表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/678

95話 難敵②

(いつき)!」

 健司(けんじ)の叫びに反応した時にはもう遅かった。

 暗闇から電光が迸り僕を貫く。


 後ろでも悲鳴が二つ上がった。


 僕を貫いた【電撃(ライトニング)】の魔術(ギャルダー)和花(のどか)とセシリーにも及んだのだ。

 肉の焼ける匂いと引き攣るような痛みに耐えて振り向くと【電撃(ライトニング)】の射線から外れていた瑞穂(みずほ)が二人の様子を見ている。程なくして首を縦に振る。どうやら死んでいないようだ。


 闇雲に突っ込むの自殺行為だ。かといって和花(のどか)たちを置いて撤退は出来ない…………どうすれば…………。


 待てよ、奴はどうやってこちらを視認しているんだ? 

 状況的に【視野共有(シェア・サイト)】はありえない。かといって集中が必要な【魔術師の眼(ウィザード・アイ)】もあり得ない。そうなると、第五階梯の【遠見(ビジョン)】か第六階梯の【暗視(ナイトビジョン)】の魔術(ギャルダー)か!

 それなら…………。


「目と耳を塞げ!」

 そう叫ぶと素早く呪句(タンスラ)を唱え、呪印(タルムー)をきる。

綴る(コンポーズ)統合(インタグリム)第三階梯(イリルク)攻の位(アェクス)(グリーム)白光(ビアンカ)輝き(イスマ)閃光(フリッツリクト)轟音(ロー)解放(リリース)炸裂(エクレーター)発動(ヴァルツ)。【閃光炸裂フラッシュ・エクスプロージョン】」


 僕の魔術(ギャルダー)は完成し【漆黒(ダークネス)】の前で閃光が広がり爆音が周囲を包んだ。

 魔術(ギャルダー)か特殊能力で暗闇のこちらが見えているとしたら閃光は十分効果があるはずだ。

 それを裏付けるように【漆黒(ダークネス)】の奥から人のものとは違う絶叫が上がった。


 ここでさらに追撃をかける!

 再び素早く呪句(タンスラ)を唱え、呪印(タルムー)をきる。

綴る(コンポーズ)統合(インタグリム)第四階梯(ギデク)破の位(ツホ)境界(イウォン)素子(マァナ)霧散(セオ)虚無(ネオン)発動(ヴァルツ)。【万能素子消失(フォビドゥン・マナ)】」

 魔術(ギャルダー)の完成とともに周囲の万能素子(マナ)が霧散していくのが分かる。これで僕らは真語魔術(ハイ・エンシェント)を使えなくなる。

 相手が不利を悟って逃亡してくれと祈っていると…………。


 暗闇から現れたのは大剣(グレートソード)を担ぐ筋骨隆々たる肉体に黒山羊の頭部を乗せたような体長0.75サート(約3m)に及ぶ巨体の()()()()()()だった。


「なんだありゃ?」

 健司(けんじ)が間抜けな声を上げる。それを合図に()()()()()()が迫ってきた。

 完全に不意を衝かれるかたちの健司(けんじ)ではあったがシュトルムが凧型盾(カイトシールド)を構えて割り込み最初の一撃を受け止めた。

「なっ!」

 だが強力な一撃で金属で補強してあった凧型盾(カイトシールド)が破片をまき散らす。所詮は木製だ。

 慌ててシュトルムは下がり体勢を立て直す。辛くも一撃を受けずに済んだ健司(けんじ)も武器を構えなおす。

「何もんだよアイツ?」

 健司(けんじ)がこちらも見ずに問うが僕もよく分からない。

「たぶん上位魔神(グレーターデーモン)だと思うけど、個別の名称とかは分からない」

 そう答えながら激しく後悔していた。

 失敗した! 

