119話 使えるものは使おう
「先生のお友達だったんですか?」
これまで聞くことに徹していた和花が話に割り込んできた。
「ん? 先生?」
和花の発言にフェルディナンさんの頭の上にクエスチャンマークが浮かんだ事だろう。師匠の事情を知らないのだから……。
そこで僕からこれまでの事を掻い摘んで説明した。その後彼の疑問に答える形で話が進み早半刻……。
「…………なるほど、君らが彼の弟子なのか。だが、この時代に転生していたのは想定外だった。どうりで探しても見つからないはずだ……」
フェルディナンさんはそう言うと溜息をついた。
「相棒のフェリウスさんも同じ事を言っていましたよ」
そう言って慰めてみる。すると、
「彼もいるのか!」
「えぇ。後はバルドさんもですね。僕らの装備は彼の作品ですよ」
「なんてことだ…………私だけ除け者にされているのか…………」
ガックリと項垂れるが、こっちの世界に来るタイミングが悪いんじゃないの?って突っ込んだら駄目なのだろうか?
「よし決めた! 私は君たちに同行するぞ!」
項垂れていたがガバっと上体を起こし唐突にそんなことを宣言する。
「「はぁ?」」
僕らは思わずそんな間抜けな声を発してしまった。そんな僕らを尻目にフェルディナンさんは話を進める。
「ヴァルザスが一年も面倒見るなんて余ほど君らの事を気に入ったのだろう。当てもなく自分で探すより君らに同行した方が会える確率が上がる。そうとなったらギャエル氏族の問題をさっさと解決せねば」
そう言うと立ち上がり部屋の端で控えていた給仕役の森霊族に何やら指示を出す。
「悪いが君たちにも手伝ってもらおうかと思っている」
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薄暗い森の中を僕らは一人の森霊族の先導で突き進んでいる。悩んだ末に協力することにしたのだ。
「先ほど偵察からアジトを見つけたとの報告があったのだけど、相手は闇司祭と魔術師らしい。配下に傭兵が混じってるとの事で総数は20人ほどとの事だ」
フェルディナンさんがそう説明してくれるが結構数が多い。しかも対人戦か…………正直気分は優れないな。
そう言えば傭兵と言えば水鏡先輩も傭兵だったな…………時間的に今回の件には関わっていないだろうけど…………やはり人殺しは躊躇というか忌避感が拭えないなぁ。出来る限りは非殺でいきたい。
「やはり同族殺しは嫌かね?」
僕の心境を察したフェルディナンさんが小声でそう尋ねてきた。
「正直に言えば…………」
この人に嘘は通じないと思い正直に打ち明けた。
「この森はね、幻獣の一角馬の生息場所でありそれを保護するように森霊族のギャエル氏族や人族の自然崇拝者が守っているのだけど広大な森全体を警戒するには手駒が足りなくてね…………ちょくちょく一角獣目当ての密猟者に手を焼いているんだよ」
「何故一角獣を狙うんですか?」
僕らが読んでいた古典ラノベだと角を狙うパターンが多かった気がする。フェルディナンさんの回答はこうだ。
「角に宿る力は死者を蘇生すると言われ、あらゆる難病や猛毒、それどころか石化すら癒すという。魔術の素材にもなり、幻獣である一角獣は生命の精霊の化身とも言われてその肉を喰らえば寿命が延びると言われている。まぁ~角の力はある程度あっている。肉に関しては眉唾だな。人魚の肉を食うと不老不死になると言われるなどと同じレベルの話だよ」
更に角は生え代わるなどしないので一角獣を倒して折ってしまうしかないという。
フェルディナンさんとの会話で少し気分が落ち着いてきたころには目的地の周辺に到着した。
「予定通り森霊族は周囲を固め逃走防止に努めるから、私と君たちとで突入する」
