114話 再び出会う
激務中ですがエタり防止のためにゆっくりですが更新していきます。
よろしければお付き合いください。
中原の超大国ウィンダリア王国の飛び地であるルカタン半島を交易路に沿って東に12.5サーグほど進んだところにある都市国家ザルツバイン王国の王都ルテーデに到着した。
師匠と別れて一刻程の旅程だったのだが、本来は徒歩なら二日かかる行程がたったの一刻とか時間感覚が狂いそうだ。
人口六千人ほどの小さな王国なので流石にこの10サート級の魔導騎士輸送機では要らぬ警戒を招くので0.25サーグ手前で停止させ徒歩で入都することになる。
「それじゃ、留守番お願いします」
「畏まりました」
家政婦契約のアンナさんがそう答えて頭を下げる。
居残り組は亜人族のピナに家政婦契約のアンナに魔導機器技師のハーンの他に地霊族の神官戦士のゲオルグが残っている。
雨が降っているなら荷台の魔導客車で行くところだが、運動不足解消も兼ねて徒歩での移動となる。
入都手続きは特に問題なく済み、滞在許可証を貰い市壁を潜り抜ける。
「あ~……迷宮都市ザルツを出て思うのは、あそこは底辺層でも結構清潔感あったけど…………」
そう感想を漏らす和花に激しく同意だった。
僕らの前に広がる光景はゴミと汚物まみれの街路だった。横で瑞穂もうんうんと頷いている。
上下水道が完備している個所とか稀なのは分かっているが…………迷宮の地下一階にいる錯覚すら覚える。
「とにかく長居はしたくないし、ここで別れてさっさと用事を片付けよう」
「だな。俺はハーンに頼まれた物を買ってくるわ」
健司はそう言うと手をヒラヒラとさせ目的地へと歩を進めるのだった。
それを見送り僕らも動く事にした。いつまでもこんな不快な場所に居たくない。
でも考えてみれば多くの町や村がこのレベルなんだよねぇ…………ぶちゃけ日本帝国の江戸時代より環境が劣悪だ。この不衛生な状況を為政者が改善しないというのもアレだが、市民も改善しようという気がないのが救いようがない。ホント、初日にして挫けそうだ。
「それじゃ私は組合で必要なものを買ってくるね。あ、瑞穂ちゃんは貰っていくから」
そう言って和花は瑞穂の手を引いて歩き出す。連れられる瑞穂が一瞬振り返り僕を見る。いや違う僕の後ろか!
「色男さんは振られちゃったのかい?」
後ろからそう声をかけてきたのは若い男性だ。気が緩んでいたかもだけどあっさり背後を取られた。だがどこかで聞いた声だ。
「高屋、街中だからって油断し過ぎだ。後ろがガラ空きだったぞ」
振り返ると思った通りの人物が立っていた。
「水鏡先輩…………。お久しぶりです」
結構前に迷宮都市ザルツで出会った同郷の出身で二学年上の先輩だ。あの時は戦闘奴隷だと聞いたが、いまの格好からすると違うのだろうか?
水鏡先輩の出で立ちは羽織袴に草履だったのだ。腰には打刀と脇差を差している。
「先輩はまだ戦闘奴隷で?」
「そうだ。雑魚狩り専門の傭兵団に飼われている。いや、マジ最高だよ。自分より格下どもをバッタバッタと切り捨て俺TUEEEEEE出来るし自分が凄い強者になった気分になれる。実に最高の職場だよ。人族を見るとその頭が硬貨に見えるんだよ」
ヘラヘラと笑みを浮かべつつ先輩はそう語る。その目は狂気を孕んでいるように僕には見えた。
「そういう高屋は何をしているんだよ?」
突如真面目な口調に戻ってこちらの近況を聞いてきた。これは演技なのか本当に壊れているのかわからん。隠しても損もしないが益もないので説明する事にした。
「実は聖女と呼ばれている花園さんに会いに行こうかと思ってまして…………」
「お、なんだなんだ。小鳥遊が居るのに花園にも手を出そうって言うのか? ハーレムか? ハーレム作っちゃうのか? 異世界だもんな。日本帝国の常識や倫理なんて糞くらえだもんな!」
そう言って水鏡先輩は声高に笑いだす。何かツボに入ったらしい。
「でも会うなら早いほうが良いぞ。花園はこの一年で更に美少女ぶりが上がったせいか男どもが手籠めにしようと虎視眈々と狙っている。いまのところはお付の女剣士が常時張り付いているから大丈夫だろうがそろそろ危ないぞ」
水鏡先輩は急に真面目な口調でそんな情報をくれた。
そうか時間がないのか。しかし落差が激しい。以前はもっと寡黙な人だと思ったんだが…………。
「情報ありがとうございます。あれ? でもよくご存じですね」
「ああ、二週間ほど前までうちの傭兵団が警護の任務についてたのさ。特に藤堂には気を付けろよ」
言うだけ言うと水鏡先輩は足早に去っていき人混みに紛れてしまった。
藤堂先輩の事だよね?
いまから追いかければ追いつくかもしれないが、あれは話すことはないという意思表示にも受け取れるんだよね。
ま、取りあえず自分の用事を片付けてしまおう。
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冒険者組合にやってきた。僕の目的の一つは東方地域の地図を手に入れる事だ。
だが期待は裏切られた。
まず正確な地図がないのである。次にここいら東方南部域の地図しか置いてないとの事だ。上部組織の商人組合ならそれなりに正確な地図があるのだそうだが、組合員以外は買えないそうだ。ただ商人と交渉して見せてもらう事は可能だそうだ。
一旦受付から離れて依頼掲示板へと移動する。依頼の中には報告場所が他の町の組合でも問題ない案件が稀にある。それを探しての事だ。
探しているうちに端の方にある賞金首の掲示に目が行く。
「あいつ、まだ生きてるんだ。よかった……」
その賞金首は隼人のものだった。値が金貨50枚となっている。これが出ているという事は彼はまだ逃げ続けているのだろう。ホッとした。いつかほとぼりが冷めたころに出会えるといいな。
「…………そこの青年」
不意に背後から呼ばれていることに気が付いた。駄目だな。
「なんでしょうか?」
振り返りつつ相手の姿を確認した。
上等な衣服に身を包んだ恰幅のよい中年の男性だ。表情を見る限りは人となりは悪くなさそうに思える。
「先ほど受付で地図を所望していたのを耳にしたのだが、私の依頼を受けてもらえるなら地図をお見せしてもよいと考えております」
そう言われて少し思案した。タイミングが良すぎないか? それとも偶然か?
「これは失礼した。まだ名乗ってもいませんでしたな。私は商人組合所属の商人でマネイナ商会のシュヴァインと申します。お見知りおきを」
そう言ってシュヴァインさんは胸元から認識票を取り出し掲げて見せた。
その認識票は本人であることを証明するかの如く鈍い輝きを放つ。本物のようだ。
「お話を聞きましょう」
「なら、上の階の商人組合の応接室を借りましょう」
そう言うと体つきからは想像つかないほど軽い足取りで階段を上っていく。
確定ではないですが、週に2ないし3話を目処にと考えています。
ただ前半戦のプロットは固まっていますが中盤以降はどのルートで話を進めるか検討中です。




