10話 装備を整える
数字の表記で迷走してます。
刃留めの説明が間違ってたので修正。
2018-10-15 一部文言を追加。
2018-10-22 誤字を修正。
2018-10-26 お金の単位が某書籍化作品と被ってたので修正
2023-09-09 一部文面の修正。設定の不備の修正。単位の計算ミスを修正
その後は「装備を買い揃えるぞ」と言うヴァルザスさんに連れられて最初に連れていかれたお店は古着屋だ。確かに僕と和花は身包み剥がされたから最優先で必要なものだ。
この世界では新品の衣服を身に着けられるのは富裕層だけだ。一般人は中古や自分で繕って着続けることとなる。そのせいか女性には嫁入り前に裁縫技術を叩き込まれる。女性が働く場合でも体力勝負な仕事が多く男性有利な職場が多い中で短時間労働可能な縫物師が人気だという。
デザイン的な違いはあまりなく悩むことなく僕と健司はそれぞれ中古の筒型衣と脚衣に短靴を3セットほど買った。下着に関してはT字帯のようなものが男女共用との事だ。女性の胸部補正下着も存在するが完全に富裕層向けで、普通は布で巻くか着けないかのどちらからしい。
「それだと小鳥遊には要らないな」
下着の話をしていたら健司が笑いながら恐ろしい事を言う。
「健司。人の身体的特徴を論うのはマナー違反だぞ」
「とはいえ事実じゃんよ…………」
健司が僕の表情から言い過ぎたと認識したようで、
「冗談だよ。そう怒るなって」
どう見ても本心だろうけど、ここで僕と揉めるメリットもないし、ここだけの冗談って事で流せって事のようだ。
「今の笑えない冗談は聞かなかったことにするよ」
事実には違いないんだけどこれから一緒に活動するんだから無用なトラブルは避けてもらいたいものだ。これだから巨乳好きは…………。和花の数少ないコンプレックスが胸のサイズだ。せめてCというの時々聞く。なんにしても和花は機嫌を損ねるとフォローで苦労するんだよ…………。
しかし幸いにして和花はまだ店の奥で物色中だ。
通訳としてヴァルザスさんが付き合っている事もあったのかトラブルもなく10分後くらいに和花も会計を済ませて出てきた。結構買ったようにも思える。
「結構買ったね? 持とうか?」
僕はそう言って両手で抱えている袋に手を伸ばす。
「樹君。ありがとう。でも大丈夫だから」
お断りされてしまった。やっぱり下着とか入ってるから気にしてるんだろうか?
その後は冒険者相手に商売している雑貨商へ移動して冒険者としての必需品をヴァルザスさんに説明してもらいながら選んでいく。
防寒用にもなる旅装用頭巾付き外套、2.5サートの綱、小槌、フック、楔20本、水袋、松明6本セット、鉈、木製の食器、中型背負い袋、大袋、小袋、毛布、火口箱あたりを購入し、角灯と燃料となる油瓶、あとは衣服の補修や雑巾にも使える布の端切れと裁縫道具も購入する。
それと財布用の小袋も購入する。小銀貨千枚くらいまでなら納められるそうだ。ちなみにガルド小銀貨の大きさは日本帝国の1円玉くらいである。
後は鍋とか調理道具とか調味料なんだがこれは保留にした。
最後にメモ取るために紙とインクとペンを買う。てっきり羊皮紙かと思ったんだけど、徐々に紙に置き換わってるらしい。ただ紙質がよくないのだろうか? わら半紙っぽい。
「あとこれを買っておくといい」
ヴァルザスさんはそう言って手持ちサイズの青銅鏡を差し出した。青銅を磨いただけのもので写りはそれほど良くはない。勧めた理由は物陰に隠れた際に周囲を窺うのに使うのだそうだ。
意外だったのが天幕は不要と言われた事だ。ヴァルザスさんに言わせると季節的にも今だと毛布も重量増加に繋がるんで本来は持たないそうだ。
天幕に入ることで即応性が失われるし外套に包まって寝るのが基本らしい。更に防具も外さないでベルトを緩めるだけとの事だ。
ゆっくり休みたいときは町で寝ればいいとの事である。
ただし移動が長い時で人数がいる場合は天幕もありだそうだ。四人未満での旅の場合はよほど安全な場所でなければ天幕は邪魔で仕方ないとの事らしい。
背負い袋は大型と中型とどちらにするか迷ったけど、ヴァルザスさんに言わせると基本的には中型で十分らしいのでそれをにした。100リーターくらい入るっぽい。
着替えやタオルも詰めていくとけっこう重量が……。24グローくらいかな?これに更に保存食と武器や防具の重さが常時掛かるのか……。
