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0話 運命の前日譚

序章-改稿版の改稿版です。


2018-10-13 誤字脱字を修正

2020-07-05 タイトル変更に伴い新規作成

 西暦2275年4月某日、桜の花びらが風に舞い踊るある日の事だ。


 ここ日本(やまと)帝国と呼ばれる海洋国家である。四度目の世界大戦が終わり早50年戦争の傷跡も癒えつつある。


「もう会うことはないだろうが達者でな」

 そう言って偉丈夫は僕の頭を大きな手でくしゃりと撫でる。僕を撫でる偉丈夫は嘘か本当か魔法がある世界から来た異世界人なのである。


 この人物とその隣に佇む銀髪の美丈夫は二年前、僕が七年(中学一年)生の春先に突然我が家の庭に現れた。当初は驚いたのだが、歴史書に記されていない裏事情を知る父曰く、我が高屋(たかや)家を含む、始まりの十家と呼ばれる存在もその異世界人が関わっているとの事で食客として丁重に扱う事となった。詳しい内容は成人した際に伝えられる事だという事でそれ以上の事は聞く事が出来なかったのが残念である。


 当家は武門の家で[高屋流剣術]の道場を開いており、二人に暇を見て鍛錬をしてやって欲しいと請い彼らはそれを快く引き受けた。彼らの世界は人同士の戦いが多く武装警察や防衛軍に太いコネ(パイプ)のある当家にとっては得難い経験となった。


 残念な事にどれだけ強請っても魔法を披露してくれる事はなかった。ただ所々使ったと思われる形跡のようなものはあった。


 時折ふたりでふらりと数日居なくなることがあり戻ってくると海外の土産を持ってくる。旅券(パスポート)はない筈なので魔法で移動してるのではと勝手に妄想していた。


 気が付けば一年以上が経過し八年(中学二年)生の秋だった。彼らは僕と幼馴染の小鳥遊(たかなし)和花(のどか)、中等部から編入し親友と呼べる六道(りくどう)竜也(りゅうや)の三人に唐突に魔法を披露してくれたり、魔法についての簡単な講義や対策を語りだしてくれた。これが後程役に立つとはこの時は誰も想像していなかった。


 そして九年(中学三年)生の春。唐突に「帰るわ」と言うと一週間ほどで二年で築いた関係各所に挨拶をして回りうちの庭で【次元門ディメンジョン・ゲート】を開く。


 別れの挨拶の前に僕、和花(のどか)竜也(りゅうや)の三人に腰袋(ベルトポーチ)を渡していく。この腰袋(ベルトポーチ)は古典ラノベなどによくある魔法の鞄(ホールディングバッグ)であり六畳間ほどの容積も収容できるという。欠点は腰袋(ベルトポーチ)の口より極端に大きいものは収容できない事、生物は収容できない事、専用化しないと誰でも利用できてしまう事を注意される。


 特に感動の展開もなく彼らはあっさりと去っていく。この時僕は彼らと共に異世界に行こうかずっと悩んでいた。


 臆病な僕は結局行動に移す事は出来ず黙って見送る事になる。




「専用化するか…………」

 自分用にしてしまえば万が一に盗難にあっても大事なものは守れるのではと思ったからだ。これに異を唱えたのは親友の竜也(りゅうや)である。


「何かあった時は誰でもこの中の物を自由に取り出せないと困るだろ?」との事であった。彼は災害などの時に必要な水や非常食や野営(キャンプ)道具などを詰め込むと言う。


 五月になると事件(イベント)が発生する。

 竜也(りゅうや)和花(のどか)に告白するからと何故か僕に了解を取りに来たのだ。政略的に敵対関係にある高屋(たかや)家と小鳥遊(たかなし)家では付き合うなんて無理な話だし僕自体は諦めていた事もあり「頑張れよ」と心にもなかったことを言った。

 二等市民(一般市民)竜也(りゅうや)と武家、それも始まりの十家という名家の娘の和花(のどか)が付き合えるはずがなかろうと思っていたからである。


 だが結果は違った。


 肉体的にチートな竜也(りゅうや)は陸上競技の日本記録を全て塗り替えたのだった。無論中学生の日本記録ではない。


 将来を渇望された彼は一気に注目を浴び二等市民(一般市民)でありながら武家入りを果たせるのではないかと連日ニュースになったほどである。


 和花(のどか)と付き合いだしたものの特に大きな変化はない。年齢的にもそろそろ性欲が強くなる頃だが、まず名家の和花(のどか)相手にママゴト以上の関係に進むにはかなりの覚悟が必要である。


 武家には政府と武家の会議で決められた相手と結婚が義務づけられている。これは優秀な血統の維持という名目だ。婚前交渉は認められているがあくまでそれは同じ武家同士だからであって。武家と二等市民(一般市民)ではバレれば二等市民(一般市民)の方は当事者は処刑、一族は重罪というかなり理不尽な法律が存在する。


 いつも通り三人でつるんで遊んでいたので表面上はいつも通りであった。


 六月に入った頃から竜也(りゅうや)は注目されはじめると急に人が変わったようになる。能力至上主義的な事を言い始めたのだ。


 曰く、自分は選ばれたエリートなので慣例を破っても問題ない。

 曰く、なぜ自分が血統だけの無能より待遇が低いのか。


 日に日に高圧的になり周囲には彼におもねる男女が集まり始める。


 七月になり少し早いが僕にも武家に生まれたものの義務として結婚相手が決まったと打診があった事だ。普通は十一年(高校二年)生くらいに決まるのだが、政略的な理由だろうか? これも珍しい事に数日後に顔合わせとなった。


 相手は同じ始まりの十家の花園(はなぞの)家の長女である花園(はなぞの)美優(みゆう)であった。彼女は一学年下だが学校では三大美少女などと呼ばれ有名なだ。

 僕は五男なので花園(はなぞの)家へと入る事になる。当面は内密にという事であったが何度か交流する機会があった。僕としては長い夫婦生活において精神的波長の合わない者と過ごすのは地獄だなと考えていたのだが思いのほか感触がよく政略的に添い遂げられない和花(のどか)を諦めるには都合がよかった。


 一族や政府が決めたレール以外を歩めないかわりに数々の特権を持つ武家の身分に嫌気を感じつつも月日は流れ十年(高校一年)生の春となった。


 そして運命の歯車が回り始める。

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