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可愛い後輩の隣人さん  作者: 堺川天馬
8/30

8話 遊びに来ると良い

「随分とお疲れだな」

 天莉さんから逃げて教室に辿り着いた俺は周りの視線を気にしないために机に突っ伏していた。

 そこで声からして恐らくにやけているであろう柊に話しかけられた。

「見てたぜ。朝から二人でイチャつきながら登校して来るなんてお前も良くやるよ」

 柊はそう言って俺の前の席に座る。

 俺は突っ伏しながら返す。

「……ホントに、あの子は何を考えているのか分からん…てか、見てたんなら助けろや」

「お前に気でもあるんじゃね?」

「……ハッ」

 鼻で笑って否定する。何度も言うようだがそんな事はある筈がない。彼女は俺をからかうためにやっているだけで断じて恋心によるものではない。

「でもまぁ、流石にちょっとお前になつきすぎではあるな。お前、もしかして過去にあの子と会ってたりするんじゃね?」

「はぁ?」

 ありえない。もし過去に彼女と会っていたのなら、俺があれ程の美少女を忘れる筈がない。よって俺は彼女とは会ったことがない。証明終了。

「まっ、もしあれが本気じゃないなら周りも近い内に気づいて今朝の事なんて忘れるさ。だから気にすんな」

「……そうする」

 今日ほど彼の存在を心強く感じた事はない。

 その時、教室のドアが開く音がした。

「真澄く~ん?」

 そして聞こえた天莉さんの声。

 瞬間、教室内が一斉にざわつき始めた。

「うっわ、あれが噂の一年生か」

「めっちゃ可愛い」

「俺見たぜ。さっき男と腕組んで登校して来てた」

「おい、それじゃあここに来たのって…それに今真澄って言ったか……?」

 突っ伏していながらも視線が俺に集まってくるのが分かった。

 言いましたね。言いましたとも俺の名前をハッキリと。しかも先輩付けなしの普段通りに……。

「あっれ~?クラス違ったかな?」

 違います。君の探している人はこのクラスにはいません。なので今すぐ回れ右して自身の教室に帰ることをおすすめします。

 と思っていた矢先、俺は友人の裏切りを目の当たりにする。

「弥生く~ん。こっちこっち」

「あっ、柊先輩!」

 柊てめぇぇぇ!!なに彼女を招き入れてくれてんだこの野郎!そこは無視を貫くパターンだろうがぁぁ!

「やぁ弥生くん。何か用かな?」

「えっと、真澄くんを探しているんですけど、何処にいるか知りませんか?どうやらこの教室にはいないようなんですけど」

「結城か。結城はな…」

 止めろ~。言うなよ~。絶対に言うなよ~。

「ここで突っ伏しているのが結城だよ」

 言いやがったよコイツ。後でシバく。一度も勝ったこと無いけど。

「真澄くん?」

 天莉さんが隣に立った。だが俺は無視を決め込む。

「真澄くん。無視は良くないよ」

「……」

「もしかしてさっきの事怒ってる?ごめんね。出来心だったの」

「……」

「ねぇ、返事、して…?」

「……」

「……グスッ、へんじ、してよぉ…むし、しないでよぉ……」

「弥生くん泣いちゃったよ!?」

「あぁ!良く寝たなぁ!あれ~天莉さんどうしたのぉ?俺に何か用かなぁ!!」

 流石に泣かれるのはまずいので、俺は半分自暴自棄になりながら起き上がる。

「やっと起きた」

 が、彼女の目には涙なんて一粒も溜まっていなかった。それどころか物凄い笑顔だった。

 嵌められた……。さっきのは演技だったわけか。泣き真似もできるなんて、もう高校生止めて女優とか目指せよ。絶対にプロ目指せるから。

「てか、お前もグルかよ…。本当に友達止めよっかな……」

「悪かったよ。でも今回に限ってはお前が弥生くんを無視するのが悪いんだぞ」

「悪いんだぞ」

 天莉さんが柊の言葉をリピートする。君達仲良いね。

「で、何の用?」

「そうだった。はいこれ」

 天莉さんが机の上に置いたものは彼女特製弁当だった。

「渡すの忘れてたから」

「あ、ありがとう」

 俺も弁当の事はすっかり忘れていた。ありがたい。昼抜かずに済む。

 しかし……何もここで渡すことないじゃないか。こんな人目につく教室で渡したりなんてしたら……、

「うっそだろ。弁当だってよ。結城が一年から弁当貰ってるぞ」

「あの二人本当は付き合ってるんじゃないの?じゃないとおかしいでしょ」

「なんて羨死万死」

 ほら、こうなるじゃないか。これでますます誤解を解き辛くなった。

 俺はため息を吐いて天莉さんを見た。彼女は「あはは…」と気恥ずかしそうに笑っていた。恥ずかしいなら最初から学食で渡してくれたら良かったのに。

「天莉さん」

 俺は先程の事も踏まえて彼女に注意を促す。

「今後、さっきのような事は控えるように。もし次同じことしたらもう一緒に登校しないから」

「…ごめんなさい……」

「そもそも、何故あんなことしたんだよ」

「だって……」

 天莉さんは胸の前で両手人差し指をツンツンとしながら答える。

「だって、校舎に入ったら真澄くんと離れ離れになっちゃって、寂しくなるんだもん……」

 あまり答えになっていない気がするが。

「そりゃあ学年が違うからね。仕方ない」

「それはそうだけど…」

 しょんぼりとする天莉さんに俺は仕方なく、ある条件を持ち掛けてみる。

「だから今後、休み時間好きなときにここに遊びに来ると良い。それくらいなら俺は止めないよ」

「……いいの?」

 天莉さんの表情が明るくなる。

「いいよ。けど俺だってずっといるわけじゃないからね。いないときは諦めてよ」

「うん!分かった!」

「そういうことだ。ほら、早く戻りな。もうホームルーム始まるよ」

 天莉さんは時計を確認すると慌てて自身の教室へと帰っていった。教室を出るとき、手を振ってきたので俺も軽く振り返しておいた。

 机に置かれた弁当を鞄の中へとしまっているとおもむろに柊がこんなことを言い出した。

「お前ら、もう付き合っちまえよ……」

「なんでだよ…」

 苦笑いでそうツッコミを入れながら、俺は一限目の英語の準備を始めた。

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