その状態で毎日平均7.5サーグは歩けるようにならないといけないらしい。主要街道の宿場町の間隔が大3.75サーグくらいなんだそうだ。
普段歩かない僕らには慣れるまでが相当きつそうだ。そう考えていたら次は靴屋へ行くとヴァルザスさんが言い出した。
中古で買った布靴は街中などで普段履くものでありとてもではないが長旅に適したものではない。そこで靴屋で専用の靴を注文する。
こっちの世界だと服同様に靴も中古が主流だ。ただ旅に適した革靴などは自分の足にあったものを作ったほうが良いとされている。最も住民の多くが殆ど住み慣れた地から出る事がないのだけど。
ヴァルザスさんが気難しいそうな職人に要望を伝えると三人とも石膏で足型をとり作ることになる。速乾石膏が乾くまで待たされるのが地味に辛かったのは内緒だ。制作期間は二週間ほどとの事だ。
それまで町で時間を潰してるほど暇でもないので履き潰しても問題ない中古の靴を購入した。
「中古って事は水虫とかは?」
店を出た後で和花が心底嫌そうに聞いてきた。
「アレは嫌だよな。水虫などは生活魔術の【殺菌】で除去するので気にするな」
こっちの世界では革靴履きの宿命のようだ。それ故か生活魔術が使える生活魔術師は一生食うに困らないそうだ。
気が付けばとっくにお昼を過ぎていた。
目の前の大衆食堂っぽい店から漂う匂いに僕のお腹が鳴る。
「そういえば昼がまだだったな」
僕のお腹の音を聞きつけたヴァルザスさんはそう言って扉をくぐる。
店内は混雑時間を過ぎたのか待たされずに4人掛けのテーブルに案内される。
「丁度いいから、下っ端冒険者の平均的な食事を頼もう」
ヴァルザスさんはそう言って給仕に何やら注文する。
ほどなくして給仕が運んできたのはかなり固いパンと塩気の濃いベーコンと野菜が少し入った薄味スープだった。ヴァルザスさん曰く平均的な貧困層の食事らしい。特に主食はこの残り物の小麦と大麦の混ぜ物で焼いた硬いパンかオートミール、地方によっては馬鈴薯やトウモロコシの粉末を練ったモノくらいになるらしい。肉はソーセージやベーコンにして保存がきくものに加工される。ステーキとかは超高級品らしい。ただ魚の養殖は盛んのようでスープの具、燻製、干物、塩漬けとして庶民でも口にできるらしい。野菜も生で食べる習慣はあまりなくスープやシチューの具か加熱調理されたものが一般的なようだ。
今回の食事は一人頭で小銀貨4枚、4ガルドだ。この世界では町中に居る場合は朝と昼にがっつり食べて夜は寝るだけなので少な目らしい。
周りを見回すとベーコンをスープに放り込んで食べるようだ。保存のために塩味の強いベーコンと薄味のスープが丁度いい塩梅になる。やたらと硬いパンはスープに漬して柔らかくして食べるようだ。
味はともかく空腹を満たすくらいには分量があった。食べた後は鍛冶屋に移動し先に防具を見繕う。調整が必要になる事があるので先に買っておこうって事になった。
防具は僕は当面は前衛を担当する事になるので多少防御力は欲しいとの事で硬革鎧一式となった。実は板金鎧一式だと僕の体力じゃ十分な活動が出来なかったのだ。仕方ないので軽くてほどほど防御力のある硬革鎧一式となった。体型が標準の範疇だった事もあり微調整で済んだ。軽いといっても総重量は9.6グロー程あり一式着込むと違和感を感じる程度には重い。実際にはきちんとフィットすればそこまで重く感じないとの事だ。
一方で健司は有り余る体力と膂力で板金鎧を注文した。採寸して特急料金を支払っても1週間ほど製造にかかるそうだ。残念ながらゲームのようにポンと手に入るわけではないらしい。
和花の方は女性の従業員に採寸してもらったんだが、ここで革職人の人がヴァルザスさんに何やら確認を取っている。気のせいか和花をチラチラとみているような…………。
ヴァルザスさんの返答を聞いた革職人が可哀そうな者を見るような目で和花を見る。
「いったい何を聞かれたんですか?」
予想は出来たけど好奇心に負けて思わず聞いてしまった…………。
「年齢を聞かれたんだよ」
しかし予想外の回答が返ってきた。
「どういう事です?」
「成長期の女性は成長に合わせて何度か胸部装甲を作り直さないといけないんだが、胸部周りの装甲を切り取った後に継接ぎするんでその影響で防御力と耐久性が落ちる。さらに見栄えも悪くなる。おまけに改造費用も馬鹿にならない。そういう理由で皮鎧を勧められたんだよ」
成長期って胸のだよね?
