表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/678

117話 森での出会い

無料(タダ)で譲ってしまうとは気風がいいですな」

 いくつにか切り分けた一角猪チャージング・ケーネックの肉を嬉々として冷却作業を始める村人たちを眺めながらシュヴァインさんがそう話しかけてきた。長引く戦争で食料や男手を徴収された村々ではやたらと歓迎された。


「近くに大きな農村があってよかったですよ。勢いで解体しましたが無理を推して確保するモノでもありませんでしたしね」

 実は細かく切り分ければ【時空収納(インベントリ)】には収まったのであるが食糧問題に関してはやや高価だが調理済み乾燥食品(インスタント食品)も大量に買い込んであるし、魔導騎士輸送機マギキャバリエ・クラディアントの貯蔵庫にも大量に買い込んであるから無理をして確保する必要もないのである。


冒険者(エーベンターリア)様。実はお願いが…………」

 あれこれとシュヴァインさんと話し込んでいると公用交易語(トレディア)が話せるという事で交渉相手となった村長の息子が顔色を窺うようにそう言って近寄ってくる。


 あ、これ師匠なら「アイツらは弱い立場を利用して媚びへつらいこちらを都合よく利用してくる」って怒る案件だ。


「私は居住区(キャビン)へ戻りますね」

 空気を呼んだのかシュヴァインさんがそう言って去っていく。


「なんでしょうか?」

「実は村の近くに赤肌鬼(ゴブリン)が現れまして————」

 彼の話をまとめると、(エーアム)や野菜を盗んでいく赤肌鬼(ゴブリン)を目撃したものが多数いるとの事。ただ森での活動を行える専門家が徴兵で取られて奥の方へは危険で入り込めない事。近くにある町の冒険者組合エーベンターリアギルドへ四日前に依頼を出したことを長々と語ったのだ。


 あ、これまずい案件だ…………。

 まず組合(ギルド)に依頼を出した場合は受付に申請せずに勝手に依頼は受けられない。他に受けた冒険者(エーベンターリア)が居るかもしれないからだ。仮に僕らで処理しても報酬は依頼を受理手続きした冒険者(エーベンターリア)が持っていく。また勝手に仕事の横取りをしたという事で罰則(ペナルティ)が適用される。感謝は得られるが失うものも大きい。

「我々は既に別の依頼人がおり、その方の護衛として動いています。その方と相談させてください」

 そう言ってその場での回答を避けた。


 ▲△▲△▲△▲△▲△▲


「私としては数日程度の遅れであれば構いませんが、罰則(ペナルティ)は痛いですね」

 シュヴァインさんの予定では一か月以内に到着できれば御の字との事なので確かに行程(スケジュール)には余裕がある。

罰則(ペナルティ)は依頼を受けた冒険者(エーベンターリア)と交渉すれば回避は可能よね?」

 和花(のどか)がそう言うのだが、その手は悪手なのだ。

 交渉して金貨数枚口止め料のとして握らせたとしても、彼らは酒の席などで口が軽くなって周囲に話してしまう事が多々ある。そこから足がついて罰則(ペナルティ)という可能性もある。師匠に言われたことだ。

組合(ギルド)を辞めるって手もあるんじゃないか?」

 健司(けんじ)の意見も一度は考えた。でも冒険者(エーベンターリア)を辞めるという事は、入都税が必要になるし、街中では武装できない。また一部優遇措置が適用されなくなる。その場の感謝にラリって組合(ギルド)を辞めるのはデメリットばかりだ。

 やはり断ってすぐにここを立つかと思案していると、瑞穂(みずほ)が挙手しているのが見えた。


「何?」

「私、まだ野外活動に自信がないから訓練したい」

 いつもの抑揚の乏しい口調でそう主張してきた。

 師匠から手ほどきは受けている筈なのだが実際に野外で行動するのは初めてなのだ。僕もそれを懸念して野伏(レンジャー)を雇おうかと思ったくらいだ。


 訓練の名目で森に入ろう。神官戦士(モンク・ウォーリア)のゲオルグの実力も見ておきたい。よし、決まりだ。

(いつき)くんが悪い顔している」

「何か言い訳を考えたみたいだな」

 和花(のどか)健司(けんじ)が立て続けにそう論した。


 さて、行動指針が決まれば後は手早く処理だ。


 ▲△▲△▲△▲△▲△▲


 支度をし僕ら一党(パーティー)五人は鬱蒼とした森を移動している。すでに日は沈み月が出ている時刻ではあるがここに月明りはほぼ差してこない。

 足元に点在する野生の夜光茸ナクトファルト・マートが僅かに照らす中を瑞穂(みずほ)が音もなく先行する。


 この一党(パーティー)で夜目が利かないのは僕と健司(けんじ)だけだ。周囲の警戒より足元への注意で移動が遅くなる。瑞穂(みずほ)和花(のどか)精霊使い(シャーマン)なので赤外線視力(インフラビジョン)がある。ゲオルグは地霊族(ドワーフ)なので暗視(ナイトビジョン)能力が備わっている。

