128話 聖都到着
結局何事も起こらずに聖都ルーラに到着してしまった。誰だフラグとか言った奴は…………。
まー確かに原速で移動する金属製巨大構造物を相手に襲撃してくる奴は普通はいないよね。
目的地でもあった聖ウラン王国は少々特殊で領土の総てを長大な市壁で覆われており市壁の内部だけで完結している宗教国家だ。この聖都ルーラを囲む長大な市壁には北、東、南、西と四つの門が存在する。
本来であれば南門から入都するのだが、僕らの魔導騎士輸送機は巨大すぎて西門からしか入都出来ないのだった。
南門から西門への移動と順番待ちで二刻は経過し、陽は傾くころになってようやく僕らの順番が回ってきた。
入都手続きを済まし滞在許可証を貰い荷台等の荷物検査が済むころには陽が暮れていた。
駐機場に魔導騎士輸送機を停止させる。この辺りは倉庫街と魔導機器組合の施設がほとんどで娯楽施設はほぼない。陽が暮れてしまい周囲は二つの月が照らす明かりのみだ。流石に迷宮都市ザルツのような気体燃料街灯はない。
一応は夕刻に滑り込み入都した商人相手の酒場や宿屋もあるが僕らには関係ない。
いつも通り魔導騎士輸送機の居住区で食事を摂り眠りにつく。
明けて三の刻に留守番役のハーン、アンナ、ピナを残して僕らは降りる。ここからは乗合馬車での移動となる。
都市部は中央に向けて徒歩で半日ほど行った場所にあり総人口二万人と規模だけなら都市国家レベルである。
なぜ僕らが魔導騎士輸送機を降りたのかと言えば、この国の決まりで国内の移動は馬車か徒歩に限るとされているためだ。なんでも昔は乗り入れ自由だったのだそうだが、轢き逃げが多くて禁止したとの事だ。
そして乗合馬車で一刻ほど揺られお尻も痛くなってきたころ住居街へと到着した。
「短い間でしたがお世話になりました。当初の予定よりかなり早く到着し大変満足です」
シュヴァインさんはそう言うと報酬の入った小袋を僕に手渡す。紐をほどいて中身を確認する。うん、問題ない。
個人依頼で冒険者組合を通していないので割符はない。
報告義務もない代わりに評価もされないと言う事なんだけどね。
握手を交わしこの場で別れる。
見送った後、これからどうしようかと思案していると、
「これからの予定はどうするんかね?」
そうゲオルグが訊ねてきた。この地霊族のゲオルグは戦の神の神官戦士でもある。
「折角なので大陸最大規模の神殿の見学ついでにお布施でもしていきましょう。案内してもらえます?」
「承った。こっちじゃ」
鷹揚に答え歩き出す。不思議と地霊族って貫禄あるよなぁ…………。
町を歩いて気が付いたことは、外壁が重厚でその外壁を削って装飾としている点や小窓や小さな半円アーチなどが特徴だ。僕らの世界だと西洋のロマネスク建築に近いのだろうか?
世界が変わっても人間って考えることが似通るのかな?
ゲオルグの先導を元に次に来た場所は市場通りだ。ざっと見た感じだと豚肉が多く鶏や牛はあまり見かけない。
「この国では食用として豚を飼育しておるんじゃ。豚だけなら安く喰える」
ゲオルグがそう説明してくれた。彼の手にはいつの間にか豚肉の串が三本握られていた。まだ四の半刻だが地霊族にとってはおやつのようなもんらしい。
市場通りを抜けると神殿区画になる。街路は北の方に向けて緩やかにカーブを描き両サイドに大型の建造物が並ぶ。
「国教は戦の神だが法の神や秩序の神や豊穣の女神などの大神級の神殿が連なっとる」
ゲオルグの説明を聞き見回すと確かに幾つかの大神の神像が見える。だが、あくまでも中規模の分神殿と言った感じだ。
「規模が小さそうだけど、やっぱり高位の聖職者はいないの?」
「確か…………大神のところなら高司教あたりが最高位かのぉ」
和花の質問にゲオルグが記憶をさかのぼりつつ答える。歩いていると見逃しそうになるが小神を祭った分神殿も散見した。
暫く歩いていて気が付いたことがある。
「あれ? 始祖神の神殿がないですね」
「ガハハハッ、奴らは自分らの信仰する神より位階の低い神が人気なのを当時の責任者だった高司教が許せなかったらしくて二十年前に引き払っていったのじゃよ」
僕の質問にゲオルグが笑いながら説明してくれた。そして前方を指さす。
「あそこに見える大きな建造物が始祖神の神殿跡じゃよ」
二十年放置されてるなら荒れ放題かと思ったが思った以上に綺麗だった。
不思議に思っていると右袖をクイクイと引かれる。
視線を右にやると瑞穂が何やら前方を指さしている。改めて見つめると理由が分かった。
「信者が自主的に掃除してるのか……」
平服を着た少人数が誰に命令されるわけでもなく掃除をしていた。動きを見てもとくに連帯しているような印象は受けない。仮に所属する聖職者が居れば彼らのうちの何れかが法衣を着ているはずだからだ。
そこでふと思った事を口にした。
「ゲオルグって法衣を着ないの?」
「法衣は持っておるが、儂は神官戦士であり伝道師でもある。特定の神殿に所属という訳じゃないから必要がなければ身につけんよ」
「そうなのか…………」
そう言えばセシリーは着ていたけど、メフィリアさんは着ていなかったなぁ。
そんな事を思案しつつ始祖神の神殿を横切ると本命の戦の神の大神殿が見えてくる。
それは明らかに規模が違った。総大主教の住居であり、この国の行政機関でもある。
その巨大な神殿の前に多きな広場があり人だかりができている。
「なんだろう?」
そう口にする和花を見た後、人だかりに目を凝らす。
「決闘?」
金髪優男っぽい人物と対峙する人物は禿頭の巨漢の男だ。