「15歳と答えたら、「なら胸部の成長はあまり気にしなくていいですね」と言われたのさ」
「…………やっぱそこに行きつくのか…………」
どうやら革職人は和花を12歳くらいと思っていたらしい。
結局は皮長靴に厚手の服の上に胴体だけ皮鎧を身に着けその上にフード付き長衣を着る事となった。ガチの前衛ではないのでこれでよかろうとの事だ。ただ頭部の保護の観点から皮の兜を勧められたが頑なに嫌がったので諦めたのだ。
でも長衣姿は可愛いと思う。
代金を支払い終え僕用の硬革鎧を身体に合うように調整をしている合間に向かいにある武器工房で武器を見ることにする。
見本用に様々な種類の武器が陳列している一角に移動するとヴァルザスさんが必ずこれは持っておく様にと言われたのが、やや大振りの短剣だ。刃渡り7.5リグルほどで取り回しもよく場所を選ばず使えるので予備武器として多くの冒険者が持ち歩くそうだ。
僕と健司は大振りのもの、和花は小振りのものを選んだ。おまけで鞘と剣帯を購入した。
そして主武器だ。[高屋流剣術]の中伝を修めた僕としては打刀は外せないと思ったのだが、ヴァルザスさんからダメだしされた。
「打刀は熟練した使い手が使えば切れ味は抜群だが、冒険者家業で使うにしては継戦能力と耐久性と維持に問題がある。更に打刀の製造は日本皇国のみらしく、こちらで見かけるのは美術品目的の粗悪品ばかりで値段も10倍以上する。対人戦を重視した警護専門の冒険者なら構わないだろうけど――――」
ただし、その場合は殺人も辞さない覚悟が必要だと言われたが、まだその覚悟はちょっとなぁ……。
それならゲームやアニメや漫画でも定番の片手半剣にしようかと思ったのだが、ヴァルザスさんがこう指摘した。
「片手で使うには重いし長いしで手首を使った素早い返しがやりにくい。両手で使うには長さも重量も大剣に劣る。万能な用途に使える反面、慣れないとどちらの長所も生かせないぞ」
更にもう1つ問題があった。かなり重いのである。
打刀は1.2グローほどだけど片手半剣は約3グローほどある。うちの練習用刀はやや手元重心傾向なうえにこれだけ重量が違うと、とてもじゃないが同じ感覚では使えない。剣の重心は特注すれば調整できるそうだけど軽量化のために材質の変更とかまで要求すると結構高額になるとの事だ。
更にヴァルザスさんはこうも言った。
「[高屋流剣術]は道場剣術として完成されてるが、お上品な道場剣術ゆえに怪物相手じゃ持ち味を生かせないことも多い。怪物などを倒すには向かないし、1度学んだ技術を崩してみるのもアリだぞ」
そう言われてなぜか納得がいったので、迷ったんだけど……それでも剣は男の浪漫だと思うんだよねって言うことで片手剣の広刃の剣を選択した。全長25リグルの片手用の剣だけど打刀より重く2.4グローあるんだよねぇ。
そうなると左手が空く事になるのだけど、楯は格好悪いし、これまで使う習慣がなかった事もありどうしようかと思い悩んでいるとヴァルザスさんが刃留めを薦めてくれた。これは受流し用の小型の楯の一種なのだが、利き手の反対側の前腕に装着して斬撃を逸らす目的の楯なのだそうだ。見た目は前腕具の一種で厚い装甲で軽い一撃なら受け止めたり打撃を逸らしたりするそうだ。ちなみに大型の武器を直に受けると衝撃で前腕がポッキリ折れる事もあるので注意するようにとも言われた。
形状的に飛び道具を受けられないし、盾打撃にも向かないと言われた。
あと飛び道具を何か1つ用意しろと言われたけど、何がいいんだろうか?
僕と健司は悩んだ末に投擲短剣とか漫画に出てきそうな装備で格好いいよねって短絡思考で10本ほど用意した。肩から袈裟懸けにする専用の収納ベルトも購入する。
「そいつは有効射程が2サート程度だぞ。それ以上の距離が開くと皮鎧すら抜けなくなる。きちんとしたものを買っておけ」
ヴァルザスさんにそう注意されたので、僕は軽弩を健司は膂力があるので大型の重弩を選択し、矢筒と太矢を30本購入した。
これで僕の装備の全備重量52グローくらいになる。こんなん装備して平均7.5サーグも歩くのがデフォかぁ。
健司はあれこれと大型の武器を触っては棚に戻してを繰り返していた。
「俺の武器はこれにするわ」
健司がそう言って手に取ったのは三日月斧という長さ38リグルと短めの竿状武器だ。斧と名が付くが刃は縦に長く先端は尖っているので突き、斬りと使える。重量もかなりあり9.6グローと人が振り回す武器としてはほぼ最大重量の分類になる。
一方で和花の方は割りとあっさり決まった。
主武器に六尺棒を選択し、飛び道具は投石紐を選択した。
「なんでそれにしたの?」
そう和花に聞いてみた。
「ん……。杖術習ってるから馴染みがあるからかな。それにこの投石紐だっけ? そこら辺の石でも拾って使えるし便利かなって」
「しかし全員前衛って事になるのか…………」
思わずそう呟いてしまった。
「いや、樹と和花は高い魔法使いの素養がある」
僕の呟きを耳にしたヴァルザスさんがそう言った。
魔法!これは浪漫の魔法戦士を目指せという啓示!
どーして簡潔に書けないのか?
ブックマーク、評価、感想、誤字報告などありがとうございます。