 名工たるバルドさん傑作の金属鎧は防御力もさることながら消音設計によって思ったほど音が出ない。静かにゆっくりと森の中の調査を進める。期限は今夜中だ。早ければ明日には依頼を受けた冒険者(エーベンターリア)が来る。

 名目上僕らは今夜はこの村のはずれで休息中となっている。村長の息子に金貨を数枚握らせて。冒険者(エーベンターリア)よりは口が堅いはずだ。


 ここで役に立つのが【防虫(ペスティシダー)】の魔術(ギャルダー)だ。周囲7.5サート(約30m)から虫など害のある小生物を追い払う効果があるので助かっている。防虫といいつつ蛭や蜘蛛などにも効果があるのが素晴らしい。


 そして森に入り一刻(二時間)ほどたった頃だろうか? 村に近い区画(エリア)はあらかた調査し終わり、もう少し奥へと進もうって事になり奥へと進みはじめた時の事だ。

 先行していた瑞穂(みずほ)が立ち止まり手信号(ハンドサイン)で止まれと指示してきた。

 一堂が立ち止まり静まり返る。


 ん? 静かすぎないか?


「見られている」

 ゆっくり下がりながら瑞穂(みずほ)が小声でそう告げてきた。

 その時、風を切って何かが飛来した。

 それは健司(けんじ)全身甲冑(フルプレートアーマー)に命中し火花を散らす。名工バルドさんの傑作鎧に生半可な飛び道具(ミサイルウェポン)は効かない。


散開(ブレイク)


 僕の掛け声で全員が散る。その僅か後に無数の(フレーシュ)が降り注ぐ。木陰に身を潜めるが僕にはほとんど見えない。

「何か言ってるけど意味が分からない」

 近くにいた瑞穂(みずほ)がそう言うが僕には聞こえない。

 いや、風に乗って徐々にだが聞こえてきた。赤肌鬼(ゴブリン)じゃない。綺麗な声音で流暢な言語だ。だが意味がさっぱり分からない。

「これって精霊魔法(バイムマジカ)の【風の囁き(ウィンド・ボイス)】だわ」

 そう和花(のどか)に指摘されて思ったのは、相手は森霊族(エルフ)あたりだろうか? それなら納得も良く。自然崇拝者(ドルイド)と似たような生活レベルで高慢で排他的というのが師匠から聞いた僕の森霊族(エルフ)像だ。


 まずは意思疎通を図ろう。僕は呪句(タンスラ)を口にする。

綴る(コンポーズ)拡大(エルト)第四階梯(ギデク)感の位(シン)脳核(インティオタック)機能(フォンクション)拡張(エクスパンション)理解(インテレクタズ)会話(コロークィウム)共感(シンパスィ)発動(ヴァルツ)。【通訳(コミュニケート)】」

 魔術(ギャルダー)の完成とともに意味不明な音の意味をを理解できるようになる。


「————している。そこで屍を晒すか!」

 げ、やばい!

「待った! 君らの言葉が理解できなかった! こちらは攻撃の意志はない」

 間に合ったのか(フレーシュ)が射かけられることはなかった。


「現地語が通じないのか? いや、発音と頭に入ってくる意味が合わないな。さては貴様は魔術師(メイジ)か?」

 程なくしてそんな回答が返ってきた。

「そうだ。近くの村で赤肌鬼(ゴブリン)が出たとの事で追ってきたところだ。このあたりの地理などには詳しくない。地元民との規約(ルール)に反していたのであれば詫びる」

 相手の数が分からない以上は刺激したくないので下手に出る。


 その時前にいる瑞穂(みずほ)が左手を背に回し手信号(ハンドサイン)を送ってきた。


 半包囲されてる上に気配は12か…………。


「こちらでは赤肌鬼(ゴブリン)は確認していない。貴様のいう事が真実だという証はあるか!」


 善意で探索してるのに証なんぞあるわけないだろうとか思ったがそんな事は流石に言えない。

 瑞穂(みずほ)にあることを聞こうと思って今が【通訳(コミュニケート)】の魔術(ギャルダー)の効果時間中だと思い出した。仮に日本(やまと)帝国語で話しても意味が筒抜けなのである。こいつの効果時間は半刻(1時間)もある…………困った。


 一度強制的に効果を打ち切って掛けなおすか?

閲覧していただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