110話 昇格、そしてお別れと……
「おめでとうございます。第五階梯への昇格の手続きが終わりました」
受付さんから返してもらった認識票は赤銅色に輝いている。ただし僕ら全員が昇格となったわけではない。シュトルムとセシリーはまだ貢献度が足りずに見送られたのだ。もっともこの国の貴族であるシュトルムには必要のないモノだ。セシリーも今後はシュトルム率いる一党に加わるとの事なのでそう遠くないうちには昇格できるだろう。
「短い間だったがありがとう。明日は見送りできないから今のうちに礼を言っておくよ」
そう言ってシュトルムが右手を差し出す。その手を握り一言。
「こちらこそありがとう。次に会うまで壮健で」
「ああ、名残惜しいけど行くよ」
握手を解きシュトルムは去っていく。僕は彼が人ごみに紛れて見えなくなるまで見送った。
「私も短い間でしたがお世話になりました。御恩は一生忘れません」
和花や瑞穂とは挨拶が済んだのだろう。セシリーが声をかけてきた。
「僕も助かったよ。ありがとう」
最初は寄生されたかなと疑ったこともあったが、彼女の癒しの奇跡が適宜飛んできたことで命永らえた事もあった。意外と周囲を見ていたのである。彼女は今回の報酬を貯蓄に回すとの事だ。毎月一定額だけを孤児院に入れる事にしたらしい。実は孤児院の運営の経理がお金をチョロまかしていたのだ。一度に多くの大金が納められて少しくらいクスねても問題ないだろうと魔が差したらしい。
それを知ったセシリーが方針転換したらしい。
「そういえば、ありがとうございます」
唐突にお礼を言われたが何の事だろうと思案していたら、板状型集合住宅の事だった。結局解約せず名義をセシリーに変更し、家具や魔導機器をすべてセシリーに譲渡したのだ。
「いいよ。家具とかは使わないしね。明日からは勝手も変わるだろうけど頑張ってね」
そう語って右手を差し出す。
「はい」
笑顔で返事をし差し出した僕の右手を両手で握りしめる。
手を解き深々と頭を下げセシリーも去っていった。
名残惜し気に何度も振り返るセシリーに手を振り彼女が人ごみに紛れるまで眺めていた。
「行っちゃったね」
「うん。もっと積極的に交流していれば違う未来もあったのかな?」
「そうかも知れないけど、人生に”if”ないからね。次に生かそうよ」
会話の相手は、いつの間にか僕の左隣に来ていた和花だった。そう言えば和花の定位置は何故か左側だな。そうなると右側は————。
振り向くとやはり瑞穂が居た。目が合うとはにかみつつこちらを見つめている。なんか無性に頭を撫でてやりたい。
そろそろ帰ろうという感じになった時だ。
「タカヤさん。実は面会希望者がいるのですが……」
声をかけてきたのは組合の職員だ。
面会希望?
返答に窮していると、「一党募集の告知の件ですよ」と言ってきた。
そーいや取り下げるの忘れてたな……。
取りあえず面接だけしようという事で応接室を借りる事となった。募集依頼は取り下げをお願いしておくのも忘れない。
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「貴方は…………」
「挨拶は初めてかのぉ。わしは戦の神の神官戦士でゲオルグと言う。君らを勇者と見込んで旅に同行する事を許可してもらえんかね?」
その人物は竜と戦って辛うじて生き残った地霊族の神官戦士だった。
何の話だと思ったのだが、勇者と呼ぶに相応しい人物に仕え、英雄へと導く事こそが彼らの信仰なのだそうだ。
よーするに彼の信仰心を満たすために同行させてもらいたいという話だ。
ところで神官戦士と聖騎士と聖戦士の違いはというと国教を法の神とする宗教国家ナザロス法国の貴族にして司祭位を者を聖騎士と呼ぶ。聖戦士は各宗派で戦闘能力に長けた者を指す。彼らが奇跡を使えるか否かは問わない。神官戦士は戦闘訓練を受けた神官ないし司祭を指す。稀に高司祭位とか司教位並の奇跡を使えるものも存在するのだが…………。
ありがたい事に彼は【重傷治療】の奇跡が使える銅等級の冒険者でもあった。
四人になってしまったし癒し手は多いに越したことはない。戦闘技術に関しては追々見せてもらうとしよう。
「分かりました。我々があなたの信仰の対象とはならないと思ったらいつでも言ってください」
まー要するにお互い利害関係が一致してる間は仲良くしましょうと言う事だ。
話は纏まったので神官戦士のゲオルグは赤竜戦で装備などを失ったので補充に行くそうだ。明日の四の刻に市壁前で集合と伝えておく。
「それじゃ、私たちは富裕層区画で必需品を買ってから帰るね」
そう宣言すると瑞穂の手を掴んで足早に去っていく。引き留める間もなかった。
荷物持ちくらいとか思ったけど、僕らは魔法の鞄を持っているから必要ないんだよなぁ。
富裕層区画で必需品か…………下着かな?
こっちの区画だと下着類は男女共用のT字帯みたいなのだからな…………。女性だと胸は布を巻くだけだし。
「俺らはどうするよ?」
とくにやる事のない男性陣のみが組合に取り残されてしまった。
「そうだ。暇なら掘り出し物を探しに行こうぜ。樹の幸運にあやかって」
幸運にって以前に瑞穂の小剣を買ったときの話か?
「そうだね。ところで何か欲しいモノがあるの?」
「赤竜戦で思ったんだけどよ、大剣が欲しくなった」
「でも、同時に装備は出来ないだろうに…………」
「まーいいから行こうぜ!」
そう叫ぶと僕の背中をグイグイと背中を押して組合の出入り口へと押し進む。
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「やっぱ樹は持ってるな」
ブラブラと男二人並んで露店を見て歩き、適当に買い食いして半刻ほど歩き回った結果、目当てのものも見つからずそろそろ帰ろうかと思った矢先に目についたのが、いま健司が持っている大剣だ。
「確信は持てないよ。文献で見たのとそっくりな外観だったってだけなんだし。外れたら大損だよ」
取りあえず【魔力探知】を唱えてみたところ魔法の武器であることは間違いない。
再び冒険者組合へ戻ってきて鑑定依頼を出した。
程なくして鑑定結果が出たとの事で呼び出され受付へと出向くと…………。
「こちらの大剣ですが、銘を[炎の纏うもの]と言います。買取であれば金貨150枚で買い取ります」
露店で金貨50枚で買ったことを考えるとこれは大当たりだ。
「一品物なんですか?」
「いえ、量産品ですね」
それにしては随分高額だな……。
「等級とか性能はどんな感じです?」
「等級は中級品級ですね。効果は命令で刀身に炎を纏います。後は別の命令で【炎の矢】が飛ばせます」
賢者の学院から派遣されてきた鑑定士役の魔術師さんの回答に健司が食いついた。
「それって制限とかあるんすか?」
「毎回命令が必要なだけで好きなだけ使えますね」
この使用制限がないところが予想以上のお値段の理由らしい。
「買取はなしで」
健司はそう言うと鑑定料として金貨3枚渡す。
「さて、帰ろうぜ」
大いに満足した健司に引っ張られる形で組合を出たのだった。
次の投稿は少し遅れそうです。




