123話 宿泊①
7/26から入院しておりまして更新が滞っております。退院予定日は9月上旬頃となります。
慣れない環境で苦戦しておりますが少しづつ更新を始めます。
宜しくお願いします。
手続きが終わり現物が受付カウンターに置かれた。それは12.5サルト四方の黒い金属製の箱と板状器具端末に長さ0.25サート程の金属の串のようなものが15本だった。
「これ、想定してたより大きくない?」
「【時空収納】がなければ荷車を借りるしかなかったねぇ」
和花の問いにそう答えて【時空収納】へと放り込んでいく。
ブツを仕舞い込んで外に出るとかなり薄暗い状態だ。時計塔に目を向けると既に八の半刻を過ぎている。魔導速騎で夜間走行は初心者にはお勧めしないと師匠から聞いている。この世界の街道には街灯などなく、月明かりを頼りに走行することになるのだが、いまだ霧雨が降る状態で月明かりすら期待できない。【照射光源】の魔術で正面を照らしながらゆっくり走るという手もあるが、野生生物や野盗に襲撃される危険も増大する。
「市壁の門も閉まるし泊っていこうか? それとも急いで帰る?」
同じ事を考えていたのか先に和花から提案された。
「宿屋が取れたら泊っていこうか。見つからなければ治安が悪化してるけど注意しながら帰ろう」
「うん」
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予想はしていたが時間が遅かった事もあり部屋が空いていないかった。和花を同伴しているので大部屋で雑魚寝は流石に厳しい。特に冒険者同士のトラブルに関しては官憲が適当に処理することも多い。これが市民相手だとまた変わってくるのだが…………。所詮冒険者は犯罪者予備軍という認識なのだろう。
迷宮都市ザルツでの出来事で官憲に対して僕らの印象はあまりよくない。確かに冒険者は住所不定無職の日雇い労働者扱いだしね。
いくつかの宿屋を周るものの断られて閉門の時間も差し迫ってきたこともあり、次の宿宿屋で部屋を確保できなければ夜通し走るかないと思って市壁そばの一番高級な宿屋の扉を潜る。
まず入って驚いたのは正面に受付ロビーがあった事だ。旅慣れてはいないがこれまで見てきた宿屋は入るとまず食堂兼酒場があり、受付もそこで済ませることが多い。
「泊りかい?」
「はい。二名なんですけど部屋空いてますか?」
「申し訳ないが一番高い個室しか空いてないんだよ」
受付カウンターにいた初老の従業員が申し訳なさそうにそう告げる。
大部屋以外は一部屋分の料金なんで定員より多い人数で泊まると無銭宿泊って事で掴まっちゃうんだよねぇ。取りあえず「倍払うから問題ないか?」と聞くと、嫌そうな表情して「うちは連れ込み宿じゃないんですがねぇ」との事。若い男女だしそう見られたって事だろうか?
「ならいいわ。行こっ」
交渉する事もなく和花に手を引かれて宿屋を出ていしまう。あの従業員の表情を見る限りは既定の応対以外はしたくないって感じだったなぁ…………。
「もう市門も締まるし【変装】を解いて急いで帰ろう」
そう言って二人して【変装】を解く。入都する際の見た目と違うと拙いからね。これでよし。
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「おいおい、こんな時間帯に出立かい?」
そう声をかけてきた人は入都手続きの際に僕らの受付を担当した衛兵さんだった。
「それが宿屋が一人部屋しか空きがなくて駄目だったんですよ。ホント融通が利かないですよね」と言ったところ、キョトンとした表情で衛兵さんはこう言った。
「君ら銅等級でしょ? 認識票見せれば融通利くと思うぞ」
「そうなんですか!」
「ちょっと待ってな」
衛兵さんはそう言うと詰め所に駆込み奥にいる上司っぽい人に何やら身振り手振りを交えて説明した後に戻ってきた。
「そこの宿屋でいいんだろ? ついて来いよ」
そう言って先ほど僕らが出てきた宿屋へと歩いていく。よく判らないまま僕らもついていく事にした。
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結論から先に言うと宿泊できた。衛兵さんが受付で何やら話をし、僕等に認識票を見せるように言ってきたので取り出すと、分かりやすいくらいに態度を変えた。
最上位の個室が一泊で200ガルドで先払いとの事なので二人分として大銀貨8枚、即ち400ガルドを支払い、宿泊台帳に名前を記載する。
客室係が奥から出てきて「お部屋にご案内します」といって部屋に誘導するので黙ってついていく。
案内されたのは最上階の五階に位置する三つある部屋のうちの奥の角部屋だ。鍵を開け中に案内され簡単な説明を受ける。
説明が一通り終わるが出ていく気配がない。
あー心づけか。
財布代わりの小袋から銀貨二枚を取り出し渡すと鍵を渡され「ごゆっくり」と言って去っていった。
どうも、この習慣が馴染めない。日本帝国はない習慣だしこっちの世界に来ても冒険者相手の商売だと要求されないんだよねぇ。
「ジュニアスイートって感じかな?」と和花が独り言ちりつつ部屋をウロウロしている。
部屋の大きさは13.2スクーナくらいだろうか? 日本帝国風に言えば十二畳くらいだろう。内装だけを見ると高級そうには見えるが、迷宮都市ザルツの総合商店で売っていた家具などが散見し見た目重視なだけでそれほど高いモノでもなさそうだ。ベッドはダブルで、ソファーは四脚、テーブルは珍しく硝子製の天板の高級品だ。魔導機器の簡易キッチンとシャワーとトイレも完備している。
長期滞在向けの部屋として確保していたのだろうか?
こっちの世界だと床で寝る習慣は底辺層くらいだから基本土足なんだよねぇ。寝袋で寝るかソファーで座って寝るかになりそうだ。
いったん荷物を置き鍵を閉めてから受付ロビーまで戻ると衛兵さんがまだ居た。
「お、戻ってきたか。この後食事でもどうだい?」
そう言いながらこちらによって来た。
「仕事はもういいのですか?」
「お前さんらを案内した時点で終わりだ」
これはお礼に夕飯くらい奢ってくれよって流れだな。
「僕らはこれから夕飯ですが、奥の食堂でも一緒にどうですか? ご馳走しますよ」
先回りしてそう言うと待ってましたとばかりに喜色を浮べた。折角なんで東方事情でも聴かせてもらおう。
一帖は京間で計算しています。




