109話 名声:竜殺し
後進滞ってしまい大変申し訳ありません。目が覚めたら病室でした。
無理が祟って体調管理を疎かにしてしまったようです。
体調と相談しますが毎日更新は怪しくなります。
「あっ」
目の前には瑞穂が見下ろしていて僕が意識を取り戻すのが分かるとその顔をパァっと綻ばせた。
僕はどうやら瑞穂に膝枕されているようだ。場所は階層主の居た部屋で間違いない。
「そうだ! どうなった?」
一党の頭目としては確認せずにはいられない。
瑞穂が黙って指さす方を見ると、どっかで見たことある人たちが赤竜を解体していた。
いや……師匠たちが神出鬼没なのはいつもの事だ。何故ここにいるのかとか考えるのはよそう。
「ところでみんなは無事?」
「九人残った」
瑞穂の何時もながらの抑揚のない簡素な回答が返ってきた。それにしても三〇人近くいて残ったのが九人か…………。
だが最強の幻獣にして最凶の魔獣と呼ばれる竜相手と思えば運がよかったのだろう。
僕は上体を起こし周囲を見回すと生き残ったのは、僕ら一党の六人と最初の炎の息で焼き払われた一党に居た地霊族の戦士と同じく地霊族の神官戦士の他には最後まで戦っていた攻略組の後衛の三人も最後っ屁の炎の息で焼き払われ魔術師さんだけが残ったんだそうだ。
その攻略組の生き残りが僕の方へと歩み寄ってきた。
「おめでとう。若き英雄。竜殺しの名声は君たちのものだ」
「それは貴方もでは?」
「ははは…………残念だけど私は今回臨時雇いなんだよ。本業は賢者の学院の導師なのさ」
そう言ってその人物は胸元から冒険者組合の認識票を取り出す。
「ここに入るために先日急遽登録したのさ。…………あぁ、そういえば自己紹介もまだだったね————」
そう言って魔術師さんはアレコレと語り始めた。彼はストーク・アルフレムという商家の三男坊だそうで、幸い頭脳はほどほど優秀だったのと実家が金があったので賢者の学院に入学させてもらったら、それなりに才能があったらしく25で高導師目前になったそうだ。
「えっ……て————」
最後まで言い切る前に瑞穂の手によって口が塞がれた。
どうやらアルフレム師は老け顔のようだ。てっきり30過ぎてるものかと…………。
「私は戦闘も苦手でね。今回も大した仕事はしてないし分不相応の名声を貰っても困るのさ」
アルフレム師はそう言って去っていった。
「僕らが、竜殺しとかなんの冗談だろうか」
「————そうだな。幸運の賜物だろうな」
僕の独り言に声をかけてきたのは師匠だった。
「恥をかくから自分からは名乗るなよ。その手の名声は第三者の手によって新たな英雄譚となって巡り巡ってお前らの存在を一段高みへと導いてくれる」
「そういうものですか…………」
「そういうものだ。だがまずは竜殺しおめでとう。そしてよく生き残ったな」
珍しく師匠が賞賛してくれた。
「運が……、いえ、師匠やバルドさんが丹精込めて拵えてくれた武具があればこそでした。特訓や助言などの指導もあったおかげです。…………実力ではないですね」
そう言ったところで師匠の手が僕の頭に伸び、ポンポンと叩く。
「驕る必要ないが成果は誇れ。検分したが傷の大半はお前たちが負わせたものだし止めを刺し生き残ったのもお前たちだ。結構な時間を成竜の猛攻を耐えきったのも実力があっての事だ。俺の見立てでは死体と対面だと思っていた。俺の予想を上回ったんだ…………誇れ」
僕は何も言えなかった。ようやく師匠に認めてもらえた。その事実に思わず目頭が熱くなる。
「よし! 全員撤収だ!」
師匠の号令で生き残った面子と師匠一党が【転移門】をくぐり地下一階の広場へと戻った。
▲△▲△▲△▲△▲△▲
迷宮を出たとたんにものすごい歓声に包まれた。
「なんだこれ…………」
健司がそう呟くのも判る。たぶんみんな同じ思いだろう。珍しく瑞穂も驚いた表情をしているくらいだ。
「迷宮の内部が見世物なのは以前説明したな」
