火炎1 表
彼女は入院していた病院からある場所へと向かっていた
立ち止まり、病室でコートを着た刑事に渡された一枚の紙を見直す
三郷超常現象探偵事務所
本当は退院したその日、彼女の親戚が病院に迎えに来ることになっていたのだが
前日に彼女が断ったのだった
暫くは帰ってこれないので友達に挨拶をしてくると
親戚は一人で大丈夫かと心配していたが
彼女はしっかりとした声で〝大丈夫〝と言っていた
本当は友達と会うと言うのは嘘であり、ショックのあまり自ら命を絶つ訳でもない
どうしても、気になる事があったのだ
あの日、彼女が見たものは何だったのか
その答えがその場所に行けば解決するのか
彼女は藁にもすがる気持ちだった
持っていた紙をぐっと握り
再び歩き始めた
「三郷超常現象探偵事務所」
看板がかかっていた
ビルのような二階建ての建物、上の階に事務所がある
一階は不動産屋のようで、物件の間取りが書かれた紙が沢山窓に貼られている
階段を上がり扉の前に立ち、ノックをした
扉の小さなガラスに人影が映り、ゆっくりと扉が開く
そこには二十代であろうスーツを着た若い男がいた
男はじっと彼女を見る
じっと
「あの・・・」
視線に少し耐えきれなくなった彼女が言うと
若い男は優しく微笑み
「ようこそ、三郷超常現象探偵事務所へ」
そう言うと軽く頭を下げた
「ご用件は?」
彼女は手に持っていた紙を出し
「刑事さんにここに来て見るといいと言われまして」
若い男は紙を手に取り、紙を見て
そうですか、と言う
「どうぞ、私は少し電話をしてくるのであちらの椅子に座ってお待ち下さい」
そう言うと男は事務所の奥へと入っていく
彼女は軽く会釈をしながら二人掛けの椅子に座った
あたりを見回すと、沢山の本とファイルが本棚に並べられている
背表紙には
「超常現象の起源」
「人智を超える力」
それに似た本ズラリと並び
ファイルには、年号が書かれていて、古い年号順に左上から並べられている
本棚の向かいにオフィスデスクがあり綺麗に整頓されており
デスクの後ろには透明なボードに白い文字で
「20xx年 x月x日 百合毛市 薬品工場火災事故 現場には三十人近くの遺体がありその半数は子供の遺体 」
「Tracker 駅前のパチンコ屋 」
「PPO. 中之条 庄之助」
等の言葉が乱雑に書いてある
「紅茶でいいですか」
若い男が奥からカップを持ってで出来た
彼女が大丈夫ですと返事をすると若い男は微笑むと
スッと彼女の前にカップを置く
あたりにいい香りが漂う
男は彼女の対面に座ると両肘を膝に乗せ
「お待たせしました、私はここの所長の〝三郷 翔太郎と言います」
「しょっ所長さんですか」
彼女は驚いた
所長に〝さん〝を付けて言ってしまうほど
見た目が若い男だったので
電話をすると言っていたのも上の人に連絡を取っていると思っていた
「ここにいるのは私だけなので、必然的に私が所長となっています」
なるほど
彼女は小さい声で言う
男は手を組み〝それで〝と言う
彼女は男を見る
「ここは事務所の名前にもあるように、普通では考えられない事を専門に調査しています」
超常現象
彼女の脳裏にあの晩に見た事がフラッシュバックする
燃える人影
少し体が強張る
「・・ずは」
彼女は男の声に我に帰り、男を見る
男は優しく微笑み
「まずは君の名前を教えてもらってもいいですか」
彼女は唾を飲み込み言う
「鷲宮 栞 (わしみや しおり)です」