 だとすれば黒の神々の信奉者でもある彼らは黒の奇跡(ダークプレイ)の使い手でもあるって事だ。


 有り余る膂力から振り回される大剣(グレートソード)を辛うじて壊れかけた凧型盾(カイトシールド)で往なしたシュトルムがよろめく。攻撃の勢いを殺しきれないのだ。


 だが攻撃直後は隙ができる。そのわずかな隙をぬって健司(けんじ)三日月斧(バルディッシュ)上位魔神(グレーターデーモン)の左大腿部に深々と切り裂く。

「うっし!」

 思わずガッツポーズをとる健司(けんじ)だったが、

「〇§¶ΔΘΞΣ△▲」

 上位魔神(グレーターデーモン)が何やら喋ると深々と切り裂かれた左大腿部の傷が消えていく。


「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ」

 そして同時に健司(けんじ)が左大腿部を抑えて絶叫を上げ転げまわる。

 今のは自らの傷を癒し同じ傷を相手に与える黒の奇跡(ダークプレイ)生命力奪取(スティール・ライフ)だ。

 防御主体のシュトルムを無視してまずは健司(けんじ)を仕留めるべく大剣(グレートソード)を振り上げた時だ。

 無防備な右脇に無数の太矢(クォーレル)が突き刺さる。瑞穂(みずほ)連弩(リピーター)から放たれたものだ。

 そして後ろから駆け抜け健司(けんじ)の元へ行ったのが和花(のどか)だ。

生命精霊(ラナン)よ。こいつの傷を癒して【快癒(ヒーリング)】」

 しかし呑気に回復を待つ上位魔神(グレーターデーモン)ではない。

 瑞穂(みずほ)の牽制の一撃で僅かに遅れたものの振り下ろされる大剣(グレートソード)を僕の片手半剣(バスタードソード)とシュトルムの広刃の剣(ブロードソード)で受けとめる。その衝撃の強さに剣を落としそうになるが何とか耐えた。

 僅かに稼いだ時間で【快癒(ヒーリング)】によって傷の癒えた健司(けんじ)が起き上がる。

「わりぃ。助かった」

 感謝しつつ三日月斧(バルディッシュ)を振るい僅かではあるが上位魔神(グレーターデーモン)に傷を負わせた。


 向こうの魔法もそろそろ打ち止めのはずだ。

(いつき)くん、【快癒(ヒーリング)】打ち止め!」

 和花(のどか)がそう申告してきた。

「セシリーは?」

「気絶してるわ」

 どうやらこっちも打ち止めのようだ。


 シュトルムが凧型盾(カイトシールド)広刃の剣(ブロードソード)で必死に防御しつつ、わずかな隙を狙って僕が片手半剣(バスタードソード)で切り裂く。

 和花(のどか)投石紐(スリング)に持ち替え投石を行い地味に嫌がらせをする。

 健司(けんじ)は[功鱗闘術]の【斬撃】の準備に入るために若干距離をとる。

 そんな健司(けんじ)が気になるのか上位魔神(グレーターデーモン)が意識を向けると絶妙なタイミングで瑞穂(みずほ)連弩(リピーター)による牽制射撃が入る。

 打たれ強さ(ヒットポイント)が高いとは言ってもチマチマ削ればそれは徐々に効果を表す。次第に動きが鈍くなり始めた時、

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 健司(けんじ)の乾坤一擲の【斬撃】が上位魔神(グレーターデーモン)の肉体を大きく切り裂く。悲鳴を上げる上位魔神(グレーターデーモン)の隙をつき僕は身体ごとぶつかる勢いで片手半剣(バスタードソード)を突き刺す。

 それでも死なず、シュトルムの広刃の剣(ブロードソード)も突き刺さるが不死身なのではないかと思い始めた時、

「もういっちょ!」

 僅かに上体が下がった隙を見逃さず健司(けんじ)三日月斧(バルディッシュ)が黒山羊の首を切り落とした。


 倒れ伏す上位魔神(グレーターデーモン)を油断なく眺めていたがピクリとも動く気配がないので気を抜くと上位魔神(グレーターデーモン)の肉体がまるで霞のように霧散していき後には奴が使っていた大剣(グレートソード)だけが残されたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