「はい。富裕層向けの食事処など観覧者の見世物になっているのは知っています」
「彼らとて本物の成竜との戦いは初めての事だろう。なんせ最強の幻獣にして最凶の魔獣と呼ばれる竜はその生態に不明点が多く、創成魔術で生み出せない生物でもある。ここの住人にとって初めて見る伝説の竜との一戦だ。それを打倒した勇者を一目見たいと思って集まっても不思議じゃない」
師匠のその説明を聞いて周囲を見回すと確かに身なりのしっかり整った人たちが多い。誇らしげな気分のまま僕らは冒険者組合の受付へと向かう。
組合までの道中でお世辞抜きの賞賛を浴びるほど受け組合で手続きの順番を待つ。何があっても順番を守るお役所気質もこういう時はありがたい。何でもかんでも特例だのとか優遇だとかになると自分の立ち位置を見失ってしまいそうになる。
そして待ち時間の合間に一人の貴族との面談を行っている。
「本当にありがとう。期待以上の成果だった」
そう言って頭を下げるのはデア・マルエッセン伯爵、シュトルムの父親だ。僕らは確かに依頼によって成人して騎士となったシュトルムの箔を付ける為に迷宮攻略を行っていた。
成果だけ見れば[魔剣持ち]、[魔神殺し]、[竜殺し]という極めて得難い名声を短期間で得た事になる。
竜は絶対数が極端に少なく、惑星全体で見ても百体くらいしか生存していないという。また魔神も召喚されない限りはこっちの世界には存在しないので個体数が少ない。創成魔術では生み出せないためにこれらの存在と遭遇して打倒できる冒険者もほんの一握りだ。
そして目の前のテーブルに積まれた金貨へと視線が行く。
大雑把に見積もっても500枚は越えているだろう。これが特別報酬というやつである。これをシュトルム以外の五人で別ける。
「想定以上の成果だった。報酬もそれに見合うものにしたかったのだが、これでも見合わないだろう。なので残りは現物支給にしようと思う。これがその目録だ」
デア・マルエッセン伯爵はそう言うと懐から一枚の書類を出して広げた。
まだ僕らは公用交易語の文字の方はやや苦手なのだが特に難しい文字がなかったのは幸いだった。
まず一つ目がデア・マルエッセン伯爵家の紋章が刻まれた儀式用短剣だ。これを見せる事によって貴族特権を受けられるらしい。富裕層地区などではあるとなしでは待遇が変わるらしい。ただしウィンダリア王国以外では稀に通じない場合もあるので注意だ。
二つ目は…………え?
僕の表情を見たデア・マルエッセン伯爵はニヤリとする。
「なんでも魔導騎士に大変興味があるとか息子から聞いた。これを受け取ることで家臣になれという話ではない。まぁ…………本音を言えば息子の両脇を固めてもらいたいとは思っているがね」
両脇という事は健司もって事か。それを裏付けるようにデア・マルエッセン伯爵は僕と健司を交互に見る。
「僕は————」
「過分な期待を頂き恐縮ですが、俺…………いえ、自分は当面は頭目に付いていくと決めているので…………」
「そうか…………」
だが健司の返事を聞いたデア・マルエッセン伯爵は大変満足そうな表情だ。
さて二つ目だが魔導騎士の最新型素体が二騎分だった。二次装甲は自分好みにするといいって事らしい。
三つめは双眼鏡だ。ものすごく高価な品物でそこらの安物魔剣より高価なうえに貴族か軍隊でもないと入手困難なのだ。
最後の四つ目だが…………?
「お楽しみに?」
僕らの反応にひとしきりで笑った後でデア・マルエッセン伯爵は、
「東方へ行くのだろう? 役立つ物だ。楽しみにしておれ」
目録のモノのは明日の朝に届けると告げるとデア・マルエッセン伯爵は去っていった。
なんか欲しいモノは大半は手に入ってしまった気がするな。
今回のドラゴン戦ですが、この作品の骨子となっている某TRPGのデータで検証すると、ほぼ全滅コースになる戦闘です。セッションで実際にやったらプレイヤーから「この糞GMめ!」とお褒めの言葉を頂けるでしょう。
ただ賽の目が走れば勝てるかもしれません。