密猟者のアジト襲撃が僕らになったかと言えば、ここの森霊族は近接戦闘があまり得意ではないのと、やはり氏族内で死傷者が出る事を嫌っているせいだ。なら僕らは死んでいいかと問えば違うと答えるだろう。その代償ではないが、彼らが神の如く崇める上位森霊族が突入組にいるのだ。役割分担の結果と言えよう。
それに僕ら全員は作戦会議時に揉めるのが嫌でその条件で受諾したのだ。
「ん、なんだ?」
アジト周辺の様子を窺っていたフェルディナンさんがそう声を漏らす。
「見張りに生体反応がない」
同じように窺っていた瑞穂がフェルディナンさんの疑問を口にする。
「どういう事?」
ちょっとピンとこなかった。
「見張りで周囲に突っ立っているのは多分だが屍人だろう」
フェルディナンさんがそう推論を述べる。
「体温というか温度分布が生者のものではないのよ」
和花が補足してくれる。精霊使いの夜の視界は白黒画像に近い。人間の体温であればそこはもっと白っぽく見えるのだろうだ。
「間違いなく出来立ての屍人じゃな」
後方に居て蚊帳の外だった地霊族のゲオルグが断言する。そう言えば地霊族は暗視能力で夜でも昼のように周囲を近くできるんだったな。それなら確実か。
「夜戦で困るのは、哀れな俺らくらいだな」
健司がそう言って僕の肩を叩く。
「たぶんじゃが一角獣を捕獲する際に出た死者を屍人にしたのじゃろう」
僅かに見える明かりでぼんやりとだが全体像は見える。確かに動きが緩慢だ。数は四体だろうか?
魔術師と闇司祭が居るとなると相手の実力が分からないとやりにくいね…………。
「瑞穂、気配は分かるかい?」
念のために周囲に待ち伏せがないか瑞穂に確認してみたが首を振って否定される。
「アジトは洞窟のようですが、入り口はあそこだけですか?」
僕は案内役の森霊族にそう尋ねた。
「そうだ。内部も把握している。いつ攻め込むんだ。こうしている間に娘たちに何かあったらただでは済まないぞ」
そんな事を宣うのだが、手遅れじゃないのかな? それより人質にされた場合の対処をどうしたものか?
入り口周辺に屍人となった元傭兵が四体居るとなると…………。
「瑞穂」
「ん」
呼びつけると音もたてずにこちらによって来る。そして彼女の耳元に口を寄せいくつかの指示をする。
「わかった」
瑞穂は魔法の鞄から指定のブツを取り出していく。
「ちょっと派手にやりますけど構いませんよね?」
「まぁ…………ほどほどにね」
フェルディナンさんが瑞穂をちらりと見てそう答える。
「ではすみませんが、何方か【隧道】を使える方はいませんか?」
「この面子でという事なら私だろうね」
予想通りフェルディナンさんが手を挙げた。
「では————」
「その手口は後で私が森霊族を説得するという仕事も含むのかな?」
やや呆れたと言わんばかりの表情でフェルディナンさんが確認を取ってくる。
「出来ればお願いします」
そう答えておいた。
「準備できた」
ガシャリと音を立てて瑞穂が重そうにそれを構えた。
「目標の打ち分けは出来そう?」
「練習した」
どこで練習したんだよと突っ込もうかと思ったが自信ありげに肯首したので信じる事にしよう。
瑞穂がペタリと足を広げて地面に座り込み回転式魔法投射器の銃床を地面につけ角度を調整して構えて僕の指示を待つ。
「撃て」
静かにそう命じた。
ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポンと小気味よい音共に魔法の擲弾が放物線を描いて飛んでいく。
あー、あの一発で金貨一枚分なんだよなぁ…………普通に冒険者の仕事で使ったら赤字案件だわ。それに暇を見て魔法の擲弾に【火球】を封入するのも楽じゃないんだよねぇ。
そして程なくして爆発が断続的に六回起こった。
「さて、行こうか」
MGL-140は浪漫だと思います。




