115話 依頼を受ける。
2019-09-05 誤字と文言を修正。
「まずは私があなたに声をかけた理由から説明しましょう」
応接室のソファーに深々と腰掛けシュヴァインさんが話始める。
「まず目についたのはその腰から提げている光剣ですね」
シュヴァインさんの指摘通り本日は師匠の真似をして平服に腰から光剣をぶら提げている。往復で一刻ほどの用件だったのでちょっとマネしただけだったのだが…………。
「日中でもがっちり武装している冒険者が多い中で平服というのも技量に自信がある証拠だとお見受けしました。
違うんだ。これはたまたまで…………。
「その腰袋は魔法の鞄ですね。大変高額な品です。成功を収めた冒険者か大商会にでも所属していないと持てないものです」
これは師匠からのプレゼントなんだ! 実力で手に入れたわけじゃ…………。
「それにその平服ですが、富裕層向けの既製品ですね。変に見栄を張らずに特注品を着ないあたりに余裕を感じますな。一発屋や成金趣味の冒険者はすぐに派手な特注品を身に着けたがります」
いや、これは和花が買ってきたものだから僕の意思で買った物じゃないし…………。
「最後はそうですねぇ…………商人の勘でしょうか?」
いえ、その勘は怪しいと思います。
「まぁ、そんな理由で貴方に私の護衛をお願いしたいのです。どうですかな? 報酬は相場通りに出しますし商人組合発行の地図もお見せしますよ。まぁー模写されると困るんで必要な情報は記憶してください。次にですが————」
仕事内容は東方西部域にある聖ウラン王国の聖都ルーラへ荷物とシュヴァインさんを無事にお届けする事だ。
聖ウラン王国? どんな国だったっけ?
記憶を探っているとシュヴァインさんが、「戦の神を国教とする宗教国家で大陸最古の王国ですよ。総大主教でもある法王は大陸最高位の権威の持ち主で中原の超大国ウィンダリア王国の国王ですら上座を譲るほどの人物ですよ」と何故か得意げに語りだした。
この話には続きがあり、法王は今代最高位の武人に[剣聖]の称号を授ける唯一の人物でもあるそうだ。
「今代の[剣聖]って何方なのですか?」
興味がわいたので聞いてみた。まさか師匠とか?
「いまは空位ですね。五年前にキリングハイト卿が年齢を理由に退位してからは新しい候補が見つからないとか」
あれ? 師匠ってもしかして大したことない?
「冒険者は対象から外れるのですか?」
「どなたか心当たりが?」
「第一〇階梯の方とか」
敢えて誰とは言わなかった。
「あ、もしかして"歩く災厄"の事を言ってます?」
誰だよ"歩く災厄"って!
「ヴァルザスという風の精霊王を従えた精霊使いですよ。でも流石に呪文使いは武人扱いはしませんな」
そう言って笑いだす。
「なんで二つ名が"歩く災厄"なんです?」
「以前に南方の数万の魔物の集団暴走をたった一人で退けたそうで、後には灰塵と果てた荒野のみが残ったとか、他にも————」
山ひとつ吹っ飛ばしたとか、湖をひとつ地図から消したとか…………。
師匠何やってんの…………。
「おや、話が脱線してしまいましたね。依頼の方はどうでしょうか?」
あらためて問われたがお金には困ってないが地図は見たい。答えは決まっている。
「判りました。お受けします」
「では————」
シュヴァインさんが懐から前金が入っているであろう袋を取り出したところでそれを止める。
「報酬は後払いで結構です。で、肝心の品物は?」
「それはここですよ」
そう言ってシュヴァインさんが指し示したのは応接室に入るまで背負っていた中型の背負い袋だ。
「あれだけですか?」
「そうです」
あれだと数日分の荷物入れたら後は何も入らない気が…………あっ。
「貴方のそれと同じで魔法の鞄ですよ」
そう言って僕の腰袋を指すのだった。
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「樹くん、そちらの方は?」
商人組合の応接室を出て階段を降り冒険者組合の区画に戻ってくると用事を済ませた和花と瑞穂が僕らに気が付いて走り寄ってきたのだ。
「こちらは商人のシュヴァインさんで、これから彼を東方西部域にある聖ウラン王国の聖都ルーラまで護衛する事になった」
もちろん正確性の高い地図が手に入らなかったのでそれを見せてもらえるという条件でって事も付け加えた。
「まぁ、樹くんが決めたのなら私は付いていくだけだから」
横で瑞穂もうんうんと頷いている。
「こっちは頼まれていたものは購入で来たわ。この白い布は何に使うの?」
「それは【幻影地図】の魔術を使うための触媒だよ」
「…………あーあれね」
あれねと言っているが、これはよくわかってない表情だ。統合魔術師は覚えるべき魔術が多すぎて使用頻度の高い魔術以外は必要なら呪文書見ればいいかとおざなりにしてしまいがちで和花もその傾向が強い。
「もう一人面子が居て待ち合わせしていますので行きましょう」
「流石に優秀な冒険者は違いますな。何時でも出立できるとは」
元々が滞在する気もなく用事を済ませるだけだったのだが、いちいち訂正してもキリがないのでここはスルーすることにした。
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「皇、おまたせ」
和花が市壁の外でぼんやりと景色を眺めていた健司に声をかける。
「お前らおせーぞ。…………そのおっさん誰?」
待ちくたびれたのかやや粗い口調で返してきてが直ぐに僕らに同伴者が居る事に気が付く。
組合で和花達にした説明をあらためて健司にし西へと歩き出す。
「いくら手練れの冒険者だからと言ってそんな軽装で、しかも徒歩で聖ウラン王国の聖都ルーラまで行く気かね? 一か月以上はかかるぞ」
シュヴァインさんがもっともな質問をしてきた。
「あ、大丈夫っすよ。俺らはアレで移動してるんで」
そう言って健司が指さすのは自分の魔導騎士輸送機だ。
「おぉ…………あんなものまで所有しているとは。これは道中楽ですな」
そう言ってシュヴァインさんが笑い出す。




