130話 出会う
「肉体労働者向けなんだろうか?」
目の前に出された料理を前にそう呟かずにはいられなかった。
ここらではよくある昼間は食堂としてい開いている酒場へと入る。その店はメニューがなく昼間は日替わり定食のみとの事でそれを注文する。
この世界ではほぼ先払いが基本なので四人分で銀貨20枚支払う。
そして待つこと八半刻テーブルに並べられたものは、豚肉の生姜焼きのようなものだった。
日本帝国で見慣れたものに比べるとかなり肉厚だ。だが最も違ったのが大皿に四人前が乗って出されたことだ。陶器製の大皿に山の様に乗せられたそれは持った感じだと皿込みで9.6グローほどありそうだ。刻んだ葉野菜が申し訳程度に添えられている。
「見てるだけで胸焼けしそうなんだけど……」
そう和花が呟き隣の瑞穂もうんうんと頷いている。
大半は健司の胃袋に消える事だろう。
難点と言えば出された主食が長粒米の炒飯っぽものだった。そこは短粒米の白米だろうと店主に突っ込みたい。
汁物として出されたものが豚汁もどきだ。豚肉が安いとはいえ飽きないのだろうか?
せめて箸でもあればと思う。そういう意味では迷宮都市ザルツでの食生活が懐かしい。
肉の味付けに関しては不満はなかったが、なにぶん量が多すぎた。なんとか食べきると店員が皿を素早く片付ける。そしてまるで追い出されるように店を出た。
昼食は回転率優先でのんびり食べていられない。のんびり食べたい場合は持ち帰りをするのが基本だと出るときに言われた。
一人頭銀貨5枚なので回転率優先って考え方は分からなくないが、それなら事前にそう伝えて欲しいとは思った。
その後はブラブラと四人で移動する。
思ったのは冒険者の多さだ。平服に首から認識票を下げているので一目でわかる。まぁー登録総数500万人いるとか言われてるのだから多くて当たり前なのかもしれない。
理由は冒険者組合に行った事で判明した。
まるでゲームの様に討伐依頼や調査依頼が多いのである。
護衛の仕事はどの支部でも一定数あるのだが、北にそびえるクラム連山には魔獣や妖魔族の生息地、未盗掘の古代王国の遺跡が数多くあると言われており一攫千金を求めてそれなりに実力のある冒険者が集っているのだそうだ。
迷宮都市ザルツには劣るものの聖都ルーラの人口並の冒険者が居るとの事だ。
ゲーム攻略のようなお膳立てされた迷宮踏破には飽きていたし本来の目的とは別にここを拠点にするのもアリではないかと思い始めていた。
「なくなっている…………」
依頼板の隅に貼られている賞金首を確認していた。
賞金首に仕立てられた御子柴の張り紙がなくなっているのである。
この規模の組合なら告知忘れなどあるはずもなく、張り紙がなくなったと言う事は捕まったか死亡したかと言う事だろう。
「逃げ切れなかったのか……俺らが力がないばかりに何もしてやれなかったな」
淡々とそう口にする健司だが、結構コンビとして息が合っていただけに内心はいかほどのモノかは僕には想像できない。
必要な事は確認したので組合を出ると、大通りに沿って人だかりができていた。
近くの市民に問うと複数の宗派の選ばれた戦士たちで構成された聖戦士団が魔物討伐の遠征から戻ってきたのだそうだ。特にこの国では若くイケメンの戦の神の枢機卿と、複数の宗派から聖女認定された少女は特に人気なんだとか。
程なくして陽光に煌めく装甲の二列縦隊の重装騎兵が姿を見せる。仰々しい格好だが魔物討伐ではあまり役には立たない筈なのでこれは多分見世物としての重装騎兵だろう。その一団の後ろから姿を現した二頭立てのオープントップの四輪馬車が見えた途端歓声が上がった。
歓声に応えて笑顔で手を振る二十代半ばの茶髪イケメンは間違いなく噂の枢機卿だろう。金糸をふんだんに用いた豪奢な法衣からも間違いないと思う。
地位とか名声とか権威とかが高まると大半の者は成金趣味に走るが、これは教養がない愚民が見ても判りやすい特別感を出すためだと師匠から聞いた。
だが僕の視線はその隣で周囲に手を振る少女に釘付けだった。
「花園さん……」
「「「えっ」」」
まさかこんなに早く目的の人物と遭遇するとは想定していなかった。横の三人は驚いているが僕にはわかった。
見た感じの雰囲気は確かにかなり違っている。化粧のせいもあるだろう。僕が最後に見たのは彼女が八年生の時だ。あれから一年以上経過している。髪を結構伸ばしているし体形も大人っぽくなった。
「ま、負けた…………」
左隣の和花さんが打ちひしがれている。何が負けたのかについてはここでは明記しない。僕はまだ死にたくない。
通過する際に目があった。
一瞬だったと思う。
民衆に手を振りながらも顔は僕の方を向いていた。
やがて討伐隊は軽装騎兵、輜重隊と続き気が付けば先頭集団は見えなくなっていた。
民衆も輜重隊には興味がないようで次々と帰路へと就く。
「居場所はすぐに判るだろうし面会に行くか?」
「…………いや、あの扱いだと面会に行っても門前払いだと思う」
健司の問いに僕は首を振りそう答えた。
「しかし、あいつらって何を討伐してきたんだ?」
「大物討伐にしちゃ鎧が綺麗すぎるんだよね。式典向けに着替えた可能性もあるけど人気取りの為の演出みたいな印象も受けたなー」
「何のために?」
「あのイケメン枢機卿の将来の為に…………かな」
「将来、法王になった時の為の人気取り…………みたいなもんか?」
「たぶんね」
健司の問いにそう答えると以後は興味がなくなったのか、「魔導機器組合にでも行こうぜ」と言い出した。
「そうだな」と同意し左を見ると和花さんが何やらブツブツ呟いている。右を見れば瑞穂が頻りに胸をペタペタと触っている。君はまだ可能性がある。
「それじゃ、行くよ」
僕は二人にそう言って歩き出す。
さて、退院日も近づいてきました。
そろそろ分岐点が迫っているが主人公に何方を選ばせるか迷っている。それによって四章の流れも変わるだけに迷うなぁ。




