からそれを出して見せると納得いったようだ。
「これから仕事かね?」
依頼には完了期限があるために仕事と街までの期間の時間を逆算すると普通であればギリギリなのだが…………。
「もう完了しています。こちらが証拠です」
僕はそう言って魔法の鞄から剥ぎ取り部位が納められた大袋を取り出し、「中を検めますか?」と問う。
壮年の男が袋の中身をぶちまけて検分に入る。奥はそれを横目で見ながら村長らしき人に報告する。
幾つか確認と称して質問をされ、それに対して淀みなく回答を返すことで僕の報告を真実と判断したようで依頼完了証明札を差し出す。これと指示書を受付に退出すれば完了だ。
「赤肌鬼以外にも結構厄介なのが居たようだな。助かったよ。ところで…………先に依頼を受けた冒険者を見なかったか?」
壮年の男がそう聞いてくるのは分かっていた。前金だけ分捕って逃げ出す奴らが一定数入るのだ。
魔法の鞄から六つの血塗られた認識票を取り出して見せる。
「残念ながら僕らが行ったときには死体すらありませんでした。そいつは偶然発見したものです」
遺跡を出る際に女性冒険者一名は発見していた。恐らくだが魔神の支配者の生贄として使われたのだろう。残りはゲオルグが下水というか廃棄場で見つけて回収したものだ。
「そうか…………まだ若い冒険者だけに惜しい事だ」
壮年の男性はそう言うがあの規模の一団相手に撤退を選択しなかった冒険者がマヌケともいえる。命あっての何とやらだ。
もっとも僕らも偉そうなことは言えないんだけどね。
「用件は終わりましたので僕らは帰ります。外に仲間を待たせていますので」
村長らしき人物と壮年の男性が無言で頭を下げる。この時間は彼らも暇ではない。さっさと去るのも礼儀だ。僕は踵を返して村を出ていく。
僕が村を出たころには健司達が到着しており、黒長衣は荷台の端っこに放り出されていた。急いで戻ろう。
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村を離れあと四半刻もすれば聖都ルーラの西門へと到着するというタイミングで僕はフェルドさんに一仕事して貰うために呼び出した。
「フェルドさん。ちょっとお願いしたいことがあります」
そう言って荷台へとやってきたフェルドさんに耳打ちする。
「あるよ。ただ魔術と違って確実性はないから過信はしないようにね」
この後始末にはフェルドさんの精霊魔法がどうしても必要だ。問題なく引き受けてくれたことに感謝してそれの前に移動する。
「忘却の精霊よ。彼のものの記憶を消し去れ。【忘失】」
フェルドさんの精霊魔法が簀巻きにされた男に影響を与える。彼は目隠しされ耳栓され猿轡されており突然自分の記憶が一部喪失した事に混乱して暴れる。
この精神、というか感情を司る精霊は面白い事に複数存在する。どういった記憶を忘却したかは分からない。ただ効果は忘却に違いないのだが、効果は例えるなら本の目次が一部消えてしまう状態のようで思い出そうと思っても思い出せないという状態と化すという。そしてなぜフェルドさんにお願いしたかと言えば、この精霊魔法の効果は解除される可能性もあるからである。
解除されないためには魔力強度の高い術者が施すのが一番である。仮にも神話の時代に神と轡を並べた人物なら並大抵の術者では解除は出来ないだろう。取りあえず一安心である。
そして二つ目の問題に直面する。
入都手続きを行う際に珍しい事に内部調査を実施すると言われ数人の衛兵と審議官が入り込み様々な質問を投げかけてくる。これは想定はしており対処してある。自分以外に【暗示】の魔術を施してあり和花絡みの件は記憶が有耶無耶になっている。ただし効果時間が半刻程しかないので内心は冷や冷やである。
そして荷台に転がしてある簀巻きを発見される。
「これは何かね?」
審議官が僕にそう尋ねる。
「聖女誘拐の関係者です。ここに命令書があります」
僕はそう言って回収した命令書を差し出す。審議官は一瞬怪訝そうな表情するが命令書に目を通すと次の質問を口にした。
「この男がなぜこのような扱いをされているのだ?」
「そいつは【転移】を使う魔術師で無詠唱魔術を使いこなすので用心してそのような処置をしております」
僕はそう回答した。
「なるほど…………」
審議官を考え込む。そろそろ想定してる質問が来るはずだ。
「ところで肝心の聖女様はどこかね?」
きたー! 絶対聞かれると思ったよ。
「ここにはおりません」
彼らの言う聖女はね。
「【転移】を使う魔術師が居るという事は、既に運ばれてしまったという事か…………」
そう呟く審議官は衛兵に簀巻きの人物を本部に運び出す事を命じる。
「申し訳ないが我々の権限で君らを一週間ほど拘束させてもらう。外出禁止を命ずる」
たぶん簀巻きの人物の尋問をして情報の裏どりをするためだろう。それは想定していた。
「それは構いませんが、僕らは冒険者組合から緊急案件の仕事を受けています。報告をしなければ罰則を受けるのですが、私だけでも報告に行けないもんでしょうか?」
そう言って指示書と依頼完了証明札を見せる。
「ふむ…………明日の朝に人を付けるので同伴であれば許可しよう」
「では、それを保証する命令書のようなものを頂けませんか?」
そう口にすると審議官は激昂する。
「君は法の神の神官でもある審議官を侮辱するのかね!」
よーするに戒律で嘘は付けない自分が信じられないのかって事だな。なら安心だ。
「失礼しました。無礼をお許しください」
「判ればよろしい。では明日の四の刻に迎えの衛兵を送る。あと念のために周囲に人を配置する」
そう告げると去っていった。
ふぅ…………相手が【嘘発見】の奇跡を疑わないガチガチの世間知らずの三流審議官で助かった。
師匠から【嘘発見】の奇跡や【虚偽看破】の魔術対策を教わっていて助かった。これらは抜け道があると事前に聞いていたのだ。そして世間と隔絶した空間で自分が教わったことが絶対と信じてきた聖職者や魔術師なら追及を躱せると言われていたのだ。
さて、最後の仕事だ。
僕は和花に割り当てていた部屋へと入る。そこには可愛い二匹の子犬が居るだけだ。
「ごめんね。いまから解放するね」
僕は呪句を唱えていく。何やらキャンキャン吠えているが生憎僕には犬の言葉は理解できない。
「綴る、基本、第一階梯、破の位、魔力、消去、対象、拡大、発動。【魔法解除】」
僕は肝心な事をこの時失念していた。
魔術が完成すると二匹の子犬は消え、背中を見せる素っ裸の美少女が二人そこに居た。
振り向くと涙目で僕を見つめて叫ぶ。
「「出て行ってぇぇぇぇ!」」
僕は慌てて逃亡した。
入院中に溜まった仕事と、同僚の尻拭いで今月はデスマーチなので更新が不定期になります。頑張れるときに更新となる事を貴重な読者様にお詫びします。




